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子どもの好奇心とは恐ろしいもので(エッセイ)
#ハマった沼を語らせて
「沼にハマった!」
皆さんにはそんな経験はありますか?
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あれは私が小学校1年生の頃です。
当時、100棟近くある大きな団地に住んでいて、団地の中とその周辺が主な遊び場でした。
その日は滅多に行くことがない団地の端っこの方へ一人で遊びに行ったのです。
つい先ほどまで雨が降っていましたから長靴を履いて出かけました。
十数分歩くと団地の端っこへ着きます。
すると、道を一本挟んだ向こう側に工事現場がありました。
砂が高く積み上がり、雨のせいでしょうか、工事現場には人が居らず大きなショベルカーが数台、眠るように停まっています。
そこが沼の入り口でした。
「ショベルカーかっけぇー!!」
子どもから見たショベルカーはとても大きく迫力があり、本で見るそれとは全くの別物のようです。
もっと近くで見たい!!
そう思った私は意を決して工事現場に足を踏み入れたのです。
幸いにも人影はない。
通行人に見られないようにこっそりとロープをくぐり、雨でぬかるんだ現場を歩きます。
造成工事をしていたのでしょうか、現場は所々砂が高く積み上がり、周りから中の様子は見づらく、足元も泥だらけです。
あと十数メートル歩けばショベルカーに辿り着けるというところまで来ました。
ようやくそのとき異変に気付きました。
足が抜けないのです。
雨でぬかるんだ地面は泥になっており足が沈んでいくのです。
このままではヤバい!とは思いつつも、もがけばもがくほど足は沈みます。
大きな声で助けを呼びますが砂山で死角になっていたこともあり、誰も来ません。
膝の辺りまで足が沈んだころ、スポンッ!と長靴から足が抜けました。
反対の足も同様に長靴を脱ぎ、なんとか沼から脱出することができました。
しかし長靴は沼にハマったままです。
手を伸ばして引っ張っても沼の引力には勝てません。
そのとき長靴が
『俺のことは放っといていいから、お前だけは助かるんだっ!』
と言った気がしたのです。
そこからの記憶は曖昧で、どうやって家に帰ったのか、長靴がないことを親にどう説明したのか、等は覚えていません。
私の命をあの長靴が守ってくれたと言っても過言ではありません。
そしてあれから一度も沼にハマった経験はありません。