#127 算額
和算との出会い
学生のころ書店で棚を眺めていたら,赤い背表紙『日本の幾何 何題解けますか?』(深川 英俊 ,ダン ペドー ,森北出版)に目が留まり,本当に本に惹かれるように手が伸びてパラパラと見たら,「算額」のカラー印刷ページを見て面白そうに思い購入して読みました.この一冊の本との30年ほど前の出会いが,その後の人生の中で時々,「算額」や「和算」と何か”ご縁(えん)”を感じることがあります.
著書との出会い
この本の著者の一人,深川英俊さんと以前,ある学会の研究発表会でお会いする機会がありました.工学系の講演が続く中にタイトルに「和算」を持つ発表がありました.面白いなぁ―と思いながら講演を聞き終わり,頭の中で”イナズマ”が静かに響きました.(おーっ,25年前に赤い背表紙を見て買った,あの「算額」の先生だったんだと.)
算額とは
そもそも「算額」とは何かというと,江戸時代に神社・仏閣に,一般庶民が「絵馬」を奉納するように,数学(和算)の難問とその答えを奉納するというのが流行したそうです.いまでも,いくつかの神社には,当時のまま残っているようです.この本の冒頭のカラー刷りページがそれらでした.
和算
西洋で「微分」イギリスのニュートンかオランダのライプニッツのどちらが早く見つけたかが論争になった時があったようです.日本では,江戸の関孝和さんが独自の方法で同様の考え方を導きだしたと聞いていました.
算法少女
小説を読む中で,たまに和算と”出会う”楽しみがあります.例えば,『算法少女』(遠藤寛子,ちくま文庫)は,著者の略歴が奮っています.三重大学,法政大学の文学部を卒業して中学などの学校で先生として教鞭をとりながら江戸時代の和算書で唯一の女性が著者の「算法少女」という書籍にまつわる歴史小説(フィクション)でした.とても面白かった本の一つであるのと,研究者ではなく授業で学生さんに教えている普段の仕事以外の時間を使って,こんな歴史に埋もれた史料にスポットライトを当て秀逸な歴史小説を書き上げていらっしゃいます。遠藤さんのスゴイ”熱量”に感動しました.
安井算哲
他の和算関係で面白かった歴史小説は,『天地明察』(冲方丁,角川書店)があり,主人公の囲碁棋士を代々輩出している渋川家の渋川春海(のちに安井三哲)が,水戸光圀・保科正之・関孝和という歴史の教科書に出てくる有名人とかかわりながら,日本全国で太陽や星を正確に測定しながら,当時の海外から輸入された誤差の多かった暦に比べて正確な暦を作成した人物でした.その中で,和算の話が至る所にでてききます.
キトラ古墳展示と安井算哲
昨年,奈良県明日香村にあるキトラ古墳壁画体験館の特別展示に,事前申し込みをして修復壁画を見に行きました.古代の天文資料としてとても興味深く感動しました.驚いたことに,展示室の壁画とは反対側の壁に安井算哲が作成した「天文分野之図」が展示してあり,これまた感動しました.キトラ古墳の近くにある高松塚もそうですが,原図は日本で製作されておらず緯度の異なる中国なので,多少の誤差がありました.算哲さんの方は,時代もだいぶ下りますが,日本で測定しているので正確です.すごいぞ,和算のチカラ!!
振り返ってみれば,キトラ古墳の展示室までの道のりは,あの書店の背表紙にひかれて「算額」「和算」に興味を持ったあの日から始まっている気がします.
つながり
誰にでも,今はまだ何かとつながっていないように思える目の前のモノ・コトでも,30年経てば多分何かとのつながりを感じることになると思います. 時には(?)、”計算”どおり(思いどおり)にはいかないものですが、ある時振り返ると(ナァーんだ、失敗も成功につながっていたんだ)と思えます。 そう,今は未来につながっています.