#05_3歳の男の子を里子に迎えた、「さき」の話
私はふたりに謝りたい。
長い不妊治療から、トモキ君と家族になるまでの話を聞かせてもらい、
実は私は一つ、さきに謝りたいことがあった。
「私今日ね、なるほど!と腹に落ちたことがあるんだよね。」
「え?何??」さきが不思議そうな顔をした。
「さきが当時、不妊治療してた時にさ、白田さんが『体外受精』はいいけど『顕微授精』は嫌だって言ってるから、顕微はやらないっていうのを聞いて、なんでそんなことこだわってるの!?って、若干私、旦那さんにイラッとしたんだよね(笑)」
ああ、そんな事あったね、とさきが言う。
「顕微授精は精子を一つ選ぶからさ、人の手が入るのが嫌だって言ってたけど、それはそれで運命じゃん。女性にはタイムリミットがあるんだし、なんでさきが授かれる可能性を少しでも広げたいと思わないの!?って、実は腹が立ったの。だから、さきが里子をって話を聞いた時にね、頑なに顕微授精を嫌がってたあの旦那さんが、里親に?他人の子を育てる??って、不思議さを感じたんだけど、謎が解けた。」
「例えどんな子が来ても、最初に縁があった子で決める。決して選ばない。……そういうことかぁって。我が子だろうが、里子だろうが、本当に自然の出会いが運命ということかぁって。だって実際、我が子だって選べないもんね。」
「そうそう、“自然”がいい人なの。トモキは自然にこの世に生まれて来ている子でしょ。多分そういう事だと思うよ。」
「私はふたりに謝りたいよ。人の手が入るとか、何ちいせぇこと言ってんだよ!さきの妊娠の可能性を摘むなよ!って、さきには言ってないけど、実はそんな風に思ってた。ごめん!(笑)」
里子を迎えてみたいと言うさきに「全員血がつながってない家族も面白いかもね」と言った白田さん。トモキ君を迎える時、絶対に選ぶことはしない、最初に来た子が、うちの子だ。と言った白田さん。
ああ、なんとも大きな心の持ち主だった。自分の子じゃなきゃ、絶対育てられないと思っている私なんかとは比べ物にならないほど、さきも白田さんも、大きい。さすが、自然相手に生きている二人だ。到底私にはできない。もしも里子を迎えるとなったとしても、私はきっと、選んでしまう。できれば女の子がいいとか、できる限り健康な子で、とか、少しでも自分に似ている子がいいなとか。
まぁ、だから、私のような者は、他人の子なんて育てられるわけがないのだ。
「白田さんのこと、“ちいせぇ男”と思って、すみませんでしたっ!」
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2時間近くのインタビューを終えて、お昼ご飯を食べながら、私たちは我慢していた雑談をしこたまして、別れた。帰宅後、さきからLINEがきた。
「今度、トモキ本人にもぜひ会ってね。
少し身体が小さかったり、でもなんか変に社会性があったりと、
いろいろあるんだけども、
普通の家庭で育った子と違うかと言うと、そんなことはなくて、
なんにも変わらないんだろうな、と思っているのです。
その辺り、うまく話せなかった気がするから、
本人に会ってもらうのが一番早いかなと思うので…!」
里子として、さきと白田さんの元ですくすくと育っているトモキ君が、普通の家庭で育った子と何も変わらないという事は、今日の話と、さきの表情で十分過ぎるほど伝わっていた。
このメッセージにも、さきの息子を想う気持ちが溢れている。
次、トモキ君に会うのが楽しみだ。
3歳の男の子を里子に迎えた、
「さき」の話
ー終ー