技術者倫理のレポート

昔、書いた技術者倫理のレポートはこんな感じになった。

まず、お題はこんな感じ。

1.日本原子力学会倫理規定(2014年改訂)について、以下の2点を検討してください。

①他の学会や企業等組織の倫理規定と比較し、その違いについて検討すると共に、原子力学会に足りない視点や、言葉遣い、ニュアンスの違和感等、改善検討する点を挙げてください。

(以下、レポート)

日本原子力学会倫理規定(2014年改訂)の特徴を応用物理学会の倫理綱領と比較しながら、その違いを検討する。

(1)内容の詳細さ

まず、原子力学会の方の規定は、応用物理学会の倫理綱領と比較し、内容がより詳細であることが分かった。

応用物理学会の倫理綱領は、前文と八つの憲章からなる。[1]一方で、原子力学会の方は前文と七つの憲章と大まかに分けて七つの項目の行動の手引きからなる。[2]

応用物理学会の内容は、憲章はあっても、具体的な方策が書いていない。一方で、原子力学会の方は、各々の憲章に対し、行動の手引きという観点から会員がとるべき行動が書いてある。

(2)内容の方向性の共通性と差異

応用物理学会の倫理綱領では、” 革新的技術の開発や新しい材料を創製する応用物理学分野での活動を通じて、社会の発展に貢献することを責務としている。(以下略)”([1]の文献より一部引用)ということを元に考えているため、内容は、社会的責任、社会的信用の維持、法令等の遵守、私的利益の禁止、知的財産権の保護、個人情報等の保護、環境への配慮、そして、研鑽[1]という観点から書かれている。

一方で、原子力学会の内容は、行動原理、公衆優先の原則・持続性原則、真実性原則、誠実性原則・正直性原則、専門職原則、有能性原則、そして組織文化の醸成[2]からなる。

この二つの内容を比較すると、まず、両社とも、社会的な責任という点と個人の能力と社会に研究成果などを伝えることを責務としている点では共通をしている。一方で、応用物理学会の倫理綱領では、社会的な責任のみならず、知的財産権に関することも考慮した内容になっている。そして、原子力学会の方では、主に、公衆に対する責任を重んじた内容になっている。

(3)その他特徴

非常に目的などが明確な文章になっているのが、日本原子力学会の倫理規定だと考えられる。例えば、規定範囲と責任の範囲が明らかになっていることと、それにもまして、技術の本質と意義や技術の存在の理由を前面に出しているのが、特徴だと考えられる。

(4)改善検討する点

原子力学会の倫理規定を見る限り、言葉遣い、ニュアンスの違和感等について問題が生じるとは考えにくいと私は考えた。ただ、一つ気になった点がある。それは、知的財産権に関する視点に関する記述が明確になっていないという点である。この点だけは明らかにしておく必要があると考えられる。現在、インフラやシステムを中心に原子力技術を世界に輸出しようという動きがある。[3]この際に安全性などは考慮しないとしても、知的財産権に関する問題が生じる可能性がある。

知的財産権とは、知的創造活動(創作活動や発明等)により、生み出されたものを、創作した人の財産として保護するための制度である。この知的財産権の内、発明に関することを保護する特許が関心の対象である。特許は発明品の技術を公開する見返りに、申請後20年の間、その発明品に関する販売などの独占権が与えられ、模倣品防止のための保護を受けることができる。特許により、研究開発へのインセンティブを付与し、取引上の信用を維持することにより産業の発展を図ることができる。[4]

この特許権は属地主義であり、各々の国で毎回申請し、特許を得る必要がある。ところが、この特許権にも制限がある。例えば、市場競争が阻害されるということになった場合に発動される独占禁止法や強制実施権(価格の問題や経済以外の要因で問題が生じるなどで特許権を無効化する権利)などで特許権を無効化することができる。

このように、知的財産権に関しては、経済の視点まで考慮すると非常に大切な概念となるが、一方で、供給する際のコスト面や安全面などを無視した場合、紛争ほ火種となる可能性はある。例えば、相手国にとっては、高額なコストで、こちらの企業が原子力の技術になる発明を売りつけることが考えられる。しかも、インフラやシステムを中心に原子力技術を世界に輸出しようという動きがあるので、将来的に生じる経済的な視点で問題が生じる可能性は大きいのではないかと考えられる。

