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「仮面ライダーW」は人生のバイブルで至高の教育コンテンツ


平成仮面ライダーシリーズ第11作目、「仮面ライダーW(ダブル)」。
初回放送は2009年。2019年は10周年記念として盛大に祝われ、10周年記念グッズやイベントもありました。

私はリアタイをしていたときから大好きで、昨日今日で(3か4周目の)一気見をしました。24分×49話+劇場版(ビギンズナイト)、1日10時間ほど観て完走しました。
ここからはファンが好き勝手に好きなところを語ります。

1 「成熟済みライダー」と「成長するライダー」

個人的に思うのが、仮面ライダーには「成熟済みのライダー」と「成長するライダー」がいます。前者は、1話から既に仮面ライダーという巨大なパワーを心身ともに制御できて「人を助けること」を軸に悪と戦うライダー。後者は、悲運を背負い復讐心や懺悔する気持ちに突き動かされて、力不足に挫折したり克服したりしながら「人として成長する」「人を守ることを知る」ライダー。

仮面ライダーWの場合は主人公が2人いて(ライダーシリーズ初の「2人で1人」の仮面ライダー)、どちらか片方が他方の肉体へ意識を飛ばすことで一人の仮面ライダーになります。ガワのデザインは左半身と右半身で色が分かれていて、左半身は「左翔太郎」、右半身は「フィリップ」が動きを制御します。
各ストーリーの導入や結末は翔太郎くんの語りが入るので、どちらかというと真の主人公は翔太郎くんかもしれません。(急に「くん呼び」になったのはヒロイン・あきちゃんこと鳴海亜樹子ちゃんがメンズを「くん呼び」するので、私もそれがデフォだから)
翔太郎くんはハードボイルドに憧れるキザな心優しきハーフボイルドですが「成熟済みのライダー」、フィリップくんは【地球(ほし)の本棚】と呼ばれる地球の全てのデータを閲覧できる頭脳明晰で落ち着いた少年ですが「成長するライダー」です。
このバランスがとても良い。一気見できるのも、翔太郎くんが終始「街を泣かせないこと」を軸に動いていてブレないからなのも要因のひとつです。その優しさが弱さとなって、相棒フィリップくんの強化体についていけずライダーを辞めようとする場面もありますが、結局はフィリップくんが、

「Wは、戦闘マシンであってはならない。強いだけのWには価値がない。君の優しさが必要だ。それがもし弱さだとしても僕はそれを受け入れる」

と、そのままの翔太郎くんを受け入れられるようになったことで更なる強化フォームを手に入れました(第32話、「風が呼ぶB」)。

2号ライダー「照井竜」は翔太郎くんの憧れるハードボイルドをまさに具現化したようなクールガイで、敵に家族を皆殺しにされた復讐のため仮面ライダーになった敏腕デカですが、「成長するライダー」です。自分の命を捨ててまで仇を討とうとする竜くんに、
「ちったぁ周りを見ろ。心配している奴らがいるだろ」
と翔太郎くんが叱咤します。竜くんは「君らと和んでいる暇などない」と一蹴しますが、敵組織の犠牲者が親のために命を捨てようとしている様子に対して翔太郎くんと同じセリフを吐いてしまったことがブーメランとなり、復讐のためではなく誰かを守るために戦うようになります(第27、28話「Dが見ていた」)。

ブレない翔太郎くんを軸に、フィリップくんと竜くんは「仮面ライダー」としてのあり方を学びます(翔太郎くんは2枚目っぽい3枚目のいじられキャラなので、翔太郎くんから「学んだ」というよりは彼の行動により「気づかされた」のほうが近いですが)。
この翔太郎くんの安定感、絶対的ヒーロー感によりヲタもそこまで精神をかき乱されることなく鑑賞し続けられます。

2 仮面ライダーと家族

Wは「探偵」という設定は有名かもしれませんが、実は大きく取り扱っているテーマのひとつに「家族」があります。
フィリップくんには家族の記憶がない。竜くんは敵に家族皆を殺されている。敵の園咲家は家族ぐるみで巨大な裏組織を経営していて家族内の愛憎や決裂も描かれていく。
そこも個人的に惹かれる要素のひとつです。
あまり書くとネタバレになってしまうのですが、仮面ライダーというコンテンツの軸の一つである「親殺し」が描かれます。親のしがらみを跳ね返して乗り越えようとする過程は、個人的に家族とうまくいっていない私からするとどうしても重ねてしまう部分があります。家族に事情を抱えるフィリップくんは、いつも側で支えてくれる翔太郎くんやあきちゃん、竜くんをしだいに家族のように想い、冷徹な頭脳派人間のような一面もあった初回からするとだいぶ温かみが増して、居場所を手に入れることができました。このくだり、リアタイしていた高校生の私からすると相当な衝撃でした。家族以外を、家族って言っていいんだ。居場所は作れるんだ。

