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絵のない絵本 とがりあ
とがりあ いまはし あい
はる子さんはそのむかし らじおの中に住んでいました。ちがう。らじおの中から発音していました。それは青ちゃんが「はるちゃんは はるちゃんやねんから はるちゃんのままでいいやんか。」といってくれたからです。
青ちゃんは、はる子さんの恋人でした。 青ちゃんが、そう言った日からはる子さんの旅がはじまりました。
はるちゃん。あんた いったいなんですのんな。言われながらも、はる子さんは旅をつづけました。
そして、また、ある日、はるちゃん明日オーディションにお行きな。といわれた。はる子さんはきっぷを買って港に行きました。 そしてこほん。と咳をして、少しかしこまって質問に答えました。
こほん。が まあまあ良かったです。と山本さんにほめられ、はる子さんは その次の週から、らじおの中から発音する人になりました。
はる子さんのそとみは いわゆる「かわいい」ではありませんでした。 だけど、はる子さんは発音しているとき、そとみは いっさいかんけいなくなることがうれしかったです。
はる子さんの担当は深夜番組でした。3日に1度。25時に星占いをよみます。
らじおには「しゃく」というものがあり、最初「しゃく」が何かわかりませんでしが、それは「長さ」のことですよ。山本さんは教えてくれました。
だけど教えてもらっても、はる子さんは、ありとあらゆる「しゃく」におさまることができませんでした。はる子さんは悲しみました。
だけど「しゃく」におさまられへんねやったら、おさまるような「しゃく」を考えていくのが、はるちゃんをえらんだ側のすることやね。という山本さんのような奇特な人にめぐまれ、はる子さんは はる子さんのまま。深夜に星占いをよみつづけました。
かに座さん ものごとが順調に進みます。うれしいね。
おとめ座さん もりあがります。さそいはことわらんようにしときね。
いて座さん あたためとったことを実行しはじめてもいいよ。ぼちぼちです。
みずがめ座さん こころが動きます。けどあせらへんかったら、だいじょうぶ。
25時。はる子さんは声だけになりました。 声だけになると すべてはやさしくなりました。
星占いは だいじょうぶやし。というためにある気がする。 人は ささいなことでおちこんだりやる気になったりする。 死にたくなったことのない人は占いしになられへんような気もする。
そんなことを思いながら 3日に1度。はる子さんは星占いをよんでいます。
うれしいね。ぼちぼちです。あせらへんかったら、だいじょうぶ。
港のらじおすてーしょんに小さくひびきます。それは小さな星のようです。だけど それは どうやら声のようなのです。 らじおを聞いてる人とはる子さんのやりとりです。
小さな小さな。やりとりです。
⭐︎
粉ミルクの赤い缶の中から ぼわっと山盛りの星占いの紙切れが出てきて はる子さんは、びっくりしました。はる子さんがらじおの中に住んでいたのは19歳くらいで、いつのまにか はる子さんは49才くらいです。はる子さんは はる子さんのまま年をとっていました。
青ちゃんは風のうわさで植木しょくにんになったらしい。というのをそういえば。と急に思い出し、植木屋。そら なんとも。みどりばっかり見ていいことやわ。ふん。あいつー。と毒づいた49才くらいのはる子さんに 19才くらいのはる子さんの声が ちょっとだけうえのほうから聞こえてきました。
うれしいね。ぼちぼちです。あせらへんかったら だいじょうぶ。
「はるちゃんは はるちゃんやねんから はるちゃんのままでいいやんか。」
青ちゃん。とがりあ。次のしゅんかん はる子さんは ちょっとだけ深く。もう泣いていました
わたしには神さまがゐて にひきゐて あなたにいつぴきあげる だいじやうぶ