1人じゃないよ
信じていた人がある日を境に別人になっていた。
「おはよう」と言っても返してくれず
一言も話さなくなった。
”私が何かして怒らせたのかな?”
授業中ずっと考えていたけど、理由が見つからない。
智とは誰にも言えない事包み隠さずに全部言えて、毎日手紙のやり取りもしていて
親友になれるのかも―――
そう思っている矢先の出来事だった。
家に帰るとどうにも説明できない感情が溢れて抑える事が出来なかった。
次の日も、また次の日も目すら合わせてくれない。
”どうして?私嫌われたの?”
言葉にならない質問は届かなかった。
「ねぇ、智とケンカしたの?あんなに仲良かったのに話さなくなったから。早く仲直りしなよ」
仲直りしようにも理由が見つからない。最初に書ける言葉が見つからない。
そうして私は孤独になってしまった。
いつもはみんなで机を合わせて騒ぎながら昼ご飯を食べていた場所もなくなった。放課後なんとなく帰りたくなくて教室に残る事もなくなった。
きっと智はそれを狙っていたのかもしれない。私が1人ぼっちで寂しい思いを、辛い姿を見たかったんだと。
誰かの幸せのために不幸になるのは嫌だった。
だったら1人を楽しんでやる。智の思い通りにはならない。
小さな誓いを胸に刻んで私は学校へと向かった。
登校中は兎に角笑っていた。どんなに辛くても悲しくても明るく努めた。
笑顔でいれば楽しい気がして。
”そうだ。どんなときにも笑っていればきっと楽しくなる。1人だって可哀そうじゃないんだ”
毎日毎日唱えていた、同じ言葉を。そして笑顔で学校に行くそんな日々を送る。
ある日の授業、智と偶然同じ席になったことがあった。終始うつ向いている智。先生が教室に入ってくるとすぐに
「先生、席変わってもいいですか」と言った。
「そこの席でいいでしょ。何か問題ある」と先生が答えると、智は明らかに機嫌が悪くなった。
”そんなに私の隣が嫌なの”
沸々を怒りが湧きおこる。何の前触れもなく話さなくなって、こっちは意味が分からず嫌われて・・・。言いたいことがあるなら直接言ってほしい。こんな陰湿な攻撃はお断りだ。
授業の内容なんて全然入ってこなかった。
「ねぇ、無理してない?」
授業が終わって職員室に呼び出され、先生は質問した。先生だけは私が笑顔で戦っていることを見抜いていた。話しかけるその表情は真面目だった。
「無理なんてしてないよ、1人のほうが気楽だし、楽しいよ。私が好きでやっているから心配しないで。」
精一杯強がって応える。惨めな姿に映るのは嫌だったから。
すると先生は
「1人が楽しいだなんてそんなこと言ってほしくない。本当は楽しくなんてないでしょ?辛い時は辛いって言っていいんだから。あなたはまだ大人にならなくていいの」
と怒ってくれた。今まで誰にも自分のために怒ってくれる人なんていなかった。腫れ物に触るように声をかけてくる友達しかいなかった。先生は本当の私の気持ちを汲み取ってくれて怒ってくれる。本当は辛くてしょうがなかった。毎日震える手を抑えながら学校に行っていた。泣きそうになるのをこらえて口角を上げていた。
1人になんてなりたくない。
友達と一緒に昼ご飯も食べたいし、
何でもない会話をしながら一緒に帰りたかった。
本当に楽しい時に笑いたかった。
たくさんの感情が涙とともに溢れて、頬を伝うのを拭っても拭っても止まらなくて途方もなく泣き続けた。
次の日クラスメートのナギと綾が声をかけてくれた。
「一緒に昼ご飯食べよ」って。
それから2人と一緒の学校生活が始まる。後から聞いた話なんだけど、ナギと綾は先生に私の事を話していたらしく「私たちが仲良くしたい」と言ってくれていたそう。クラスの中心的存在の2人と一緒にいることで今まで話したこともない同級生とも話すようになった。
あの時先生が本気でぶつかってくれなかったら私の高校生活はどうなっていたんだろう。今でもきっと嘘の笑顔を浮かべて1人でいたのかもしれない。考えるとゾッとする。
ナギと綾とは卒業しても時々連絡し合って遊んだりもする間柄になった。今ではかけがえのない友達だ。
高校時代辛い事もあったけど、楽しい事や宝物がたくさんできた。
今現在学生の人たちも私ように学校に行くのが辛くて、友達が誰も居なくて悩んでいる人がたくさんいるだろう。でもきっとあなたを見ている人は必ずいる。それは先生だったり、話したこともない同級生だったり、違うクラスのこだったり。
あなたは決して1人じゃないんだから。