#13 ペストとルネサンス 、ジャガイモと移民
14世紀のヨーロッパ社会構造の大変革を引き起こした原因の筆頭に、世界的な感染症大流行したペスト(黒死病)がある。当時の医療体制ではペストの死亡率は、現在のエボラ出血熱を上回るすさまじさで、イングランドの総人口の3分の1が死亡したという。それまでの権力構造が崩れ、イタリアではルネサンスが生まれ「中世暗黒時代」と決別し古代ギリシア・ローマの芸術を復興させようと、レオナルドダビンチやミケランジェロらの美術・建築など、新たな芸術活動が一斉に芽吹いた。
疫病による生物的危機は、そのまま人間の社会的危機に直結する。19世紀のアイルランドでは、ジャガイモの病気が広がり「ジャガイモ飢饉」と呼ばれる壊滅的な被害があり、アイルランド人口の少なくとも20%が餓死・病死、10%~20%が国外へ移住したと言われる。この移民の子孫にアメリカ大統領となったケネディ一族もいた。
ジャガイモは本来、南米原産であったが16世紀末にヨーロッパにもたらされた。貧しい農民を救おうとプロイセン(ドイツ)のフリードリヒ2世は”知恵”を絞ったという。ジャガイモを植えた畑に昼間は見張りの兵士を置き、夜になると城へ引き揚げさせる。それまで農民たちは「ジャガイモを作れ。」と命令されても税としての搾取されることを考えて育てようとしなかったらしいのだが、見張りをつけてまで守ろうとするジャガイモの価値に気づき、夜中に畑に忍び込みジャガイモを持ち帰りせっせと育て始めた。押し付けられたことは「嫌」と言い、隠されたものは「見たい」という、人間の本質を見事についた絶妙な方法。さて、持ち帰った農民たちは、やせ地でも育ち長期保存が可能で、厳しい冬を生き長らえる為の素晴らしい食べ物だと気づき、特に北ヨーロッパ中に広がった。ドイツに旅行すると、いろいろなジャガイモの品種があり、おいしいのに驚くが、こんな歴史的背景があったと知ったとき驚いた。日本でいえば、江戸時代の青木昆陽で有名な甘藷(サツマイモ)が相当するだろう。そんな貴重なジャガイモが、一斉に枯れてしまうという病気が蔓延したら、飢饉が生じるのは避けることができなかったであろう。
現在これから起きる農作物の予想される深刻問題は、ミツバチが”群れ”をつくならなくなり、ミツバチを活用していた農作物の受粉ができなくなり食物生産量が減少することが大変危惧されている。原因はまだ不明なようであるけれど、、、、。”ミツバチ飢饉”が起きないことを願うばかりだ。
歴史を振り返ると、ペスト「3分の一が死亡」、ジャガイモ飢饉「少なくても20%が餓死・病死」と、数百年おきにこのようなパンデミックは生じてきた。現在の新型コロナは、生物的な死よりも社会的(経済的)なダメージが大きい。世界が分業化により物流網でつながった現代、”風土病”はもう存在せず、”ヒト”と”モノ”と”ウィルス”が世界を駆け巡る。ウイルスも変異し薬剤に対して耐性をつける中、人間側も行動変容や社会システムの再構築で”ルネサンス”して共存し続けなければならないだろう。それは歴史が証明している。
強くなった”ジャガイモ”を食べながら、よく考え、粘り強く、あらたな”再生”・”復活”をしよう!