小説家チャレンジ24日目。
きょうもカナダは、気温-25から-30℃を行ったり来たり。もう極寒日5日目。窓から外をみると、空中にキラキラとダイヤモンドダストが舞っている。ふつうは空気中の水分が凍って、その結晶がくっつき合って雪になる。だけど乾燥したもの凄く寒い日には、結晶が単体でそのままの形で降るので、まるであたりにダイヤモンドの粉がただよっているようだ。おそろしく寒いが、神秘的な美しさが顕現する日でもある。
けっきょく大学の文学部4年間と、英会話学校の夜間部2年間を、立派に卒業することができた。授業についていかれず、完全に落ちこぼれた高校での自分をくつがえす勢いで、とにかくまゆみはよく勉強した。
きていくい服が「選べる」とる講義を「選べる」「じぶんで選択できる」大学のシステムがものすごく合っていた。
そして英会話学校の、アメリカ系の空気にもまゆみには合っていた。教室では必ず先生の発音がよく聞こえる、1番まえの席に座るとか、クラスでも積極的に先生の質問に答えたり、授業のあとは疑問点を質問しに行ったり、自発的な「やる気アピール」が評価される風土で、それはまゆみにはすごくしっくりきた。
年中お仕着せをきせられて、興味もない教科の勉強を全員おなじカリキュラムでやらされていた頃とはちがい、当時は自分がやりたいこと、好きな教科、興味があること、将来役に立つと思うことを学ぶのは、大変でも充実してたのしかった。
大学で、クラスメートや同世代の男の子と飲みに行きたいと思ったことは全然なかった。それが英会話学校のかえりに、いっしょに学んでいる大学院生や一流企業にお勤めの社会人、アメリカやイギリス人の先生といった大人達と食事したり、飲みに行って、はじめて楽しいと思った。
高校で、かんぜんに日本の集団生活から脱落したまゆみ。大学と英会話学校に通った経験から「自分に選択する権利があること」「積極的な努力が評価されるシステム」「さまざまな年齢、職業など背景のことなる人たちがいる集団」が自分にはすごく向いていることがハッキリした。
大学卒業の直前にバブルが崩壊したが、とうじの日本はまだまだ終身雇用とか、年功序列とか、
社会人はお酒を飲まないといけない文化とか、 ありとあらゆるハラスメントがふつうに存在している社会だった。まゆみはどう頑張っても、この社会の一員にはなれない自分の本質がわかっている。
日本で働けないとなると、実家にいることになる。そうすると嫁に行くしかないから、お見合いしたりしなければならなくなる。でも当時のまゆみは子ども好きでもなく、料理はできないし、家事もぜんぜんできない。結婚願望も家庭へのあこがれもなかった。
あんなに勉強したのに、また居場所がなくなってしまった。大学を卒業したまゆみは、将来のことを思うと落ちつかず、不安で夜は眠れなかった。
「どうしよう、私これからどうしよう」
「何をしたらいいんだろう」
まわりの大人、大学の先生や、高校の恩師
短大をでてすでに社会人2年目の友だち、
いろんな人に会って相談した。
でも、その答えは自分で出すしかない。
焦りがつのって、まゆみは迷走しだす。
まず昔から大嫌いだったタバコを、きゅうに
自ら吸い出した。髪を切って色を変えた。
地元でとりあえずバイトをはじめた。
そこで必要になって運転免許をとりに行く。
アメリカから英語講師としてきていた
ダニエルに出会ったのは、この時期。
卒業して、ますます日本に居場所がなくなり
観念してとうとう海外行きを決めるまでの
みじかい期間に、はじめて同じ年の男の子と
つきあうことになった。