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#11 たゆたえども沈まず

 昨日朝のNHKニュースで、”浜田マハさん”というキャプションがスクリーンに映っていた。「アレェッ?」たゆたえども沈まずの作者の名前が、何故朝のニュースで?。インタビューに答える浜田さんは、新型コロナで都市封鎖されたパリで過ごした日々と、帰国便で日本に降り立つまでのエピソードを、おしゃれな黒縁眼鏡越しに答えていた。番組後に改めて見た公式ページ記載のインタビューとほぼ同じ内容。”たゆたえども沈まず”

 ”林忠正”という日本人を知ったのは、彼女の著作がきっかけだった。浜田さんの別の著作「美しき愚かものたちのタブロー」を読んで松方幸次郎に感銘し東京上野の国立西洋美術館の”松方コレクション”を観に行ったら,なんと二階で林忠正展「林忠正 ジャポニズムを支えたパリの美術商」が催されていた。浜田さんの小説の登場人物ゆかりの品々を同時に観る機会に巡り合えるとは。パリを一世風靡した「ジャポニズム」、ヨーロッパから見た”極東”(far east)である日本に息づいた江戸の浮世絵をはじめとする独特な空間描画と世界観が、西欧人には新鮮だったに違いない。ゴッホもその一人だった。

 20年ほど前、オランダに出張したとき立ち寄ったアムステルダムのゴッホ美術館で見た”ジャガイモを食べる人々”のとても暗い絵の意味が、この本を読んで、よくわかった。青色と黄色からなる、ゴッホの言う「神様のくれた特別な色の組み合わせ」に至る以前の、あの暗ーい絵がゴッホのrootにあったのだと思った。

 30年ほど前、米国ボストン美術館で見た浮世絵コレクションに驚いた。浮世絵と仏像の”人口密度”は”超過密”で、日本のどの美術館でも見たことがないほど数多く集積されていた。収集に貢献したフェノロサと岡倉天心は教科書でも見る名前で、その功績をここで改めて知った。

 ”浮世絵”は”儚い(はかない)版画”の筈だった。”浮世”は、もともと”憂き世”から来たという説があるらしい。今の若者なら、”浮世”は”ウキウキよ!”と笑い飛ばすだろう。飛ばして欲しい。

 セーヌ川の氾濫で何度も危機を味わいながらも「揺れても沈まない」シテ島と花の都パリ。新型コロナの影響があっても、世界は揺れても沈まない。

今流行りの星野源風に言うなれば、
「憂き世な浮世を、傘なり愛、ウキウキ生きよぅ。」


”たゆたえども沈まず”

(写真は、林忠正展のチラシ)