ドSな彼氏
SHRが終わり帰る準備をしていると、他のクラスの女子達が「校門に凄いイケメンがいる!」と騒いでいる。
イケメンに目がない女子達は一目見ようと、窓から覗いたり、校門に走っていく者までいる。
まさかね。そんなはずはないよね。
そのイケメンに心当たりがある私はどうか違いますようにと祈る。
下駄箱に行き靴に履き替え、他の生徒に混ざって遠くから様子を見ると、校門の所に女子達が一定の距離を置いて群がっているのが見える。
その中に頭一つ分高い男の顔を確認する。
予想通り私の彼氏、咲夜くんだ。
眉目秀麗とは咲夜くんの為の言葉なんじゃないかと思うほど顔が整っている咲夜くんを見る。
こんな状況は日常茶飯事の咲夜くんは、ポーカーフェイスを崩すことなく堂々と立っている。
まさに威風堂々。
咲夜くんが彼氏だと四字熟語に詳しくなる。
いやいや、そんな事考えている場合じゃない。
どうしよう。あの群れの中に入っていく自信はない。
かと言って素通りした日には…
そこまで想像して身震いをする。
とりあえず少し離れた所でLINEしよう。
さっきと同じように他の生徒に混ざり、校門を出ようとすると「おい」という低くて冷たい声が背後から聞こえる。
そこまで大きい声ではないのに、はっきりと私の耳に届く。
王の第一声にあれだけ騒がしかった周りが静まる。
聞き覚えのある声の方に顔を向ける。
周りの視線が私に集中する中、背中に一筋の汗が流れる。
咲夜くんが歩く道をモーセの十戒のように生徒達が道を開ける。
目の前に来た咲夜くんの顔を見上げると、若干怒った顔をしている。
それもそうだろう。待っていた相手が先に帰ろうとしていたんだから。
謝ろうか言い訳しようか迷っていると「行くぞ」と私の手を掴んで歩き出す。
咲夜くんの歩くスピードが早く少し小走りになる。
少しして背後から驚きの声が聞こえる。
その理由は私が一番よく分かっている。
平々凡々でぽっちゃりな私がなぜ咲夜くんと付き合えているのか、私が一番謎に思っているからだ。
咲夜くんとは中学生の時に知り合った。
浮世離れした容姿の咲夜くんは、瞬く間に全校生徒の間に広まった。
それだけにとどまらず他校まで知れ渡ることとなり、噂ではファンクラブもあったとか。
1、2年の時は別のクラスだったが3年になって初めて同じクラスになった。
だからといって咲夜くんと話すことはなかったけど。
咲夜くんは友達と話している時もあまり笑うことはなく、ほとんど無表情だった。
あまりにも整い過ぎたその顔は冷たい感じがして、正直私は咲夜くんの事が苦手だった。
それがなぜ付き合うことになったかというと、時は少し遡る。
中3になり少し経ったある日の休日、図書館から帰っていると公園で咲夜くんを見かけた。
公園には子連れの親子が遊具で遊んでいて、咲夜くんは小さな男の子とサッカーボールを蹴って遊んでいた。
それだけでも驚きだが、咲夜くんの顔が笑っていたのだ。
学校では笑った顔を見たことがなかった私は、クールな咲夜くんとのギャップに惚れ、咲夜くんの笑顔にまんまとやられ好きになってしまったのだ。
だからといって告白する勇気もなく3学期に入り、学校に行く日数も減り咲夜くんとは会えない日が続いた。
卒業式が終わると高校も別々だし、咲夜くんに会う事は2度とないだろう。
付き合えるとは思っていない。玉砕覚悟で卒業式が終わった後に告白しようと決めた。
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