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蘊蓄を傾ける彼【ショートショート】

気がついたら夜空には、星が輝いていた。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。

「ねえ、観覧車乗ろうよ」

「え、……まあ良いけど」

大学の同級生である彼と付き合って初めてのデート。大きな観覧車で有名な遊園地に遊びに来ていた。最後はあれに乗る。私はそう決めていた。

観覧車乗り場には数組のカップルと親子連れが並んでおり、私たちは列の最後尾に並んだ。
列に並んでいると、隣りにいた彼が唐突に言った。

「そうだ、観覧車の起源って知ってる?」

「観覧車の? 知らない」

そう返すと、いつもの得意げな表情に変わり鼻の頭をかいた。

「今でいう観覧車は、ゴンドラに乗って高いところまで上って、そこから景色を眺める遊具っていうのが一般的な認識。だけどその起源は、まだ罪人を処刑するための道具のひとつだったんだ」

「処刑!?」

「そう、昔は罪人を十字架に張り付けにして、公開処刑するなんてことは頻繁に行われていた。今じゃ考えられないけどね。当時は水車のような大きな円形の張り付け台に、罪人を縛り付けてグルグル回していたらしい。
――ああ、その苦痛を考えるだけでも恐ろしい。でも、そこから観覧車が生まれたんだ」

「それじゃ、観覧車って……」

「うん。観覧車の観覧っていうのは、中から外を見るということじゃなくて、外から苦しむ罪人の様子を観衆が嘲笑あざわらう意味なんだ。だからつまり、ゴンドラに乗って観る景色ってのは、実は罪人が死の境に観た景色だってこと」

観覧車にはそんなに恐ろしい話があるんだと、一瞬怖じ気づきそうになったが、デートの最後にこんな暗い話。とても違和感を覚えた。

私は彼の顔をまじまじと見つめる。そして聞いた。

「ねえ、もしかして高いところ苦手?」

虚を突かれてうろたえる彼。そして鼻の頭をかいた。

「そ、そんなことないよ」

そんな彼がなんだか愛おしく思い、私はそっと彼の袖を引っ張り列から外れた。

観覧車は、男が見栄を張るための遊具なのだろうと、なんとなく思った。


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