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社福経営者向け|今後(まずは地方の保育所・こども園など児童福祉施設から)全国的に大きな問題になると危惧していること:「国庫補助金等特別積立金」の取扱

※すべて私見ですし、長いです。読むの大変です。

要約
人口減少、少子化により社会がシュリンクしていくことは確実だ。主にこども園や保育所など児童福祉施設関係から、今後福祉施設全体の大きな問題になるかもしれないと危惧していることが「国庫補助金等特別積立金の財産処分」だ。
補助金をもらう補助事業であれば、それを転用や廃棄・取壊しする場合には財産処分が必要となる。しかし、今の財産処分のルールでは、廃棄や取壊しに至った経緯などはほぼ考慮されない一律のものとなっている。
そうしたルールのなかで、例えば児童福祉施設を廃止する場合、少子化というその法人や施設の運営の責任に帰することができない事情であっても、返納する必要がでてくる。さらに返納すること(多額のお金がでていくこと)によって、法人経営にまで影響がでてくるところがあるかもしれない。
まだこうした問題は顕在化していないが、いずれこのことが大きな問題となるのではないかと危惧している。
そういったやむを得ない事情や理由には一定のルールを設けて考慮する仕組みにしていく必要があるのではないか。


人口減少・少子化により社会、地域がシュリンク(縮小)していくことは確実

つい数年前まで、「待機児童ゼロ」を旗印に待機児童解消が政策の柱の一つとなっていたこともあり、こども園や保育所などが特に都市部において、多く建てられてきた。
その一方、地方のおけるこども園、保育所ではすでに定員を大きく下回っていたり、出生数の減少により0歳児が全く入ってこないなど、すでに「児童がいない」という状況も散見されるようになった。
それは当然出生数などの統計にも表れている。

厚労省:令和5年(2023年)人口動態統計年報(概数)の概況P4

令和5年は最小の出生数であった。
そしてこの状況は今後ますます顕著に表れることは想像に難くない。

そうした出生数の減少や人口減少にともなって、特に児童関係の施設では、その事業をどう存続させていくか、場合によっては他の事業への転用、再編、撤退・廃業ということも当然視野に入ってくるであろう。

それはこども園等児童関係の福祉施設に限らず、今後の福祉施設全体に波及していくかもしれないと思っている。

愛生会の運営している大湯保育園も令和6年度での閉園を予定している。園児の皆さん、保育士の皆さん、地域の皆さんには、心から申し訳ない(という言葉では全く足りない)気持ちでいっぱいだ。出生数減少のなかで、5年ほど前から、どうにか園を存続させるために再編や指定管理、事業移管、希望する保育士の転籍、無償譲渡など、様々な手を尽くした。
理事や園長含め本当に手を尽くした。
(この経緯についてはいずれまた別な形にまとめたい)

本人による脚注

補助事業で建てた建物等を目的外に使用(廃棄含)する場合、財産処分をしなければならない

こうした状況において、その法人があらゆる手段を尽くしたとしても、現在行っている社会福祉事業の存続が困難になることもあり得るだろう。そのような場合、事業・施設の転用、譲渡、撤退・廃業などさまざまな選択肢を検討していくことになる。
そしていずれの決断をしたとしても、現在行っている事業の施設を建設する際に補助金を受け取っていれば、「国庫補助金等特別積立金の財産処分」を行わなければならない。

すでに法定耐用年数が超過していて償却が終わり、その当該建物に国庫補助金等特別積立金がないという状態であれば、「国庫納付」(いわゆる返納)というものはないが、いずれにせよ財産処分が必要になるかと思う。(行政と要相談)

以下に厚労省とこども家庭庁のそれぞれの財産処分に関する通知を載せている。
(厚労省・こども家庭庁それぞれで財産処分に関する通知がでているが、ほぼ一緒の内容ではないかと思います。違うところがあれば教えてください)

