保険給付の内容
保険給付には、支給事由により様々な年金や一時金がある。療養補償給付は、現物給付の一つ。仕事中にけがなどをした場合、治療などの療養の給付を受ける場合。指定病院等と呼ばれる、政府が指定する医療機関で給付される。指定病院等以外で治療を受ける場合は、療養の給付ではなく、療養の費用の支給として現金が支給される。療養の費用の給付は、被災した労働者が自由に選べるものではなく、近くに指定病院等がないときや、指定病院等で治療を受けない相当の理由がある場合にのみ支給される。
休業補償給付とは、労働者が被災したことで、療養により休業して、賃金を受けられない(無給という)間に金銭が支払われる給付。療養補償給付が治療のための給付であるのに対し、休業補償給付は、賃金の代わりとなる。給付基礎日額の60%が支給される。休業補償給付は、無休で休みはじめた日の4日目から支給され、3日目までは、待期期間と呼ばれ支給されない。休業補償給付の特徴として、その後、未治癒のまま休業が長引いてしまったときは、行政官庁の判断によって、休業補償給付から傷病補償年金へと給付内容が変わる。
治癒とは、労災保険法では必ずしも完全に治ったことを意味する言葉ではなく、その症状が安定することをいう。
※待期期間の被災労働者の補償をする義務は、労基法76条により事業主が負う。しかし、通勤災害の場合は、事業主にその義務を負う必要はない。
休業補償給付と傷病補償年金は、療養補償給付(治療のための給付)と同時にもらうことができる。しかし、休業補償給付と傷病補償年金は同時にもらうことはできない。
仕事中のけが等は治癒しても身体に障害が残った場合は、障害補償給付を受けることができる。障害補償給付には、障害補償年金(1~7級)と障害補償一時金(8~14級)があり、障害の程度により給付額が異なる。
障害補償年金の給付内容(年金タイプの給付)
1級 給付基礎日額の313日分(傷病補償年金と同じ)
2級 給付基礎日額の277日分 (傷病補償年金と同じ)
3級 給付基礎日額の245日分 (傷病補償年金と同じ)
4級 給付基礎日額の213日分
5級 給付基礎日額の184日分
6級 給付基礎日額の156日分
7級 給付基礎日額の131日分
障害補償一時金の給付内容
8級 給付基礎日額の503日分
9級 給付基礎日額の391日分
10級 給付基礎日額の302日分
11級 給付基礎日額の223日分
12級 給付基礎日額の156日分
13級 給付基礎日額の101日分
14級 給付基礎日額の56日分
障害等級は、障害等級表によって決まる。障害等級表に規定されていない障害は、その程度に応じて障害等級表に規定されている障害に準じて決定される。これを準用という。
同一の事故によって2つ以上の障害が残ったときは、そのうちの重い方の障害の等級をその障害の等級とする。以下のケースでは、重いほうの障害を繰り上げる。
13級以上の障害が2つ以上→1級繰り上げ
8級以上の障害が2つ以上→2級繰り上げ
5級以上の障害が2つ以上→3級繰り上げ
もともと障害がある場合で、業務災害などでその障害を重くしたときは、過重された結果の障害によって等級が決定される。もとの障害は、先天的、私傷病等の別を問わない。以前に別の事件で負った障害も同様。
労働者が亡くなったときは、遺族補償給付が給付される。遺族補償給付には、遺族補償年金と遺族補償一時金がある。遺族の範囲は、生計維持関係にあった配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹で、その人たちを受給資格者という。
生計維持関係とは、死亡した労働者の収入で生活を営み、その収入がなければ通常の生活水準の維持が困難になってしまう関係をいう。生活費の全部を維持される必要はなく、共稼ぎの場合も生計維持関係にあるといえる。
受給資格者は順位が決めっていて、順位が上位の人が受給権者となり、上位の受給権者が権利を失ったときは、次の順位の人が受給権者となる。これを転給という。
遺族補償年金の受給権者の順位
1 妻:条件なし
夫:60歳以上または一定の障害
2 子:18歳に達する日以後の最初の3月31日までまたは一定の障害
3 父母:60歳以上または一定の障害
4 孫:18歳に達する日以後の最初の3月31日までまたは一定の障害
5 祖父母:60歳以上または一定の障害
6 兄弟姉妹:18歳に達する日以後の最初の3月31日まで、若しくは60歳以上または一定の障害
7 夫:55歳以上60歳未満(ただし、60歳まで支給停止)
8 父母:55歳以上60歳未満(ただし、60歳まで支給停止)
9 祖父母:55歳以上60歳未満(ただし、60歳まで支給停止)
