アニマルウェルフェア④ 選択肢 得るもの、失うもの。日本は何を選ぶべきか?
車を選ぶときに消費者には選択肢があります。ファミリーカーやコンパクトカーのような大衆車を選ぶこともできますし、高級車や準高級車を選ぶこともできます。消費者は自分の価値観と経済力によって、選択をできるようになっています。この選択肢の多様性こそが、消費者を豊かにしていると思います。
そして、大切なことは、選択すると、何を得て、何を失うかを消費者は熟知していることにあります。高級車を選べば、最先端のテクノロジーと高級感のある空間を得ることができますが、燃費の良さと駐車の簡単さは失うことになります。アニマルフェルフェア議論を進める上で、消費者は、自分の選択によって何を得て、何を失うかをよく知る必要があると私は考えています。
ケージ方式は、車で言えば大衆車にあたると思います。まずは大衆車であるケージ方式にて、そこから消費者は何を得ているのかを知る必要があります。そして、ヨーロッパで始まったアニマルウェルフェア議論の先にある鶏の飼養方法の違いで、消費者は何を得て何を失うのか知る必要があります。
世界で最も新しく正確な統計はIEC(International Egg Comisson)の2021年版でありますが、それによると世界で今なお90%以上のたまごは、ケージ方式で生産されています。アニマルウェルフェア議論が始まったヨーロッパでも55%が未だにケージ方式です。また、オーストラリア・ニュージランドは50%が、アメリカ合衆国では72%がケージ方式で生産されています。その他の国はすべて90%以上がケージ方式を採用しています。
このように、世界では圧倒的にケージ方式が主流です。栄養豊かなたまごをリーズナブルな価格で誰にでも供給できることが世界での主流なのです。世界中の多くの人達が、リーズナブルな良質なタンパクを必要としています。畜産物であるたまごを食べることで幸せになることを実感する人たちがたくさんいるのです。
十数年前からヨーロッパで始まったアニマルウェルフェア議論は、結果的に数カ国でケージ方式からそれ以外の飼養方式に移行しました。ケージ方式が10%以下になった国は、オーストリア、スウェーデン、ドイツ、オランダ、デンマークの5カ国に留まります。いずれも、日本より時間労働性が高い国であり、ひとりひとりの時間あたりの収入が高く豊かな生活を送っている人たちの集団であることがわかります。リーズナブルなたまごがあることが当たり前の国であり、鶏の飼い方を付加価値としてたまごに求めた結果だと思います。世界的にみれば非常に贅沢な選択肢の一つだと考えます。
日本では92%がケージ方式を採用しています。その理由は、長い歴史の中で日本の養鶏家は安心安全なたまごをリーズナブルな価格で買いたいという日本の消費者のニーズを再現してきたからです。その過程で飼育方法を平飼いからケージ方式に進化させました。それは鶏とたまごを鶏糞から隔離するためだったのです。鶏は鶏糞と接触させることにより病気リスクが非常に高くなります。また、たまご自体も糞との接触により多くの病原菌の侵入リスクが非常に高くなり不衛生となります。ケージ方式は、鶏糞からの病気リスクを最小化し、たまごに対する鶏糞付着率をもっとも最小化できる最も優れた仕組みなのです。
さらに日本人は、たまごを生で食べる習慣があります。この習慣を持つ国を日本以外には私はしりません。日本の養鶏家がこのケージ方式を使いこなすことで、世界で最も安心安全なたまごを生産できるようになったのです。
日本のケージ方式のたまごは、日本の大衆車です。消費者は、日本のケージ方式のたまごから、世界で一番安心安全な『生』で食べられるたまごをリーズナブルな価格で得ることができます。
私は、平飼いや多段式平飼いが、車の高級車に位置づけられるかどうかは、いまのところ半身半疑です。しかし明確なことは、ケージ方式よりもコストは高くなるので、売値も高くする必要があります。その意味では高級となるかもしれません。しかし、高くなる理由は、時代に逆行し、ケージから平飼いに戻すからであり、すなわちそれは、鶏と鶏糞の接触を意味します。鶏は病気リスクがあがり、たまごは病原体への接触リスクが上がります。平飼いを選んだ消費者は、鶏に自由な環境を与えることを得ますが、かわりにたまごの安心安全は失っている可能性があります。鶏は自由に動ける空間を与えられたかもしれませんが、病気のリスクは上昇するのです。
ヨーロッパ、オーストラリア、アメリカでは、生でたまごを食べません。西欧の国でスタートしたアニマルウェルフェア論議において、飼い方によって、生でたまごを食べることができるかどうかの議論をすることはなかったでしょう。西欧で起きていることを盲目的に追従することで、足元にある最大の日本の強みを失うことだけは避けたいものです。
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