厚生労働省所管一般会計補助金等に係る財産処分について

厚生労働省所管一般会計補助金等に係る財産処分について|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

こども家庭庁所管一般会計補助金等に係る財産処分について

厚労省近畿厚生局ホームページより

財産処分の内容は6種類あり、国庫納付(いわゆる国庫補助金等特別積立金の残存年数分を返納)に付する取扱、付さない取扱など細かく規定されている。

国庫補助金の取扱について
こちらは令和元年の資料だが、財産処分の種類や、形態や取扱等が図にまとめられ、わかりやすく説明されている。
(※ここではこの通知の解説などは、このnoteの主旨から外れるので、別な機会にする)

これらの通知が現状に則したものにはなっていないのではないか、いずれ大きな問題に発展するのではないか

今述べてきたように、転用や廃棄など用途変更する場合には財産処分をする必要があるが、今の通知ではその財産処分にいたる事情(災害のみ)は考慮されず一律のルールとなっている。
私はこのことがいずれ大きな問題になるのではないかと思っている。

その理由を以下に2点挙げます。

理由1:その施設を用途変更する理由となった、その地域の出生数の減少は、その施設を運営する法人の責任なのか

こども園や保育所等の児童関係施設が存続できない理由は、主に少子化であり、出生数の著しい減少だ。その法人がいくらその施設の存続を希望したとしても、子どもがいない、出生数がすくない、という状況では存続することできない。
そしてそうした状況は、その施設の経営や運営に起因しているわけではない。

怠慢な経営をしていて、その施設が存続できないのであれば、返納することは言うまでもないが、その施設を存続したくとも、子どもがいない(需要がない)状況になったことで、その施設を閉じることになったのに、財産処分で残存年数分を返納する、というルールはあまりに理不尽ではないか、と思っている。

理由2:返納することにより経営そのものが立ち行かなくなる法人がでてくる可能性がある

2つ目の理由は、返納することによって、経営そのものが立ち行かなくなる法人がでてくる可能性があるためだ。特に小規模な法人にとっては、経営への影響は甚大だ。
私たちの園も閉園するにあたり、国庫納付と解体費も含めれば数千万円単位で必要となる。撤退するだけでそれくらいのお金がかかってしまえば、その他の事業への影響は避けられない。設備の更新などすべての計画にも影響してくる。
ましては小規模な法人で、その地域で唯一の福祉事業をしているところもある。そうした事業そのものの存続が危ぶまれることになる。

今はまだ大きな問題になっていないかもしれないが・・・

まだこうした状況に陥っている法人が少ない(もしくは潜在化している)ので、大きな問題になっていないが、早晩こうした少子化、出生数の減少などで、その事業の廃止・撤退をせざる得ない状況に追い込まれた際に、この財産処分(国庫納付)の問題が日本全国、特に過疎の進む地方部からでてくるのではないかと思っている。

さらに、上記のように、返納することによって経営が大きく傾く法人もでてくることにより、その地域の福祉サービスが滞ることも憂慮している。

今の通知は、事業を撤退せざるを得ない事情や理由はほぼ考慮されない

今の通知をざっくり言えば、
「(補助事業の実施期間が)10年以上か以下か」
「有償(譲渡等)か無償(譲渡等)か」
ということが、国庫納付に付する(返納あり)か、付さない(返納なし)かの基準となっているだけだ。

これまで見てきたように、存続したくとも存続できない状況になった事情や理由について、(災害を除いて)今の通知は考慮されていない。

財産処分にあたり、「事情」や「理由」が考慮されるようなルールを!

以上みてきたように、今後日本の人口が大きくシュリンクしていくなかで、地域の福祉サービスを守っていくためにも、財産処分にあたり「事情」や「理由」を考慮するようなルールが必要でないか。

当然、「当該市町村から同種の社会資源が充足しているという客観的データがあること」、さらに「他の社会福祉事業等への転用や無償譲渡の可能性を検討してきたこと」など、ある一定のルールを設ける必要があると思うが、取壊し・廃棄にいたった経緯や事情、理由が、「財産処分」に少しでも反映されるようなものになる必要があるのではないかと思っている。

この国庫補助金等特別積立金の問題は、他にもいろいろな問題を内包しているため、少し続けたいと思います。

いずれ、人口減少というこれまで相対したことのない状況になるため、これまではそれでよかった通知やルールが機能しなくなることが予想されます。
それに応じたルールや制度に少しずつでも変わっていったらいいなと思っています。

ちょっと長すぎました。すみません。

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