10 兄弟姉妹:55歳以上60歳未満(ただし、60歳まで支給停止)
※夫、父母、祖父母が60歳以上の場合は上位に該当し、逆に54歳以下の場合、一定の障害がなければ、受給資格者にならない。
※55歳以上60歳未満で夫、父母、祖父母、兄弟姉妹に受給権が発生しても、実際に給付を受けられるのは60歳から。
一定の障害とは、労災保険法別表で定める障害等級の5級以上または傷病未治癒で、身体機能や精神に対して、労働が高度の制限を受けるか、労働に高度の制限を加える必要のある程度以上の障害のある状態。
遺族補償年金の具体的な額は、受給資格者の数により決まる。受給資格者が一人の場合は、原則153日分、2人で201日分、3日で223日分、4人で245日分。
※ただし、55歳以上または障害の状態にある妻、175日分。
遺族補償一時金は、遺族補償年金の受給資格をもった人がいないときに支給される。
突然死や過労死の予防目的で認められているのが、二次健康診断等給付。内容は、二次健康診断と特定保健指導で、これは労災保険法特有の保険給付。
二次健康診断等給付は労災病院や都道府県労働局長が指定する健診給付病院等というところで給付される。
死亡した労働者の葬祭を行う者に支給される葬祭料(通勤災害だと葬祭給付)、障害補償年金や傷病補償年金の1,2級を受ける権利を有する労働者がもらえる介護保障給付などがある。
・療養補償給付は、治癒のための給付。
・休業補償給付と傷病補償年金は、未治癒のときの現金給付。
・障害補償給付は、等級により給付額や給付方法が異なる。
・労働者が亡くなった場合の給付は、遺族補償給付。
複数業務要因災害の保険給付に関しても、それぞれ複数事業労働者療養給付、複数事業労働者休業給付、複数事業労働者障害給付、複数事業労働者遺族給付、複数事業労働者葬祭給付、複数事業労働者傷病年金、各給付が用意されている。
労災保険法の事業は政府が管掌するが、その一部は独立行政法人労働者健康安全機構に行わせるものとしている。労災病院や労災リハビリテーション作業所の運営、未払い賃金の立替払いも行っている。
労働者を守る法律である労災保険法は、特別加入制度を設けて、労働者の定義から外れてしまう個人タクシードライバーや、小さな会社の個人事業主など、適用除外の人の保護もめざしている。ある一定の条件(事業主でも労働者と同じように働いている中小事業等、一人親方等、海外派遣者等)を満たすことで、特別に労災保険に加入できる仕組みを、特別加入という。令和3年4月より、アニメーターなどの業種も追加された。特別加入者は、労働保険徴収法にも関わってくる。複数業務要因災害に対する保険給付の支給対象となる複数事業労働者には、特別加入者も含まれる。ほか、1つの会社と労働契約関係にあり、他の就業について特別加入している人や複数の就業について特別加入をしている人も対象となる。
社会復帰促進等事業は、特別支給金やボーナス特別支給金といった、各種の保険給付に上乗せする給付金の支給事業も行っている。特別加入者には、ボーナス特別支給金は支給されない。
休業補償給付:特別支給金あり、ボーナス特別支給金なし
障害補償給付:障害特別支給金あり、ボーナス特別支給金は年金の場合は障害特別年金、一時金の場合は障害特別一時金
遺族補償給付:遺族特別支給金あり、ボーナス特別支給金は年金の場合は障害特別年金、一時金の場合は遺族特別一時金
傷病補償年金:傷病特別支給金あり、ボーナス特別支給金は傷病特別年金
※障害特別年金差額一時金という制度もある。
複数業務要因災害による保険給付に関しても、特別支給金やボーナス特別支給金が用意されている。
休業補償給付は、平均賃金の60%相当で、休業特別支給金が加わると、さらに平均賃金の20%が+され、合計で平均賃金の80%がカバーされる。
平成22年1月から法改正により、船員保険法のうちの労災保険の働きをしていた部分は、労災保険法に統合された。船員保険法は昭和14年にできた古い法律で、労災保険法、雇用保険法、厚生年金保険法、健康保険法の働きをもった総合保険制度だったが、現在は健康保険法と労災保険法の一部の働きをする制度に変化している。船員保険制度の保険者は、法改正前は政府だったが、現在は全国健康保険協会(協会けんぽ)となっている。
・労働者以外でも、労災保険は加入できる場合がある。
・特別加入の対象は、中小事業主等、一人親方等、海外派遣者。
・保険給付のほか、特別支給金、ボーナス特別支給金がある。
中小事業主等が、特別加入するための条件3つ。
①保険関係が成立していること。
②労働保険事務を労働保険事務組合に委託していること。
③常時300人以下(例外あり)の労働者を使用する事業主であること