「俺は遊ぶけどおまえは遊ぶな」のカラクリ
高学歴、高収入、運動神経は抜群、コミュニケーションが上手く多くの友達に囲まれ、女遊びも派手。そのような人にいくらか会ったことがある。
いわゆる「持っている側」の人たちだ。
私が観測する範囲の彼らは、浮気に全く罪悪感はなかったが、自分の彼女が浮気をすることは嫌った。ずっと疑問だった。
俺はいいけどお前はダメってあまりにもアンフェアじゃないか。
彼女を作らず遊ぶじゃダメなのか。
自分はいいけど相手の浮気は許せない。
それは、男性の本能的なもの?
嫉妬という感情は人間として当然のものだから仕方がない?
単に自分勝手なだけ?
答えを探してみたが、私にはどれもしっくりこなかった。
最近、この話題について自分の納得する答えが見つかったので、「等価交換」からこの話を始めようと思う。
「鋼の錬金術師」の世界では、「等価交換」を錬金術の基本原則としているが、私たちが生きるこの世界も等価交換が成立している。
私たちは何かを得る時、何か同等の対価を差し出している。受験勉強と青春、友達との放課後とピアノの練習……
例の遊び人に話を戻そう。
彼らは、多くの異性と関わるために自分の道徳観を代償にしていた。彼らは遊ぶ中で、簡単に浮気をする人、息をするように嘘を吐く人をたくさん見ていくことになる。
その過程で、人ってこんなに簡単に人を裏切るのかという絶望が無意識にこびりついていった。
そんな人を目の当たりにしたら人を信じられなくても仕方がない。そう、彼らは人間不信なのだ。自分も遊んでいる。関わる女の子も男友達も遊んでいる。信じる理由なんてそこにはない。
だから、恋人には遊ぶ選択肢もなさそうな純粋な子を選んだ。自分にはできない生き方に憧れ、相手に純潔を求めるのだ。
仮に遊ばれ、捨てられ、人間不信になった人がいるとする。そのきっかけとなる相手ははじめから人間不信だ。人を信じるのって恐ろしいことだからね。自分から関係を壊すことで自己防衛をしていた。
彼は完璧だった。
高学歴に立派な仕事、愛情深い家庭、そういったものでずっと自殺し続けていた。
捨てられないものが多かった。そのために殺したのは自分だった。自分と学歴、自分と仕事、自分と家族を等価交換した。
彼は完璧だった。完璧な息子、完璧な彼氏……しかし、完璧とは不完全の裏返しである。コンプレックスの数だけ立派な肩書きがあった。
完璧でいるために労力を捧げると感情の搾りかすが出る。取り繕って生きるとどこかに歪みが生まれるのは当然である。彼はその歪みを、腐った汚い感情を、見て見ぬ振りして性欲へと流した。産業廃棄物の処理は、彼のことを好きな女の子たちが請け負っていた。
彼はコミュニケーションが非常に巧みだった。誰とでも仲良くなれたし、とにかく人当たりがいい。
多くの友達から信頼を寄せられていた。
だが、不思議なことに彼が本音のうちをさらけ出せる人は少なそうだった。
彼は人間不信だったし、自身のことを強く否定していた。本当は知っていた。自分の奥底に汚い感情があることも、ドロドロとしたおぞましい感情も。そんな自分は誰にも受け入れられないと強く信じていた。だから、誰でも手に取りやすいように口当たりよく加工した。その代わりに、ゴミ箱は切れ端だらけでいつも溢れそうだった。
そのため、切れ端を寄せ集めた工場直売アウトレットをどうでもいい女の子に売りつけるのは、仕方のない犠牲なのだ!
自分のことが信じられなかった。愛する恋人、家族さえ、自分の全てを知れば拒否するだろうと思った。
そして、それはしょうがないことだと諦めていた。彼はかわいそうの中で孤独だった。演じる人生からの途中下車は、学校では教えてもらえなかったからだ。
彼は、ずっと寂しかった。愛されたかった。だから、恋人は純粋な裏切らなさそうな子である必要があった。その純粋さに憧れていた。運良く、純粋でそれなりにかわいい真面目な子と両想いになるが、彼氏という称号を手に入れても、それから時が経っても、自分を曝け出すことはできなかった。彼女が好きなのは、彼の光が当たっている部分……たった半分だけだった。
皆から称賛される完璧な人生を誇っていたが、奥底では自分を殺すなんてしたくなかった。本当は自分のどうしようもないところを認められたかった。この自己否定が「俺は遊ぶけどお前は遊ぶな」の正体である。
しょうもない人生だと思う。
自分を置き去りにして手に入れた、東京カレンダーとVERY妻は、立派な見かけをしたハリボテだった。あのテンプレともいえそうなほどの分かりやすい幸せは、自分を偽って生きると決めた覚悟なのだ。
愛する人から愛されることを諦めた……それがどれだけ寂しいものか。そのような選択ができる人と私の人生が交差することはもうないだろう。
私も、ずっと自己開示ができない人生を歩んできた。私が変わりたいと足掻かなければ、同じように赤い靴を履いて死ぬまで踊り続けていただろう。
彼は、私が選ばなかった未来に生きている。
彼が、ぽつりと話してくれた汚いところが好きだった。嘘と返り血に塗れている彼の本心は分からないけど、あの時の彼には、確かな実体と体温があった。
何もかも持っているように見える人は、同じだけ絶望を抱えている。
私はその完璧さの隙間から見える不完全さが好きだ。人間らしくて。理路整然とした「ガワ」を開けたら中身はどろどろの無秩序で。……そんなところが良い。
自分が嫌いな君には信じられないかもしれないけど、たとえ君が何も持っていなかったとしても君のことが好きだよ。私が君の不完全を愛そう。
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