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原付と僕

 実家から最寄り駅まで徒歩20分
 最寄りとは、もっとも近いとことを意味する
 20分歩くこと、それが普通であると20年以上も疑いもせずに生きてきた

 大阪市内に住んでいる知人からいわせれば「最寄ってない」とのこと 
 20分歩いて駅に向かうことを指摘されることに、最初は違和感を覚えた

 実家を出た今、思うことがある

 たしかに最寄っていない

 バスが充実しているわけでもなく、駅までが遠い
 高校生までは免許も持っていないため、問答無用で移動手段は自転車である者が大半であった

 そんな中、高校卒業を機に運転免許を取る友人が周りに増えた

 学生時代に車を買うことができる者は少ないが、原付を買うことができる者はたくさんいた

 御想像のとおり、無論、自分もその一人である


 以前は自転車で坂道を上り30分かけていた友達の家まで、なんと原付に乗ると一滴の汗もかかずに15分で着いてしまうのだ

 昔の自分が可哀想に思えたが、そんなことを思ったのは束の間である

 それからというものは、基本は原付で移動
 「楽ちん!」と鼻高々にルンルンで上り坂を駆け抜けたあの感覚は忘れられない
 おそらく口元が緩みまくっていただろう
 時速30㎞で駆け抜ける半ニヤケの運転手、想像するだけで気持ち悪い

 そんな僕は、原付という相棒を丁寧に乗り続けた


 社会人になった僕は箱型の「自動車」というものを手に入れた

 夏でも冬でも、雨でも雪でも、風が強かろうが全く苦にならない

 デートにだってそれで迎えに行ってしまうほどのイキりっぷり

 自転車には自転車の、原付には原付の、自動車には自動車の、それぞれの良さがある

 しかし、大人になるって無敵だ。結局、利便性を金で買ってしまった

 今は自動車を半ニヤケで運転していることは内緒でお願いします


 乗らなくなってしまった原付は、母の知り合いに譲り渡した

 今も大切にされ、田舎道を元気に走り回っていることを願うばかり...

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