小説家チャレンジ45日目〜休職中50才の再就職?!〜
コロナ休職がはじまって、ちょうど1年になる。
先週の金ようび、もとの職場で同期だったインド人スミタから久しぶりに電話があった。
3年まえ失業して、必死に就活してたときにわたしが応募した州の保健機関。彼女はつい最近そこのパート面接に受かり、その日オリエンテーションを終えたばかり。
「その会場でビックリする人に会ったの。誰だか分かる?」イタズラっぽく笑う彼女に
なにも思いつかず「意外な人ってだれかなぁ」ときくと
「シーラだよ、もとの会社でわたしたちのボスだったシーラ!」
昨年コロナで企業が大打撃をうけたとき、わたしとスミタの直属の女性上司、勤続20年のシーラが管理職の大幅な削減でリストラされて、かなりショックだった。
コロナ休職まえ、私と彼女はたまたま同じオフィスに配属されて、しぜんと仲良くなっていた。2人とも年が近いせいか好みが似ていて、私はかわいい文房具を見つけるとシーラにプレゼントして、彼女は外国のスイーツをよくお土産にくれたりした。
いちばん思い出に残っているのは、去年の今ごろ。その日も夜勤で、静かなオフィスで机に向かって仕事をしていると、急に入り口のドアがガチャっと開く音がして、ビックリしてふりむくと大勢のスタッフが、歌をうたいながら部屋にゾロゾロ入ってくるところだった。
なにが起きてるのか一瞬分からなかったが、そういえば私の後ろのデスクにいる管理職のボブが、おととい誕生日だったのを思いだして「ああ、みんなわざわざお祝いにきたんだ」と気づく。
それならと、イスをクルッと回してボブの方を向いて、いっしょにハッピーバースデーを歌いだした。すると先頭でケーキをもっていたシーラが、まっすぐ私の方に向かってきて、みんなも笑いながら私をとり囲んだ。
時計はちょうど夜中すぎ。その日は私の49才の誕生日だった。
生まれてはじめての、サプライズパーティー。
それも外国の大企業のオフィスの一角で、たった一年前に知り合ったばかりのカナダ、イギリス、フランス、インド、スリナム、中国出身の同僚や上司が、バラバラの部署からいそがしい中、わざわざ夜中に集まってくれている。
ついさいきん自営業が倒産して、夫婦無職になり、食べるものにも困り、家で赤子を抱きしめながら震えてた私。
まわりは休みごとに家族で海外旅行するような、華やかな職場で働きながら、毎月ホームレス同然の人たちと、倉庫で食料配給の列に1時間ならぶような、二重生活をしている自分。
そんな私が、いま思いがけずスポットライトをあびて、こんなに沢山の人に誕生日を祝福してもらっているなんて。
目の前でおきていることが、現実とは思えなくて、ボーゼンとしてしまう。
あっけにとられている私に、シーラが「みゆま、お誕生日おめでとう!」と満面の笑みで、ローソクの立ったバースデーケーキと、ギフトラップされた赤ワインを手渡してくれた。
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あれから1年。
その会社を休職になり、同僚のスミタが応募するよう勧めてくれた、せっかくのパートの仕事。
ただ週末は息子2人がずっと家にいるので、履歴書の用意ができずにいた。
みんなが寝しずまった日ようびの夜中。
使っているiPadのWordの調子が悪いので、3年前の就活に使った古いPCを、わざわざガレージから出してきて、接続する。
何時間かかけて、履歴書の更新とカバーレターを作ったものの、応募先のサイトに提出しようとすると、何度やってもエラーではじかれてしまう。
ユーザーネームを変えたり、パスワードの再設定をしても履歴書を送れないので、別の就活サイトから応募しようとしてみたり、四苦八苦していたらとうとう朝の5時になってしまった。
2時間だけ仮眠して、JJをデイケアに、戻ってきてタラちゃんを小学校に送る。
徹夜でボーッとしたまま、コーヒーを飲みながら、カスタマーセンターに連絡してみたり、何とか履歴書を送ろうと頑張る。
今朝もずっとシステムエラーが続くので、朝10時にきょう保健機関に出勤するスミタに連絡。
履歴書が出せないので、もしシーラに会ったら連絡先をきいてもらい、彼女に直接送れないかお願いしてもらうことにした。彼女はもちろん、と引き受けてくれたものの
「でもこの募集、あしたで締切りだし、きょうシーラが出勤してるか分からないから、何とか履歴書は提出しておいた方がいいよ」
と言われ、またお昼までPCと格闘。
困り果てて、ためしに私の名前で夫のアドレスを使ってみたら、すんなり応募サイトにログインでき、そのまま履歴書もカバーレターもアップロードできた!
空腹で力つきて、納豆卵かけごはんをかきこんで、お風呂に入ってからお迎えの時間まで、ちょっと仮眠する。
眠りについて1時間後に、光熱費のことで電話がかかって起こされ、5分後にタラちゃんの友だちから電話があり、切ってウトウトしているとテキストの着信音がした。
枕元の携帯をとってみると、なんとシーラだった!
「いまスミタからお話し聞きました。履歴書のこと私の上司に言っておくから、あなたの苗字のスペルすぐ送ってね!」
眠気がいっきにふき飛ぶ。
すぐ苗字をおくり、シーラとスミタにテキストでお礼を言った。
がんばったかいがあった。
これでやれることは全部やった。
この仕事が、私にふさわしいものなら
きっと面接の連絡があるだろう
もし違っていれば、また別のパートを探そう
休職後1年たって、はじめての明るいニュースだった。
これも最低賃金の、しかも夜勤だったけど、再就職先で仕事をがんばったからこそ、つながった縁。
思いがけずいいオファーをいただいて
私がやれることはやりきったんだから
あとは天に丸投げ。