コラム#2 悲しみの南蛮漬け
「悲しみの南蛮漬け」
真っ白な壁に点々とついた黄色い油の跡を見ながら今日も試食をする。
テーブルにはピンセットで丁寧に骨を抜いた鯵の南蛮漬け。
確かに味付けは美味しい。
美味しいけれど、衣のぼそぼそした舌触りが妙に気になって、
美味しいものを食べたときの脳内ホルモンが全然出てこない。
味が舌先で完結して、全身に伝わってこない。
せっかくの料理を目の前にして、
なんだか心にぽっかりと穴が開いたみたいな悔しさと共に今日も試食をする。
完璧なはずの学校のレシピを、こんなにも味気なく変えてしまう破壊力。
そう、すべてはこの状況のせいなのだ。
新型コロナウイルスの影響で、
学校での調理実習では、予防として向かい合わないように横を向き、
さらには白いパーテーションを卓上に置いて、試食をする。
もちろん会話はNG。
感染予防は万全にしてほしい。
でも、一人で食べることのなんと味気ないことよ。
南蛮漬けもちょっと悲しそう。
こんなポエムめいた事を頭の中で思い浮かべながら試食をした私は、
完全に忙しさでおかしくなっていたと思うのですが(笑)
自粛期間中しんどいなと感じることの一つが
外食や会食の禁止なのではないか、と個人的には感じています。
やはり、家で一人ご飯を食べるよりも、誰かと食べたほうが美味しく感じるし、それを禁止されていることは、人間の本能的な欲求を制限されているような息苦しさがあります。
でもどうしてみんなでご飯を食べると美味しく感じるのだろう?
今日は当たり前のようだけど、そんなことについて改めて想いを巡らせてみたいと思います。
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まず初めに言っておきますが、私は一人で食べ歩くのも大好きです。味に集中できるし、時間を気にしないで食べられるし。
でもそれとは別の部分での「みんなで食べる美味しさ」があるのではないかと思っています。
みんなで食べる=美味しい=正義?
では、みんなで食べるご飯はすべて楽しくて美味しいものなのでしょうか?
こんな経験があります。
就職活動中に参加したある企業の社員の方との会食で、とても高級な松濤にあるフレンチ料理店に連れて行ってもらったのですが、本当ならとてつもなく美味しいはずなのに、ほとんど味については何も覚えていませんでした。
(いつもなら何を食べたのかは記憶にのこるはずなのに!笑)
また、こんな思い出もあります。
ディズニーランドに行くと手で持つタイプの骨付きのチキンを買って食べるのですが、それがとても美味しいという記憶がありました。(ぱりぱりとした皮目の焼き加減と油の乗ったジューシーなお肉が最高)
しかし、ある日のディズニーデートで彼とけんかしてしまい、その日ももれなく骨付きチキンを食べたのですが、本当に味がしなかったのです。(笑)
いつもは一瞬で食べ終わるそれが、無限につづくフードファイト並みのプレッシャーのように感じました。そしてあの完璧に焼かれたぱりっぱりの皮を美味しいと感じることもありませんでした。
つまり、ただ誰かと食べるという事ではなく、気の置けない誰かと、楽しく食べるときに美味しさが増すのだと思います。
美味しいね!の力
さらに思うことがあります。
それは、「美味しいね!」と誰かと共感をすることが、美味しさを増幅させているということです。
口にいれた瞬間美味しいと感じた料理でも、一緒に食べる人に「これ、美味しくないよね」とか「私これ嫌いなんだよね。こういうところが…」とか言われると、途端にまずく感じる経験ってありませんか?
