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パリ 25ans 15 juillet

15 juillet,  4am, Square du Vert-Galant au ile de la Cite

美しいポンヌフ橋を渡り、真ん中あたりの階段を下りると、シテ島の先にある公園に出た。芝生の街灯の下では、夜通しfeteをしているグループがいて、陽気にこんばんはと声を掛け合った。島の端っこまで歩き、船の舳先のような石堤の上に座ると、冷たい川風に打ち寄せる波の音がちゃぷちゃぷと聞こえた。薄着をしたまま出てきたことを思い出しくしゃみをしたら、Yuanは着ていたジャケットを貸してくれた。大きくて暖かくて、メルゲーズの香辛料のにおいがした。

セーヌ河両岸の街灯とPont des Artsの灯が黒い水面に揺れ、ざあと後方から風がきたかとおもうと、船が静かに通り過ぎた。白波をあげて小さくなる船を見ていると、じっとしているのに波間を進んでいるようだった。「タイタニックみたい」パリに来て1年経つけれど、映画のような風景の中にいるのが不思議だった。ぼんやり夢見心地でいると、後ろでごそごそしていたYuanが、グラスを差し出した。「シャンパンじゃないけど」プラスチックのグラスにピンク色の泡がシュワシュワしている。「何?」「カシスビールだよ」「アルコール苦手だけど、これは好き」「よかった」そして乾杯をした。

冷たいものを飲んだせいか、手足がかじかんできた。体が冷えると雪山で遭難した人みたいに眠くなる。「寒くて死にそう・・」「今は死んじゃだめ」驚いて私の手や足をさする彼の指はとても白く、長くてきれいで、自分の手じゃない手にこんなふうに触れられるのは初めてなのに温かく心地よかった。いつの間にか後ろから包むように抱きしめられ、冷えきった耳や首筋に熱い息がかかる。耳元で「Je ne t'attend pas quelque chose...」と聞こえた。何も期待していない?眠気でもうろうとしながら、何度かそうつぶやく声を聞いていた。昨日初めて会った人なのに、もうずいぶん長い間一緒にいる気がした。

東の空が濃紺色になり白い光が街と水面に差し始め少しずつ色を取り戻していった。後ろで酒盛りをしていた人たちがビンを片付ける音がして、辺りはずいぶん明るくなってきた。両岸の幹線道路にも自動車の往来が増えてきて、7月14日があけるとフランスはバカンスの時期に突入することを思い出した。パリっ子はここから一ヶ月、こぞって街を飛び出し、南へ東へ西へ向かい海や山でのんびりするのだ。

立ち上がろうとしたら、ものすごい痛みがお腹に走った。そういえば、夕方から一度もトイレに行っていない。Yuanはまだ残っているビールを飲んでカップを片付けていた。「a,,,ou sont let toilettes?」カフェのギャルソンに聞くみたいにトイレの場所を聞いてしまった。「橋の上にあったと思うよ。行く?」「うん、、ちょっとおなかが痛い」「大丈夫?」「・・大丈夫じゃないかも」体を伸ばすと痛みが走ったので、くの字に曲げてよろよろと歩いた。

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