このような経済的な点に関する明確な行動規範がこの倫理規定にはなかったので、Safety-Ⅰの考え方に従い、予防策として一文ぐらいでいいので、経済的な制約を加えておく必要があるのではないかと私は考えた。

(ここで次のお題)

②倫理規定に書かれていることをあなた自身が実行するために、どのような仕組み(浸透の施策)があれば実行しやすくなると思いますか。つい倫理違反してしまいそうになる状況を思い浮かべながら、できるだけ具体的に記述してください。

(以下、レポート)

倫理規定に書かれていることで、実行が行ないにくいのではないかと考えたのは、以下のとおりである。それは、新知識の獲得、自己能力の把握そして俯瞰的な視点を有する人材の育成である。新知識の獲得、自己能力の把握と俯瞰的な視点を有する人材の育成には共通の課題が潜んでいると考えている。その詳細を(1)に記す。

(1)新知識の獲得、自己能力の把握と俯瞰的な視点を有する人材の育成

これらの問題で共通な課題として、専門性に拘泥せずに、どのようにして、幅広い視点を持つかというものがある。

私は化学系のある専門科目を専攻しているので、それを例にする。これは、主に、金属やセラミックスなどの幅広い性質や機械的な評価法を学ぶ。ところが、生物学的なことやコスト面など経済学的な面を軽視しがちである。また、生物学や経済学など他の学問を学ぶ際に、どこが基礎学力なのか特定がしづらいために、他の分野に対する理解が希薄になりがちである。

例えば、先日、ある異分野の論文を読んだが、調査手法を始めとする論文の書き方が私の分野のやり方と大きく違っていた。具体的には、表などがなく「結果」の部分を特定することができなかった。幸運にも、この研究に関して、一部だが、講義で基礎的な事項を聞いたことがあったので結論部分は特定できたが、どのような手法で研究を行なっているのかなどわからないことの方のことが多かった。この原因として、特定の部分以外に関する基礎的な事項が習得できていなかったためだと考えられる。結局のところ、講義でヒントがあったので、何とか理解できたが、何も情報が与えられていない状況で読むことになった場合、理解できたかどうかはわからない。

このようなケースは、仮に、研究者として、原子力の分野に参入する際に、障害になるのではないかと考えられる。具体的には、他分野の内容がわからないために、新知識が獲得できず、俯瞰的な視点が結果として得られず、自分の分野だけでは、うまくいかないはずなのに、自己能力が把握することができないというケースが考えられる。その結果、研究活動や共同研究の際に、独りよがりな研究方針になり、重大なミスリードを引き起こす可能性がある。

例えば、ある共通の目的のために、原子力に関する新しい装置を開発するとしよう。その時に、複数のグループで開発を行なうことになると考えられる。例えば、化学材料開発のグループ、電子制御のグループと機械設計グループなど複数のグループで装置を作製しようとする。ところが、各々のグループは他の分野のことが分からず、各々の専門分野の中でしか仕事をしなくなると考えられる。

その結果、本来、電子制御と化学材料開発と機械設計の境界線上にある問題が解決することができない可能性がある。例えば、化学的には適切な材料選択でも、機械設計の視点からすると、機械全体のバランスが悪くなり、不具合が生じやすくなるようなことがあっても気がつかない。プログラムや電子基板など電子制御には問題ないが、機械設計の視点を取り入れると、不具合が生じるということが考えられる。

このような機械では、現場で使用された時に、重大な不具合など問題に繋がる危険性がある。このようなことにならないためには、新知識の獲得、自己能力の把握と俯瞰的な視点を有する人材の育成が必要だと考えられるが、専門性の壁を破壊するのが先だと考えられる。そのための方策を以下の(2)の項に記す。

(2)(1)に対する対策方法

まず、専門性による分断を防ぐためには、他の分野を知るチャンスを創出する必要がある。他の専門性に触れるのはどうすべきか、一つの方法として、相互に教えあうことができる体制が必要だと考えられる。ただ、この時に、どの部分が基礎的な部分を考えて教える必要があると思われる。例えば、金属工学であれば、金属の基本的な概念、とりわけ、金属の破壊評価法などを伝えることで、どのような理由で、この金属を使用するのかが相手にも伝えやすくなるのではないかと考えられる。一方で、電子制御の方はプログラムの基本的な読み方や回路の基本構造などを伝える必要があり、機械設計はその機械に関わる力のかかり方を調べるための方法などを伝える必要があると考えられる。

