『リーガルリリー YAON 2023』でみつけた光
2023年7月2日、小望月の夕暮れ時。日比谷野外音楽堂で、ひとつの扉がひらいた。野音に声が響いたとき、雨が上がったんだな、とおもった。ばかばっかの戦場にいのちが流れていた。
人生ではじめてのライブだった。はじめてで、右も左も分からないわたしを3人が手をにぎって連れていってくれるような感覚だった。ギターが耳に、ベースが心臓に、ドラムが脳にわたしの知らない衝撃を与えた。あれは、ほのかさんがこの地で2013年に緑黄色社会に受けた衝撃と、おなじものだったのかもしれない。
わたしがリーガルリリーを好きになるきっかけになった曲だった。まさかライブで歌ってくれるとはおもわなくて、こわいくらいに泣くじゃくっていた。涙を拭うのがもったいなくて、流れるのをちょっとだけ待っていた。演奏を聴きながらわたしは、遠い思い出のことをおもいだしていた。いまのわたしは会いたい人に会えている。それでよかったのかもしれない。リリー、と一緒に叫んだ。
空は曇りがかっていたのに明るいなぁ、っておもえた。これから先、どんなに苦しいことがあっても、逃げた先には曇り空に虹をかけてくれる人がいることを知った。
管制塔の退屈をききながら、これはほのかさん自身の気持ちなのかなあ、と考えていた。わたしは帰りたくなくて、せいいっぱいの声でうたった。わたしのたいせつな曲。
そして、ライナーは過去のほのかさん、転じてわたしたちのことを歌っているのかな、と考えた。6人がけの席に座って、わたしはちょっと大人になった気分でいた。
あとからプレイリストを見返すと、とてもきれいなセットリストだったんだな、と感じる。どこかのMCでほのかさんが言っていた、『家と野音が繋がってた。そこには扉があるけれど、自分の好きな音でノックしていい。』という言葉をおもいだす。わたしはそのとき、ほのかさんが発する言葉の意味があんまりわからなかった。だって、家と野音が繋がってるわけないじゃん。野音についてる楽屋が家なのかな、とかそんなことを考えていた。
東京はとてもおおきくて、あかるい。自分の住んでいるところにとってはとてもおおきい家を作ったとしても、東京の高層ビルの中でそれは埋もれて、じきに誰も入らなくなって取り壊されてしまう。東京は夜も光が絶えないから、わたしが放つ光もどこかに見失ってしまう。
ほのかさんにとっての野音も、東京とおなじくらいおおきいものだったんだとおもう。でも、先の見えない暗い未来に闇に撃ち放ったほのかさんの照明弾を、あかりにする人がいた。わたしは3000人みた。10年の時を経てその光が繋がったことが、きっとうれしかったんだとおもう。
野音の空は徐々に日が落ちて暗がりが徐々に増えていた。そこでみた大きな満月のことを、わたしは忘れないとおもう。
「1997年12月10日、わたしはこの世界の空白をひとつ奪いました。これは空白がそれからまたひとつ世界に戻るまでのお話です。」
あたりがすっかり暗くなって、わたしは目の前のステージに釘付けになっていた。君が音楽を中途半端に食べ残していなくてよかった、とおもった。わたしは大きな涙を流して大きく手を挙げることにせいいっぱいだったけれど、あの紫色の照明に照らされながら弾いていた曲は、わたしをたしかに生かしていた。それがたとえ偽物だったとしても、わたしだけの物だと胸をはっていえる。
わたしたちはいつまで走ってもこどものままだけれど、いっぱい転んで少しずつ大人になっていけたらいいな、とおもえた。
金曜日のスクールオブロックで未確認フェスティバルの話をしていて、黒板にもその曲の名前を書いていたから、密かに希望を抱いていたけれど、まさかアンコールで演奏してくれるとはおもっていなかった。ほのかさんが10年前の話をはじめたとき、わたしの胸はとても高鳴っていたとおもう。
わたしの席からは、ちょうど真後ろからほのかさんにスポットライトが当たるようにみえていて、水に満ちたわたしの目には、ほのかさん自身が光を放っているようにみえた。たぶん、あれは彼女の輝きだったんだとおもう。あの星は、いままでわたしがみた中でいちばん輝いていた。
戦場に足を踏み入れてから、たくさんの人を知らないうちに殺してしまった。知らないうちにわたしも、おなかがすいて死んでしまった。
わたしにも光はあるのか。光はなくとも、輝きはあるのか。2003年4月1日にわたしがひとつ奪った空白を返すまでの物語を紡いでみようとおもう。それが3000人を照らすような光でなくてもいい。わたしはどんなに小さな灯火だとしても、だれかにとっての輝きになりたい。ひかりになって、罪を償いたい。
ほんとうは未来なんて真っ暗で、ぜんぜんみえない。だけれど7月2日にみた光は、わたしのお守り袋の中にしまっておこう。そして、未来がみえないからこそ今を、せいいっぱい生きる。
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