また、逆のパターンもあります。
私には大変懐いてくれている4歳児の姪っ子がいるのですが、いつもは偏食気味でなかなかご飯を食べてくれないそうです。
しかし私が一緒にご飯を食べるときは、嬉しそうに「美味しいね~」と何度も言いながら、普段は決して完食することのない茶碗のご飯を完食したり、決して口にすることのなかったホウレンソウを食べてみたりするのだそう。
好き嫌いしているのを見られたくない!という乙女心もあるかもしれませんが(笑)やはり「美味しいね」の共感の力を感じずにはいられませんでした。
共感できることの嬉しさ×美味しさの相乗効果みたいなものが存在していて、それが一種の脳が喜ぶエンターテインメントにもなっているのだと思います。(共感されることの嬉しさ)
また、相手の「美味しい」という体験を頭の中で追体験することで、実際に舌で感じる味のとらえ方が変わっていくのかもしれません。(共感することでの味の変化)
今週末、Uber Eatsで友人と同じものを頼んで、Zoomしながら食べるという会をやってみようと思っています。
オンラインでも、美味しいね!の相乗効果があるのか、また結果は次のコラムで紹介させていただきます。
<美味しいね!を連発しながら食べる姪っ子ちゃん>
さて、先週で調理実習が始まってちょうど1か月。
最近私はある方法を編み出しました。
それは、試食をしながら、斜め前に座る友人にLineで感想を送るのです。
もちろん調理方法について反省する部分も多いですが、
「ここのこういう部分が美味しかった」とか、味についてまずテキストしてみます。
すると友人は後ろを振り返って目配せしてうなずいたり、逆に首をかしげてみたり、といった反応をしてくれます。
なんだか味気ないと思っていたご飯も、このやり取りで味気を取り戻した気がしています。
(本当はわいわい食べたいけれど、今はこの方法を楽しむことにします。)
「喜びの鯵の南蛮漬け 」レシピ
南蛮漬け=唐辛子などの西洋伝来のものが入っている「南蛮酢」に漬けた料理のことを言います。
◎お酢の豆知識◎
日本料理の和え物に使うお酢は「九一(くいち)」と呼ばれる「お酢+少量の塩」をベースにして作られています。
◎甘酢=「九一」+砂糖
◎二杯酢=「九一」+醤油
◎三杯酢=「九一」+醤油+砂糖
◎土佐酢=「二杯酢または三杯酢」+だし汁 ★だし汁が入るので食べやすく一般的に多く使われます。
◎南蛮酢=「土佐酢」+唐辛子やネギ ★今日はこの「南蛮酢」を使っていきます!
鯵の南蛮漬けレシピ
◎材料(2人前)◎
・きゅうり 1本
・鯵(三枚おろし)4切れ
・小麦粉 適量(鯵を揚げる用)
・南蛮酢の材料(★)
★お酢 200ml
★出汁 400ml
★塩 ひとつまみ
★砂糖 大さじ2
★醤油 大さじ4
★唐辛子の小口切り
◎作り方◎
下準備
南蛮酢の材料を混ぜて煮立たせて、粗熱をとっておく(調味料は一度火にかけることで味がまろやかになるから)
きゅうりを小口切りにして塩水に浸して10分放置。その後水気を絞る。南蛮酢を大さじ2杯程度かけて置いておく。
では作ります!
①油を170度位に熱し、小麦粉を鯵にまぶしておく。
②鯵を油に投入し、皮目がきれいなきつね色になるまで、ひっくり返しながらじっくり揚げる。★低温で揚げることで、中までしっかり火が通る。
③鯵をバットなどに入れ、上から下準備しておいた南蛮酢をかける。
ラップを食材に密着させてはり、30分ほど味をなじませたら、下準備しておいたきゅうりと合わせてお皿に盛って完成♪
★盛るときはお腹に近い方の切り身を手前にする。そちらの方が油が乗っていて美味しいため。日本のおもてなしの心。★生の玉ねぎやニンジンを千切りにして、手順4の時に一緒に南蛮酢に付け込んでも〇!その場合は冷蔵庫で1~2時間味をなじませるとよい。
ぜひご家族やオンラインでお仲間達と、この南蛮漬けを食べてあげてください!!