このように、お互いの手法を学ぶことが相手とのコミュニケーションをとることに繋がり、最終的に、新知識の獲得、自己能力の把握と俯瞰的な視点を有する人材の育成につながるのではないかと考えられる。そのために、研修などを行ない、通常の業務以外の手法を強制的に学ぶための仕組みが必要になるのではないかと考えられる。

(次のお題とそのレポート)

2.自分が将来勤務して、研究をしたいと考えていた大学の過去の不祥事

①組織名および組織の基本業務

組織名:東京大学
基本業務:学生に対する教育、並びに研究活動を行なっている。

②不祥事の概要

東京大学の研究所である「東京大学政策ビジョン研究センター」にて不祥事が発生した。このセンターの中に市民後見研究実証プロジェクトというものがあった。

特定の人物によりパワハラ並びにアカハラが繰り返し行われている、予算の不正利用をしていたという。パワハラに対しては、同僚や部下に対し、怒鳴り散らしたり、無理難題を押し付けたという。その中には、人格の否定や退職の勧告のようなものもあり、口頭や電話だけではなく、メールという記録に残るものまでも使って、行なっていたという。予算の不正利用に対しては、研究経費や出張旅費の水増しを行なっていたという。

このような状況に対して、東大側は研究費の不正流用に対し詐欺罪で当事者を訴えることなど対策することができるにも関わらず、対策を取らず、スキャンダルをうやむやにしたいと考えているようだ。[5]

③当事者が重視していた価値と重視されるべきだったにも関わらず軽視された内容

まず、当事者が持っていた価値は、予算も人材を思いのままで、相手側の損害を考える必要がないということだったのではないかと推定される。
本来であれば、職員の人権の尊重という価値が重視されるべきだったし、予算も適正に研究のためだけに用いられるべきだったはずだが守られることがなかった。

④不祥事後にとられた改善策(ない場合は、とるべきと考える施策)

まず、不祥事後に取られた改善策は特になさそうである。

本来であれば、被害者の教員の心のケアをすることと費用を不正利用した人間の洗い出し、その後、関係機関の協力を仰いで、当事者に対して、速やかに詐欺罪と余罪で裁判を起こす必要があったと考えられる。ただ、このことは、東大側が自体を早期に公開することと警察などの外部機関に協力を仰ぐということを回避しようとしたため、行われなかった。再発防止のための仕組みを東大の外部に作り監視をさせる必要があったと考えられる。例えば、東京理科大学、日本大学、東海大学、東京工業大学など、いくつかの大学で相互監視の組織を作ることで、隠蔽を防げるのではないかと考えている。

⑤該当組織における現在の倫理プログラムの概要及び特徴

(1)東大における現在のコンプライアンスの概要

東大では、倫理プログラムとして、東京大学コンプライアンス基本規則を掲げている。それは、以下のようなものである。

このコンプライアンスは、大学の全構成員が、社会的・公共的使命を自覚し、 法令を遵守するだけでなく、相互の人権を尊重し、高い倫理観を持って行動することを達成目標の一つとしたものである。このコンプライアンスを基本とし、健全で適正な大学運営と本学の社会的信頼の維持に 資することを目的とするということである。

そのための仕組みとして、報告と通報制度がある。前提には、日常生活の中で、法令違反や規則違反が起きないように予防することが前提である。問題が生じた場合もしくは、生じる可能性があるのであれば、指導教員や上司に直ちに報告することがコンプライアンスを推進する基本になる。こうした報告が困難である合理的な理由がある際は、通報窓口を利用する。この時、通報者は、通報による原因で不利益な扱いを受けないように東京大学によって保護がされる。万が一、通報によって、不利益な扱いを受けた場合、救済のための適切な措置が取られる。[6]

(2)パナソニックの企業倫理プログラムの概要(比較)

比較のために、パンソニックの企業倫理プログラムを調べたので、その概要を以下に記す。

まず、コンプライアンス(企業倫理)として、「校生で誠実な事業活動を徹底する取り組みを行なう」ことを目的としている。そのコンプライアンス推進活動として、倫理プログラムを導入並びに展開し、校生で誠実な事業活動を徹底する取り組みを行なっている。このプログラムを行なうにあたって、まず、「パナソニック行動基準」を定め、その中で、「私たちの基本理念」を明確にし、コンプライアンスの強化を図っている。具体的な活動として、「コンプライアンス・ガイドブック」の周知徹底と啓蒙PR活動、実行組織の整備、全社展開の推進、そして内部通報窓口の設置を行なっている。[7]

