仮面のあの人

「推し」とは何なのか。「推し」という言葉をネットで調べると、「人にすすめるほどに気に入っている人や物、または応援している人」と出てくる。私にとって推しとは、「気に入っているとともに、幸せになってほしい対象」である。私は推しができると、「この人の人生がより良いものでありますように」と願うようになるのだ。

私の推しはダ・ヴィンチ・恐山さんだ。彼は芸能人でもなんでもない、会社勤めのライターだ。(一応メディア出演はしているので、完全な一般人ではない。)何故私が彼を推しと呼ぶようになったのか。魅力は何なのか。沼にハマったきっかけから順に書いていこうと思う。

彼の存在を知ったきっかけはYouTubeだ。ホーム画面に突如「推理すればファンの呼び方も当てられるのか!?」というタイトルの動画が出てきた。投稿しているのは「オモコロチャンネル」。何気なく再生してみると、企画内容や出演者の掛け合いが面白くて見入ってしまった。

そこから同チャンネルの投稿動画を見漁り、ひとつの動画に辿り着いた。

「謎の仮面男ダ・ヴィンチ・恐山の人生を振り返ってみた」

これは出演メンバーの人生をクイズにした動画シリーズのひとつで、そのダ・ヴィンチ・恐山編だ。この内容こそが、私が彼にどっぷりハマるきっかけになったのだ。

動画では彼の幼少期のエピソードを中心にクイズが作られていたが、そのうちの一問がかなり衝撃的で、「そんなことある?」と言いたくなるものだった。問題は「小学生時代、私は自転車にまつわる失敗をしました。それは何?」という問題で、正解は「友達の自転車を自分の自転車と思い込み鍵を開けようとしたが開かず、担いで家に持ち帰った。そこで自分の自転車ではないと気付き、また担いで元の場所に戻しに行った」というものだった。動画を見ていた私はこう思った。

この人絶対ADHDだ。

ADHDとは発達障害の一種で、不注意多動症と言われるものだ。注意力散漫、過集中、衝動性の高さ、落ち着きのなさ、ワーキングメモリの小ささなどが特徴として挙げられる。私は心療内科でその傾向があると診断されているので、恐山さんの思い込みの激しさに思い当たる節があったのだ。ネットで彼の名前を検索すると、「ADHDを公表している」との情報があった。

彼について調べている中で、noteで日記を書いていることを知った。彼のことをもっと知りたい。そう思った私はすぐにnoteの会員登録をし、有料記事を読み始めた。

何が私をそこまで行動的にさせたのか。恐山さんは他の動画内でも、知的な見た目とは反しておっちょこちょいな一面を見せたり、一般的な価値観と少しかけ離れた不思議な発言をしていた。私はそんなマイペースな彼の姿を見て…

胸が、きゅーんとしてしまったのだ。

会ったこともない歳上男性に向けるべき感想ではないが、彼の一挙一動が可愛くて愛おしくてたまらなくなった。沼にハマった瞬間だった。

しかしそれは推すきっかけに過ぎず、私は彼の日記を通じて様々な面を知り、より愛情が深まった。

恐山さんは日常において様々なものに疑問を持ち、すぐに調べる。色々な催し物に行ったり、旅行に行くことも好きなようだ。知らないことは知ろうとする。やった事がないことはやろうとする。そんな知識や経験に貪欲な姿がとても素敵だと思った。

人に影響されやすい私は、すぐに自分でも日記を付け始めた。毎日毎週同じことを繰り返しているような気がしていたが、日々の中に埋もれていた小さな感情を取り出すことで、一日一日を愛でることができるようになった。

そのうち動画を見たり日記を読むだけではなく、彼が書いた本を買ったり出演しているラジオを聴いたりするようになった。特に彼が長年出演している「匿名ラジオ」は、オモコロチャンネルのメンバーであるARuFaさんと二人でやっているラジオで、二人の砕けた雰囲気がとても心地いい。二人とも心の底から笑っているのが感じ取れてこちらも楽しくなる。

ファンレターの返事が出来なくて申し訳ないと思う優しいところ、虫のような見た目の海老を見てワクワクした表情を見せるところ、演劇部で培った腹式呼吸を生かした歌声が素敵なところ…。恐山さんは時々自分を卑下したことを言うが、彼には素敵なところがたくさんある。それを本人に伝えたい。彼の素直に生きる姿を見ることが、私の楽しみだ。

恐山さんの日記には、彼のマイナスな気持ちも素直に綴られている。ストレスで体調が悪くなった日や、締切が過ぎているのに終わっていない執筆業の話、日記を読むと、恐山さんが色々な苦労を乗り越えながら生きているのを肌で感じることができる。だから私は彼を応援したい、彼に幸せに生きてほしいと強く思うようになったのかもしれない。

ネットで活動している以上、心許ない発言を受けることもあるようだ。それに対して少しずつだが傷付いているといつかの日記で語っていた。だから私は彼の日記に毎日コメントを書くようにした。応援の言葉が、その傷を少しでも癒せるように。

私は地方に住んでいるので、東京に住んで活動している恐山さんとは一生会うことはないのかもしれない。でもいつか、いつか直接会ってペンネームを名乗って、「あぁ、あのいつもコメントしてくださっている…」と言われたい。そして今まで残してきた、直接言うには恥ずかしいコメント達を思い出して顔を真っ赤にしたい。

いつかその日が来ると信じて、私は今日も生きている。

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