“練習”はなぜ必要か〜音楽する人のための生理学〜
『…何でこんなに同じことを何度も繰り返さなきゃ、できるようにならないんだろう。』
『今日もアレとアレとアレの練習しておかなきゃ…』
練習がイヤになる原因の一つに、この「何度も繰り返す」という要素が挙げられると思います。
今回はそんな「同じことを繰り返す練習」がなぜ必要なのかを、生理学、主に神経系の観点から考えてみたいと思います。
神経の仕組み
「神経」とひとことで言っても、体には様々な神経が張り巡っています。
まず、脳や脊髄にある「中枢神経系」とそれ以外の「末梢神経系」の2つに主に分類され、「末梢神経系」もまた「体性神経」及び「自律神経」に分類されます。
そしてさらに「体性神経」も「知覚神経」(感覚を伝える神経)と「運動神経」(手足を動かす神経)に分けられます。
今回はこれらの中で、主に楽器を演奏することに直結する「知覚神経」と「運動神経」の仕組みについて見ていきたいと思います。
神経はニューロンと呼ばれる神経細胞で構成されています。
ニューロンは細胞体と2種の突起(樹状突起と軸索)を持っていて、このうちの軸索が神経細胞からの情報を末端に伝える役割を果たしています。
この軸索の周囲に、バウムクーヘンのようにぐるぐると巻きついている鞘(さや)のようなものがあって、これを「ミエリン鞘(しょう)」といいます。
このミエリン鞘は、軸索を通る電気信号を他と混線することなくスムーズに伝導する絶縁体の役割をするのですが、ソーセージのように「くびれ」があって(ランビエの絞輪)、このくびれを電気信号が次々と飛び越えてスキップすることにより、情報をよりスピーディに伝えることができるのだそうです。
練習することで起こること
(ふぅ・・・・。←文系女子)
・・・さて!
この「ミエリン鞘」ですが、なんといわゆる"反復練習”をすることによって増えて、ニューロンの軸索にさらに太くグルグルと巻きつくのだそうです!!
そうなるとさらに絶縁性が高まるため、電気信号の伝導が速くなる=練習していることがスムーズにできるようになるということなのですね。
うーん。ミエリンすごい。カワイイ(名前)だけじゃない。
練習を積み重ねることでこのミエリンが太くなって、あのフレーズやこのフレーズもスムーズにできるようになる…。こんな風にイメージすると、反復練習もちょっと頑張れそうな気がしますね。
建設的な努力
身体のメカニズムは、私たちの努力に対してきちんと応えてくれるもの。
このように科学的な面から理解できると、より信頼できるものになりそうです。
…ただし。
このミエリンの働きは「身体にとってあまり効率的でない練習方法」や「望ましくない練習方法」によっても同じように起こると考えられます。
「達成したいこと」についてはあまり適切とは言えない身体の動きの情報によっても、その練習を繰り返すことでどんどんミエリンは増えていき、そのやり方がスムーズになっていきやがて習慣化していくということになります。
反復練習は演奏などの上達に必須であることが今回のことからもさらに裏付けられましたが、「ただひたすらに機械的に繰り返す」「やみくもに一様にルーティン化する」ということがどのような結果を生むか…ちょっと立ち止まって考えたいところではあります。
…余談ですが、
アレクサンダー・テクニークを学んでいると、「やりたいこと」に対してそれがどのように行われることで達成できるかを心身の両面において適切に効率的に考えられるようになるため、結果的にある意味練習量が減るということがよく言われますが、このミエリンの働きから見てもやはり反復練習は必要不可欠なことが分かります。(…当たり前ですが…自戒を込めてw。)
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