(3)東京大学のコンプライアンスの特徴

東京大学のコンプライアンスとパナソニックのコンプライアンス並びに倫理プログラムを比較したところ、以下のような特徴が考えられる。
東京大学のコンプライアンスは、非常に個人の裁量を重視しており、大学自体があまり不祥事に関与の逃避という特徴があるのではないかと考えた。この特徴があると判断した理由は以下のとおりである。

このコンプライアンスは、主に不祥事に対する対策と予防を心がけることを中心に書かれていることである。パナソニックに比べ、具体的な予防策に関することを「通報」に関すること以外は述べていなかった。

例えば、アカハラ・パワハラ防止のためのガイドラインや講習会など、不祥事を止めるための啓蒙活動に関することが前面に出ていない。また、通報者の保護に関する具体策も本部で握りつぶさず、不祥事を表沙汰にする仕組みも述べられていない。

これらのことから、東京大学のコンプライアンスは、非常に個人の裁量を重視しており、大学自体があまり不祥事に関与の逃避という特徴があるのではないかと考えた。

⑥⑤を中心に今回調べてみた感想
(1)今回調べて非常に驚いたこと

まず、今回の調査で驚いたことは、私の調べた範囲では、企業と大学では、倫理プログラムに関する徹底さの度合いが違うということである。企業では、コンプライアンスを定め、その後、倫理プログラムを用いて、どのようにコンプライアンスを達成するのかがよく述べられていた。また、不祥事を防止するために、啓蒙活動を行なうなど、通報という非常手段を行なう前に様々な方法で、不祥事が生じないようにする努力がなされているような印象を受けた。しかし、私の調査対象の大学では、通報という手段のところは、書いてあったが、予防のためにどのようなことをすべきかなどのことが書いてなかった。この点が非常に驚いている。その理由は以下のとおりである。

(2)なぜ、非常に倫理プログラムが手薄であることに驚いたか?

まず、私は、現在、この大学では、研究に関する職員の採用に関し、”プロジェクト”という名目で、非常勤の職員を多く入れているということを耳にした。ここで、非常勤とは、雇用期間が1~5年という研究を行なう期間としては、実験を中心とする工学系の研究を中心に考えると、成果を最短で必要だと言われる年数(約10~15年)の半分以下の時間である。

しかも、”~”という部分からもわかるように採用期間が正確には定まっておらず、次の就職先を考えながら、研究を行なっているという現状にある。また、次の就職先に行くために、”成果”を非常に短い期間で出さなくてはならないし、科研費も取るために予想と成果が必要である。

このような非常に不安定な状況ならば、成果の改ざんもあるし、鬱病などの精神病が生じるし、そして、研究費の感覚が麻痺する可能性もあり、不祥事の温床になる危険性は大きいところではないかと考えられる。このような状況で、倫理プログラムなどを始めとして、不祥事に対する対策が取られていると考えていたが、実際はそうではなかったので、非常に驚いた。

(3)私が考えている、まあそれなりに効果があるのではないかという改善策

恐らく、不祥事の発生を少なくするには、給与体系やプロジェクト期間や非正規職員雇用期間を伸ばすなど、個人の啓発の前に、制度を見直すことが重要なのではないかと考えられる。後は、職員に倫理プログラムを強制的に参加させる必要性があると考えられる。

(次のお題とレポート)

3.事故や失敗と人の関わりに着目しながら、福島第一原子力発電所の事故を国内外の事故2つと比べ、失敗要因を比較してください。取り上げる事故については、一般的名称を表記してください。

今回、福島第一原子力発電所の事故について、スリーマイル島原子力発電所の事故(1979.アメリカ)と東海村JCO臨界事故(1999.日本)の事故と人もしくはその集合体である企業との関連性に関して比較し、その失敗要因を比較する。

