カレーのない人生、カレーに出会って以降
私はカレーが嫌いです。
いえ、嫌いでした。
小学校の修学旅行で食べたカツカレーを最後にカレーを避け続けて20年。
この20年の間に、スープカレーやタイカレー、スリランカカレーや間借りカレー、スパイスカレーなどいろいろなカレーが出てきていることは存じ上げておりました。
ここ数年はタイ料理ブームに乗じてタイカレー、パン取材を通じてカレーパンなどを食す機会も出現し、また同時にエスニック料理好きからスパイスへ興味も湧いてきていました。
ただし、カレー克服の道はなかなか険しい道のりなのです。
***
理由はいくつかあるが、ひとつに、だいたいの人がカレー好きであるということ。
「カレーが嫌い」と口にすれば、
二言目には「うわ、カレー嫌いな人って初めて」、
三言目には「カレーのない人生なんて、損してるね」。
予定調和な展開と「別に損してねーし」という湧き上がる思いに、口をつぐむしかなくなるのです。
ちなみに四言目には「なんで嫌いなの?」と来るので、聞き手の関心度と場の残り時間に応じて長尺ver.、短縮ver.それぞれの説明をご用意しております。
もうひとつに、カレーはひと皿料理なので、逃げ道がないこと。
「いざ、挑戦!」と思ったとき、カレーを頼んでしまったら自分で処理するしかなくなる。誰かにあげようにもあげられないのだ。
ましてや、カレーとはこだわりの塊ともいうじゃないですか。
「はじめて自分の意思でカレーを食べるのならおいしいカレーがいいな」とカレー専門店へ行き、「やはり無理…!」とこだわりのカレーを残す無礼者になる勇気はない。カレーは嫌いだが、カレー好きと戦う気はないのです。
カレー好きの誰かが腕を振るってくれたカレーの場合もしかり。
こうしてカレー屋さんに行くランチ会は遠慮し、カレーパーティは避け、大衆食堂や学食、スキー場のレストハウスではthe普通のラーメンか生姜焼きかオムライスを選び、恋人の胃袋はカレー以外の料理で掴んでいけば、自然とカレーと関わらずに20年くらいは生きてこれるのです。
***
そんな私がカレーを作る料理教室に参加した。
春に行ったロンドンで英語が読めず不本意ながらオーダーしたタイカレーが随分とおいしかったことが背中を押したのかもしれない。
一緒に暮らして3年の夫が、いいかげん「私がカレー嫌い=一生家ではカレーが出ない」と気づき、私がいない夜にやたらとカレーを食べていることに気づいたからかもしれない。
友人が「スパイスカレーの料理教室やるからおいでよ!」と誘ってくれたのが決定打だ。
飯田橋の『Curry & Spice Bar カリービト』というお店でカレーを2種類作って食べてきました。
それはそれはおいしくて、「食べれる」どころか、「嫌いじゃない」どころか、「結構好きかも」と思いながら味わったのです。
と、同時にこれからカレーも楽しめるのかと、食いしん坊魂が沸き立ったわけで。
でも、決してカレーがなかった20年間が損だったとも、無駄だとも思っていません。
カレー嫌いはコンプレックスであると同時に無個性な私の少ないアイデンティティにもなっていたし、話のネタにもなっていたし、何よりも今こうして34歳を前に新しい世界に触れられる喜びを感じられているのだから。
あり大抵な言葉にはなりますが、やはり無駄なものなんてないのです。
まだカレー歴は赤ちゃんです。
出会うものすべてに感動と発見があるかもしれないし、意外と次に食べたカレーで再び挫けるかもしれません。
だけど、これからまだ見ぬカレーに触れていく作業というのは、毎日のスパイスになっていく気がしています。
この歳にもなり、まだ新しい発見があり、克服できるものがあり、踏み出せるのだということもまたうれしい発見でした。
追伸
「カレーを食べた」そんな普通のことを聞きつけ、「泣いた」「すごい!」「うれしいけど、ちょっと切ない」とコメントが届いています。
ものすごくどうでもいいことだけど、結構すごいことなんです。