ドライフラワー【ショートショート】
一年ぶりに田舎にある実家に帰ってきた。
二階にある自分の部屋は学生当時のまま。母がそのままの状態で残しておいてくれたようだ。物の位置は変えずに掃除は隅々まで行き届いている。
一階のリビングから笑い声が聞こえてきた。
実家には父と母、そして三つ年下の妹がいる。自分だけが家を出て東京で一人暮らしをしていた。
部屋の中で懐かしさに浸っていると、一カ所だけ自分の記憶にはない物が存在しているのに気づいた。
学習机の上に花束。ドライフラワーだった。
それを手に取り眺めてみる。そうしてようやく思い出した。
この花は妹の結婚式で使われたブーケの花束だ。
結婚式はちょうど三年前、反対した両親を押し切り、妹は身内だけの小さな結婚式を強行した。
妹のためなら協力は惜しまない。自分もあらゆる面でサポートをした。
別に血の繋がった兄妹だからとか、家族だから当然とか、そんな易い理由でもない。
――ただ、愛していたからだ。
このブーケの花もそういえば自分が注文したものだ。ドライフラワーとなっていたので、すぐには気づけなかった。
しかしよく見ると、その花の美しさは一年前と何も変わらない。妹も同様に。
すると、再び一階から笑い声が聞こえた。
一階に降り、リビングに向かう。ホコリが積もったリビングは、あの妹の結婚式の会場を思い起こしてくれたような気がした。
リビングには父と母の姿は、そこにはもうなかった。
ただ、妹だけが変わらない笑顔で自分のことを迎えてくれた。
「ただいま」
声をかけても返事はない。
妹はドライフラワーのように美しいまま。
着けっぱなしだったテレビ電源を消すと、家中が静寂に包まれた。