(1)東海村JCO臨界事故 

東海村で起きた事故の原因は正規の作業工程を行なっていないことが原因である。まず、東海村で起きた臨界事故に関する前知識をまとめる。

(1-1)JCOの施設の概要

JCO東海事業所の転換試験棟の化学処理施設では、核燃料サイクル開発機構の高速実験炉「常陽」の核燃料として、ウラン粉末から濃縮度18.8%の硝酸ウラニル溶液の製造を行なっていた。[8]

(1-2)事故の概要

平成11年9月30日午前10時35分に、この施設で、3人のJCO社員が、ビーカーで濃縮度の高い硝酸ウラニル溶液を注ぎ込む作業を行なっていた。この時、硝酸ウラニル溶液が16.6kgU(ウランの重量換算)に達した時に臨界が生じた。

ここで、臨界とは、ウランやプルトニウムなどの核分裂性物質の分子に中性子が衝突すると、その分子は核分裂を起、核分裂に伴って、2~3個の新たな中性子を放出され、それらの中性子が、また別の核分裂性物質の分子に衝突し、核分裂反応が連続的に起きる状態のことを指す。臨界は、溶液が特定の濃度以上になると生じるといわれている。この臨界が生じたために、作業員が被爆した。

JCO臨界事故における総核分裂数は、沈殿槽内の残留溶液の分析結果から、2.5×1018個だと見積もられており、臨界が確かに生じたことを物語っている。本来であれば、核燃料物質を加工する施設では、装置に投入する核分裂性物質の質量や温度が変動したとしても、臨海に達しないように各装置の寸法が厳密に決まっており、誤差も制限値以下とする形状管理が行われており、法で許可された施設で正規の手順に従って行われる限り、臨界は生じないように安全対策が講じられてきた。しかし、今回の場合、作業員は、国が許可した作業手順を逸脱するばかりか、JCO自身で作成したマニュアルの手順すら、守っていなかったということが明らかになった。[8]ここで、その国で定められた手順と間違った手順を以下に記し、比較を行ないたい。

(1-3)国が許可した手順

粉末の原料を溶媒に溶解させるために溶解塔に入れ、その後、不純物を取り除くために、抽出塔を通す。その後、溶液を少しずつ、流したいために貯塔に、溶液を貯塔に貯めた。その後、溶液を攪拌するために、沈殿槽に溶液を流す。その後、攪拌後の溶液を乾燥するために、仮焼炉に入れ乾燥した。乾燥した物質を溶液に溶かすために溶解塔へ移動させる。その後、少しずつ、溶液を使用したいので、貯塔に入れる。その後、製品として少しずつ、所定の容器に入れ用いる。[9]

(1-4)作業員が行なった作業手順

まず、粉末原料を溶解塔に入れずに、ステンレス製のバケツに入れる。その後、スプーンで抽出塔に粉末原料を入れる。その後、抽出した原料をステンレス製のバケツで貯塔を通さず沈殿槽へ入れ、攪拌にかける。その後、仮焼炉で乾燥させ、その後、乾燥した物資をステンレス製のバケツにいれ、その後、溶媒である濃硝酸に溶解させる。溶液の一部をビーカーに移し、その後、溶液を漏斗で少しずつ、沈殿槽に滴下し攪拌させる。攪拌した溶液を少しずつ所定の容器への移し、製品の完成となる。[9]

(1-5)事故の発生とその原因-作業員並びに会社と失敗要因-

(1-3)と(1-4)より明らかに、手順が異なっている。(3-4)の手順のうち、漏斗で滴下した後の沈殿槽で臨界事故が生じた。この方法では、想定量よりもはるかに多い量のウランが沈殿槽に貯まるために臨界が生じやすくなる。そのために、臨界が生じ、事故が発生した。事故の概要を調べたところ、マニュアルの手順が徹底されておらず、手順の意味もわからず作業を行なっていたと考えられる。そのため、これは、安全に関する啓発がキチンと行われていなかったことが失敗要因だと考えられる。

(2)スリーマイル島原子力発電所の事故

以下、スリーマイル島原子力発電所に関する事故の 概要と原因を記述する。

(2-1)スリーマイル島原子力発電所事故の概要

かつて、技術が最も進んでおり、情報公開先進国と呼ばれた米国で発生した事故で、この事故が原因で、大量の放射性物質が撒き散らされることになった。発生したのは、1979年3月28日、東部ペンシルバニア州にあるスリーマイル島(TMI)の原子力発電所である。原子炉の核心部ともいえる炉心部分が冷却水不足のために融解した。

