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大渕秀行という男 - 連続ドラマW「坂の上の赤い屋根」

【当ブログは作品のネタバレを含みます】

毎回熱心に追っていた連続ドラマW「坂の上の赤い屋根」が最終回を迎えました。

一足先にWOWOWオンデマンドで全話視聴済みだったとはいえ、何度も視聴し、結末を知ってから見返すと視野が変わって面白さが増すイヤミス(読後にイヤな気持ちになるミステリーのこと)ならではの後を引く快感に浸りっぱなしの3月を過ごしました。

本作を見るきっかけとしては、ドラマの放送決定のリリースで死刑囚役をA.B.C-Zの橋本良亮さんが演じることを知り、タレント自体のことは深く知らない中で、女子高生を洗脳し殺害を課かすという他のドラマではなかなか見ないシナリオに惹かれ、以前見た「夜がどれほど暗くても」でWOWOWドラマのクオリティが最高なこともあり、視聴に至りました。

ちょっと前に作品に対してのライトな感想をブログに書きましたが、橋本良亮さんが演じる大渕秀行にただひたすらに翻弄された結果となりました。作中にも出てくるワードですが、「大渕ギャル」にならざるを得ないような、同情の余地を感じる人物でした。

最初のシーンでは彩也子は洗脳され大渕の手の中で殺害を実行した描写があり、またその裁判で法廷画を描いた礼子が大渕の美しさに惚れ込み極中結婚をする、大渕による特大の人たらしが露わになっていた。
さらに、大渕が学生時代に働いていたイベント会社の社長も、ホスト時代にパトロンとして構えていた聖子も、みな大渕に魅了されているようだった。

このシーンの演じ分けが見事に細かくて、逮捕前の茶髪で襟足が長く自信に溢れた表情や、出廷してきた際の暗い茶髪で襟足がスッキリしたストレートヘアも、年を老いても綺麗に真っ黒な髪色も、人たらしの大渕の見せ方を上手く再現していて、どれも本当に居そうなほどリアルだった。

ただこれは髪型の変化だけではなく、役を演じた橋本良亮さんの体型にも反映されていた。
逮捕前は細身だがありがちなスーツやシャツの着こなしで、礼子が幻覚を見た玄関前で佇む大渕は細身で儚さを感じさせる容姿にて演じ分けをしていた。これはなかなかやれることではないし、どういう時系列で撮影していたのかを是非聞きたいくらい興味がある。並大抵の努力ではこなせないと思う。凄い。流石です。

回想のシーンで特に好きだったのは、彩也子の両親の遺体損壊後にコーラを夜道で飲みながら歩く場面と、赤い屋根の家の前で彩也子の名前を呼んで手を振る大渕の顔。残忍なシーンをかき消す、あまりに爽やかな描写で無理矢理風通しを良くするミスマッチさが癖となった。

話が進むにつれて、登場人物それぞれの「誰かに自分を認めてほしい」という欲求が丸出しになっていく。それは礼子が大渕に、聖子が大渕に、大渕が彩也子に、橋本が母親に。それぞれの矢印がはっきりと見えてくる。

大渕は礼子を捨て駒として利用しようとしていたが、機能しなくなったら自分のパトロンだった聖子の話をして立場を弁えさせようとしていた。現妻に持ちかけるにはあまりにも生々しいと思うが、競争心を掻き立てるにはぴったりだった。ホスト時代の聖子に対しての色恋営業が側から見ればイマイチだったのもポイントで、その隙間のある駆け引きに聖子は抗えなかったと思う。

でも一番に話したいのが、大渕が彩也子に向けた大きな矢印。実際の犯行は彩也子が暴れ狂うのを大渕が腰を抜かして目撃したのみで、彩也子の執念による行動だった。裁判で大渕を首謀者として陥れ、肉体関係をもっていたことを悪事の証拠として提示された際に、大渕は何を思ったのだろうか。

「彩也子がそう言うならそうでしょう」
の一点張りを繰り返す大渕の目がとても純粋で、どこか遠くを見ていた伏線がこう繋がるのかと最終話にして大きく唸りを上げた。
視聴者としていつしか大渕と彩也子の共依存を夢見ていたが、本当のところは大渕の一方的な愛情によるものだったのかもしれない。

大渕は死刑判決を下され、彩也子は無期懲役になったのも、事件から18年が経っても容姿が劣らずに檻の中で身体を動かしていた大渕は、いつか彩也子に会える日が来てもそのままのかっこよさでいようとしていたのではないかと思うと、心が痛む。

大渕から庇われた彩也子は何を思っていたのだろうか。自らの罪のレールに乗せてしまった大渕を悔いていたのか。無期懲役中に自殺を図って死に至った彩也子は、ただただ刑を逃れたかっただけだったのか。考えると眩暈がする。

大渕の自叙伝をフィクションを混ぜて偽装していた担当編集者の橋本から、自分を支持してくれた者と、遠く恋焦がれていた彩也子の死を聞いてから、みるみるうちに青ざめて目が出そうになる。

この橋本との対峙シーンは、橋本良亮さん自身も事前インタビューでおっしゃっていた通り、迫真の演技を見せていた。

罪を被るほど愛していた恋人の死の知らせは、そりゃ身体中から何かが出そうになるほど震え上がるはず。後に彩也子の名前を連呼しながら鬱々とし、大渕も自殺を図るという話の流れを見事に再現していた。何一つ嘘臭くなく、感情移入できた。

私が大渕ギャルとしての目線でいうと、大渕をここまでハマらせた彩也子も、大渕と獄中婚をした礼子も、橋本に彩也子だと乗せられて礼子の逆恨みにより殺された小椋沙奈も、結果として大渕の死をもって永遠となれた羨ましさに舌を噛み切っていたと思う。
黒幕として動いていた聖子の存在を知ったら、もっと狂うはず。
世間からは大渕の死はただの死刑囚の死でしかないが、大渕ギャルにとってアイドルの絶命と変わらないと思う。きっとみんな後追いしちゃうのかなぁ。

どのみち大渕は人を狂わせ、人に狂わされた孤独な人だった。遺骨の引き取り手はいたのかも気になるよね。

ここまでドラマに熱心になるなんて思いませんでした。各出演者の魂を削るような演技(私は斉藤由貴さんの役どころも好いておりました)とともに、今作品で橋本良亮さんの演技の幅を見れてとても最高でした。

結果として、橋本さんのアイドルとしての姿も見たくなり、A.B.C-Zの楽曲やライブ円盤、YouTubeに上がっているMVを見るほどハマりました。さらに、縁を感じてえびのFCにも入りました。この行動をもって橋本さんへの誠意を見せたい。つまりは、それほどあなたにハマったよってことです。

次に橋本さんの演技を見れるのは舞台がいいなと思いながら、熱量を保っていたい所存です。

本当にこの作品に巡り合わせていただきありがとうございます。

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