眠れぬ仮の美女【ショートショート】
十二時を過ぎていた。
眠れない。この蒸し暑さに加え、見えない恐怖に怯えているせいで、心臓が耳元にあるようだった。
喉が渇きを覚え、重い身体を起こした。
寝室からキッチンのあるリビングに向かう。電気を付けるのもおっくうに感じ、薄暗い中、自分の感覚を頼りに歩みを進める。
寝不足のせいか、頭がくらくらする。胸も苦しい。全身が痺れているようにも感じる。
髪の毛がぼさぼさになっていても、いちいち気にしていられない。
キッチンにたどり着くと、お気に入りのコップを探した。コップはす