まず、原子炉本体から離れたところのバルブの不調で、蒸気発生器の給水が止まった。具体的には、運転員がバルブを操作して、目詰まりと苦闘している時、バルブが閉じ、蒸気発生器への給水が立たれるということが起こっていた。一方で、ランプの表示と炉心の水位が外部から見られない構造という問題があり、運転員が冷却水の注入の必要性に気がつかず、緊急冷却装置を絞るという結果になった。

その結果、原子炉容器の圧力が上昇し、圧力を逃がすために開いた加圧器逃がし弁が開きっ放しになり、原子炉の冷却水が漏れ、原子炉の空焚きが生じ、燃料の溶融並びに崩壊に至った。[10]

(2-2)事故発生の原因の究明

この発電所における事故の原因として、バルブの不調により、蒸気給水器の冷却が止まったことと炉心の水位が外部から見ることができない構造の二点が考えられる。このような欠陥が生じた原因を以下述べることにする。

この発電所は、事故の1年前から始められていた試運転中から故障や事故が相次いでいた。その中にこの事故の直接のきっかけになったバルブの不調も含まれていた。蒸気発生器の蒸気は、タービンを廻した後、冷却され水に戻り、水精製装置を通って蒸気発生器に送り返されていた。ところが、その水精製装置には建設コストの引き下げのために、既製品が据えられており、前後の連結がうまくいっていなかった。そのためのトラブルも生じていた。

また、スリーマイル島原発を所有しているGPU社の経営状態は悪化し、かつ、建設費も急上昇し、建設原価は建設の計画時の約5.5倍にも達していた。そのため、資金難になり、建設費を22%切り詰め、早く完成させ、営業運転に入ることになった。

このようなコスト削減と手抜き工事だけではなく、「二重三重の安全装置があるから大事故は発生しない」という神話も相まって、対策も打たず、結果的に事故発生につながった。

(2-3)事故の原因のまとめ-会社の方針と失敗要因-

結局のところ、スリーマイル島の原発事故は、建設費を切り詰めて手抜き工事をしたことと作業員が異常に気づけない構造にしたという会社の方針が失敗要因につながったのではないかと考えられる。

(3)福島第一原子力発電所の事故

以下、福島第一原子力発電所の事故に関することを記述する。

(3-1)福島第一原子力発電所の事故

2011年3月11日に、東北地方太平洋沖地震により、津波が発生した。その津波により、東京電力株式会社の福島第一原子力発電所で事故が発生した。
発電に使用された燃料からは高温の熱が発生するために本来であれば、運転停止後、原子炉内の水を循環させるなどの方法で冷却し、使用済燃料もしばらくは高い熱を出すためにプールに貯蔵し、水を循環させ冷却するという作業を行なう。

ところが、地震と津波により、冷却に必要な電源装置が壊れ、原子炉内の水位が低下し、燃料が露出した。その結果、燃料を覆う金属が高温になり、水蒸気と化学反応し、水素が発生し、酸素と反応し、水素爆発が発生した。この爆発により、原子炉建屋などが破損し、放射性物質が大気中に放出された。さらに、冷却できない状態が都築、原子炉内では燃料が溶け落ちた状態と推定される。また、原子炉建屋へ地下水が流入したため、放射性物質が流れ出すという事態にもつながっている。[11]

(3-2)事故の原因

事故の原因は津波を防ぐことができなかったものだと考えられる。3.11以降は、この津波の大きさは想定外の大きさだと言われていた。しかし、1999年に国土庁が津波予測被害地域の地図を出しており、この大きさの津波は想定されていたのではないかという見解がある。[12]

また、福島原発の工事で最初に工事を行ったのは、1号棟で、それは、1967年9月29日から始まったのだが、この工事が起こる遥か前に、ここまで津波がくるという大津波記念碑が内陸側にあったという。この点を考慮すると、特に工事の際の説得に関して難しいことではあるのだが、津波の大きさの最大値を考慮した設計をしなかったもしくは、国を挙げて対策を立てなかったことが原因だと言われている。

