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合気道の「受け」について、整理してみました。(2 / 5)

前回(1 / 5)は、
「合気道はわかりにくい?」という疑問に対して、その要因として考えられる、合気道ならではの「受け」を取りあげました。

[前回の記事はこちら]

今回(2 / 5)は、
「受け」とは何か?という疑問について、考えていきます。


(1)「受け」とは何か?


①「受け」の武道的な定義

最初に、合気道における「受け」「取り」の定義を確認してみます。

合気道の稽古は二人一組での稽古が中心になります。「取り」(相手の攻撃を捌いて技をかける側)と「受け」(相手に攻撃を仕掛けて技を受ける側)の役を互いに交代しながら技を掛け、受けを取ります。

(筆者注:太字化は筆者による)

『合気道 その歴史と技法』植芝守央(2021), 日本武道館, p217

この定義を、図にしてみると次のようなります。ものすごく単純化して表しています(①→②→③)。


②「受け」は(本来)上位者が務めるもの

この稽古法は、古流剣術の流れを汲んでいます。「受け」と「取り」を古流剣術の用語に当てはめると、次のようになります。

「受け」=形(かた)における「打太刀(うちだち)」に相当
「取り」=形における「仕太刀(しだち)」に相当

● 形では、打太刀(受け)が仕太刀(取り)に倒される (*1)。
● 打太刀(受け)は通常、上位者(師匠・先生)が務める。

参考:佚斎樗山 / 石井邦夫 訳注(2014),『天狗芸術論・猫の妙術 全訳注』, 講談社学術文庫,p57

最後の一文は特に重要なので、繰り返します。
「打太刀(受け)は通常、上位者(師匠・先生)が務める。」

合気道では通常、師匠・先生が模範演武(「取り」)を行います。そして、弟子・生徒のうち1~複数名が師匠・先生の「受け」を務めます。その後、弟子・生徒同士が組んで稽古を行いますが、このときも、上級者が最初に「取り(技)」を務めます。

こうした稽古の流れがあるので、「取り」を上位者(師匠・先生)、「受け」を下位者(弟子・生徒)が務めるという役割を、「常識」として捉えがちです。

もちろん、合気道の稽古の核は「互いに技をかけ合う」ことなので、上位者が模範となる技を最初に示すことは不可欠です。

ですが、下位者の上達を促し、正しい方向へ導くためには、上位者による「受け」が欠かせません。この点をはっきりと意識するためにも、「打太刀(受け)は通常、上位者(師匠・先生)が務める」という、本来的な定義を忘れてはならないと思います。

③「受け」は「砥石」である

これは、私の師匠である多田宏先生(以下「多田先生」と表記)が、たびたび口にされる言葉です。「受け」のあり方や役割を、これほど的確に言い表わした表現はないと思います。

「受け」は「砥石」となって、「取り」が技を磨き上げる(研ぎ上げる)ための手助けをします。

自己主張をしないという点では、「砥石」は「サンドバッグ」と同じです。ですが、「受け」は「サンドバッグ」ではありません

「サンドバッグ」は一方的に殴られるだけですが、「砥石」は用途・目的に合わせて、たくさんの種類(素材・粒度など)が存在します。

「受け」となった上位者は、下位者のために、必要に応じた「砥石」となります。そして、下位者が技(刃)を研ぎ澄ます、そのための補助として存在するのです(併せて「研ぎ方」も指導します)。

(イメージ)砥石
画像引用:photoAC

ちなみに、合気道は素手(徒手)を基本とする武道ですが、その根底には剣術・槍術の理合があります。そのため、「自らの(そして相手の)手・腕」を、「刀」と見立てることが多くあります。こうした点からも、「砥石」という表現はとてもしっくり来ます。

合気道における「受け」は、「取り」が自らの技を試すための「実験台」でもなければ、一方的に投げられるだけの「サンドバッグ」でもありません。「取り」の技(刃)を研ぎ上げるために、臨機応変に素材や粒度を変化させられる「砥石」なのです

このように考えていくと、
「稽古の形や目的等を理解している上級者が、(本来的には)「受け」を務める」という定義も理解しやすいですね。

(2/5終わり、続きはコチラ)


【参考・引用文献】

(*1)「形稽古」における打太刀・仕太刀について

(前略)相手と向き合っても、攻守の決まった流れに沿って型通りの動きを反復練習する「形稽古」が行われるようになった。打太刀と仕太刀に別れ、まず打太刀が最初の一撃に出ると、仕太刀がそれを防いで反撃に出る、が、打太刀が遅れず攻撃を重ねてくるところを攻撃し・・・といった調子で、繰り返すのである。
 心・気・力を合一させて、練習を何千回何万回と繰り返すことによって、技を身に着け、反射的に行動できるようにするのが形稽古である。

(注)太字化は筆者による。出典:『「剣術」の日本史 二天一流はなぜ強かったのか』(2011, 中嶋繁雄監修, 青春出版社, pp36-37)


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