「家族?それなら代わりがいる…ちょっと冴えないけどね」

こう言って「お前には家族がいないんだろ煽り」で精神をえぐってきた敵を倒すのは実に爽快です(第3話、4話「Mに手を出すな」)。

起こった不幸な出来事は全て、愛情あるが故。愛情が拒まれたり、愛情を奪われたりしたことで嫉妬心や復讐心を燃やしてまた誰かを傷つけてしまいますが、みんなそのうち「赦す」ことを覚えて負の連鎖を断ち切ります。このことが全面に出ている第43話、44話「Oの連鎖」が好きです。人を老けさせる「Old」の力を持つ「老けさせ屋」が闇取引で人を老けさせていき、その被害者が復讐心からさらに別の人を老けさせる…負の連鎖が起こる回ですが、翔太郎くんもおじいちゃんに変えられてしまい手元を震わせながら変身をするなど、コメディタッチで事件解決までが描かれていてとても見やすいです。
第3〜4、43〜44話をバイブルにするだけで私の心はとても救われます。


3 同族争いと決断

Wでよく使われるセリフに、

「男の仕事の8割は決断。あとはオマケみたいなものだ」

というものがあります。翔太郎くんの師匠であきちゃんの実父、「おやっさん」こと「鳴海荘吉」の言葉です。おやっさんが死に、Wが初変身したビギンズナイトのあの日、翔太郎くんは「ひとりで決断した罪」を、フィリップくんは「一度も決断してこなかった罪」を背負ってWとして戦うことを決意します(『仮面ライダー×仮面ライダー W&ディケイド MOVIE大戦2010』の「ビギンズナイト」より)。翔太郎くんの独断が物語のはじまりの悲劇に繋がり、フィリップくんの軸のない奔放な好奇心が実質敵に加担する形になっていた。それに気づかせてくれたのが死ぬ直前のおやっさんでした。おやっさんの最期は本当に格好良く、少ない描写でも偉大さ強さがわかる言葉遣いと振る舞いでした。あんな死に方をしたい。

仮面ライダーが変身に使うアイテムは、地球のあらゆる種類の記憶が入った「ガイアメモリ」。そして、敵が使うのもガイアメモリです。戦闘手段は同じです。使用者が何を目的にしているか。その違いでガイアメモリは街を恐怖に陥れる根源にもなるし、街を救う希望にもなる。人の決断によってガイアメモリの位置づけが180度変わります。何を決断するかによって、人生が変わるということが効果的に描かれている気がします。

4 ガワのデザイン、カメラアングル、BGM

個人的に、Wのスーツデザインは仮面ライダーシリーズの中で一番好きです。
基本フォームは半分緑、半分紫。初代仮面ライダーをモチーフにした触覚とマント。全体的に光沢のある甲羅を重ねたようなフォルム。シンプルでカッコいいです。使うガイアメモリによってガワの色と属性が変わります。Wは初めに6種類のガイアメモリを所持していて、翔太郎くんサイドは紫の「ジョーカー」、灰色の「メタル」、青の「トリガー」、フィリップくんサイドは緑の「サイクロン」、赤の「ヒート」、黄色の「ルナ」を差し替えることで組み合わせは9通りありますが、色と武器、細かい柄が変わるだけで大きな変形もなく終始シンプルです。一番バランスが取れるフォームは「サイクロンジョーカー」「ヒートメタル」「ルナトリガー」なので頻出するフォームも決まっています。のちに「ファングメモリ」「エクストリームメモリ」が加わりますが、本編最終形態のエクストリームもあまりごてごてしておらず、全ての属性を重ねたいわゆる「てんこ盛りフォーム」ではないところが個人的に好きです。
敵、ドーパントのデザインも艶めかしくて好きです。模写したくなる美しさがあります。

カメラアングルも特徴的で、不気味さ、不安感、コミカルさの演出も好きです。人の真下から見上げるようなアングルで背後の建物やタワー全体が入っていたり、大量に重ねたお皿の隙間から覗くアングルだったり。こちらの感情が効果的に掻き立てられます。セリフ一つひとつも聞き逃せなくて、些細な会話一つとっても登場人物の心情が手に取る様にわかることも魅力のひとつだと、偉そうに語ってみます。

BGMも、ダンディな雰囲気のジャズテイストは世界観にマッチしていて音楽だけでも楽しめます。Switch版仮面ライダーWのゲーム内でも聴けたときはたいへん興奮しました。これよこれ〜!(最終話のあきちゃんのセリフより)。

5 スーツアクターさん

レジェンド、高岩成二さんのスーツアクトがすごいの。
Wは翔太郎くんとフィリップくん2人の意識が入っているので、変身中に2人が会話をすると、Wが自分に話しかけることになるというシュールな演出もあります。右側左側どちらからWを写すかで翔太郎くんとフィリップくんのどちらが喋っているのかが分かるのですが、なんと正面から見ていても仕草の違いで容易にわかるのです。性格が動きに出ている。大袈裟な動きじゃないけど、肩の反らし方、考える仕草、揺れ方、指先…素面を演じている桐山漣くんと菅田将暉くんが本当に中に入っているかのようなのです。芸術だと思いました。ちなみに、変身した後に左手のスナップを効かせる「手ぐせ」が私は大好きです。

最後に

子どもだましじゃないんだ。上記の内容の他、ミステリー要素、大人が聞いても楽しめる台詞回しなど、魅力を上げればキリがないです。重たすぎもせず、コメディ要素も満載でのめり込んで観ることができる。「自己否定」「親殺し」「同族争い」の仮面ライダー要素もしっかりと色濃く、人生のバイブルにもなり得る教育コンテンツでもある。え?最高じゃないですか。

これからも、ことあるごとに何度も観返すでしょう。
「仮面ライダーW」を作ってくださった全ての皆様に、ファンより熱くお礼を申し上げます。

さ、ベルトを買うか。


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