(4)各々の事故に関する比較
この三つの事故に関して、事故と人間の関わりの部分の要因をまとめ、比較すると以下のようになる。

(4-1)三つの事故の原因のまとめ

JCOの事故では、作業員が不適切な作業方法を行ない、事故が発生した。これは、適切な作業方法の教育が徹底されていなかったことが原因だと考えられる。

スリーマイル島の事故では、主に、建設費の切り詰めや作業員が以上に気づかないような原子力発電所の構造にあったと思われ、経済という観点で問題が生じたと考えられる。

福島第一原発においては、実際は想定内だったにも関わらず、津波の対策が不十分だったために起きた事故だと考えられる。

(4-2)事故の比較

福島第一原発では、JCOの場合のような作業工程の不備という点では、問題点はなかったと考えられる。なぜなら、津波の想定内とはいえ、津波対策が十分にできていなかったため、正しい作業のマニュアルができていても、今回の状況ではうまく機能しなかったと考えられるためである。

むしろ、臨機応変の対応を中心に現場では行わなければならなかった。例えば、原発の5,6号機に関しては、爆発しなかったが、実は、地元の工務店との協力によりベントホールを開けることができ、事故を未然に防ぐことができたことが知られている。[13][14]

スリーマイル島に関する事故と比較した場合、津波対策に予算を避けなかったということで、予算という点では共通点はあるが、しかし、福島の事故の場合、工事自体は、手抜き工事はしてはいないし、実際のところ、津波対策もいずれは行われる予定であったとも言われている。

ここまでの話から、福島第一原発の事故はこの二つと違い、大きな特徴がある。それは、天災の発生の考慮をしなかったとために起きた人災だということがわかる。

その例として、津波の大きさを過小評価していた点にある。実際のところ、地震の対策は行なっていたが、津波の大きさに関しての点であり、そこが最も、人が絡む失敗要因ではないかと考える。この事故は、二つと違い、極めて、天災の要素が大きく、人災の部分が見えにくい事故だったのではないかと考えられる。

参考文献
[1]公益社団法人応用物理学会, ”倫理綱領”,
<https://www.jsap.or.jp/profile/moral_draft.html>

[2]日本原子力学会倫理委員会, ”倫理規定 前文・憲章・行動の手引き”,
<http://www.aesj.or.jp/ethics/02_/02_02_/ >

[3]総合資源エネルギー調査会原子力小委員会, ”世界の原子力平和利用への貢献”,
<http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/denkijigyou/genshiryoku/pdf/007_04_00.pdf>,平成26年10月

[4]”産業財産権について”, <https://www.jpo.go.jp/seido/s_gaiyou/chizai01.htm>, 特許庁

[5]”東大、パワハラや予算不正利用の疑いで調査委員会発足~事業利用者から苦情も”
, <http://biz-journal.jp/2013/12/post_3702.html>, Business Journal Cyzo

[6]東京大学, ”東京大学コンプライアンス基本規則”,
<http://www.u-tokyo.ac.jp/gen10/b08_01_j.html>

[7]パナソニック, ”コンプライアンス(企業倫理)”,
<http://is-c.panasonic.co.jp/jp/csr/management/compliance/>

[8]柳沼充彦, 文教科学委員会調査室,
”東海村JCOウラン加工工場臨界事故を振り返る-周辺住民の健康管理の在り方を中心に-”, <http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2013pdf/20130308131.pdf>

[9] 原子力教育を考える会,
”よくわかる原子力東海村JCO臨界事故”, <http://www.nuketext.org/jco.html>,

[10] 原子力教育を考える会,
”よくわかる原子力スリーマイル島、チェルノブイリ原発事故と被害の実態”,
<http://www.nuketext.org/threemile.html >

[11] 日本原子力文化財団,
”東京電力株式会社 福島第一原子力発電所事故 事故のあらまし”,
<http://www.jaero.or.jp/data/02topic/fukushima/summary/01.html>,

[12]神戸新聞NEXT, ”国は福島原発事故を予測? 99 年に津波予測図作製”,
<http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201506/0008148726.shtml>

リンク切れだったので、こっちで。

[13]吉澤厚文, 大場恭子, 北村正晴 著, ”Safety-Ⅱの実現へ向けた福島第一原子力発電所からの教訓導出(2)-Respondingの構造分析-”

[14]東京電力株式会社, ”福島原子力事故調査報告書”, 平成24年6月10日, p.210

(以上)

それにしても、政治的な対立がおきる原因の一つに、連携がとれないことがあるが、そういったことをなるべく減らすには、やはり、うまく、協働できるような状況に、しなければならないと思う。

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