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人生に必要な知恵はすべて『ドラえもん』で学んだ

 私はアフリカ諸国での再生可能エネルギー事業や、森林伐採後の過放牧によって表土が流出し、林業や農業ができなくなった土地をアグロフォレストリーで環境修復するプロジェクトに長年取り組んできました。また、環境・エネルギー分野の専門家として実業で活動する一方、国内外の大学や研究機関で招聘研究員を務めています。

 日本国内において、ごみ焼却や発電事業での環境アセスメントや住民説明会は非常に重要ですが、アフリカ諸国ではさらに環境アセスメントやパブリックコンサルテーションの重要性が高まります。

 アフリカでは、南アフリカやジンバブエのように英語が通じる国では、比較的スムーズにコミュニケーションが取れます。しかし、モザンビークやアルジェリア、チュニジアのようにポルトガル語やフランス語、アラビア語などが公用語の国では、英語を理解できる人が限られているため、現地の公用語や特定の部族の言語でパブリックコンサルテーションを行うことがあります。このように多様な人種や宗教、文化が入り混じる状況においても、大きな支障なくコミュニケーションを取ることができています。

 また、研究者として英語で国際共著論文を執筆し、国際学術フォーラムで講演する機会も多くあります。学術誌に投稿する論文は厳密な形式に従っており、特にElsevierやSpringerが発行する査読付き学術誌では、主張が明確でなければ査読を通過しません。そのため、査読を通過した論文は同分野の研究者にとって理解しやすい内容となっています。また、フォーラムでの講演も、既に公表された学術論文の内容に基づき、聴講者のレベルに応じて専門用語の使用や図表を活用した視覚的説明に重点を置いて調整しています。これにより、学術的な場でも効果的に情報を伝達できています。

 つまり、アフリカの識字率が低い無電化地域であっても、国際的な学術界においても、私はこれまで一度もコミュニケーションに困難を感じたことはありません。

 これは、私が18年間アメリカで生活していた経験が大きく影響していると考えています。多民族国家のアメリカ、特に『人種のるつぼ』と称されるニューヨークやカリフォルニアでは、異文化間のコミュニケーションが日常的に行われており、英語の特性上、誤解が起こりにくいことも要因の一つでしょう。一般的に指摘されるように、日本語は豊かな表現力を持つ反面、曖昧な表現が多用されるため、行間を読むコミュニケーションが根付いています。一方、英語では曖昧さを避け、具体的で直接的な表現が重視されるのです。

 そのため、英語圏では誤解を避けるために内容を明確にし、誤解の余地をできるだけ少なくする工夫が求められます。特にビジネスや学術の場では、曖昧な表現は誤解を招きやすく、結果として相互理解が損なわれる可能性があります。この点において、英語の直接的なコミュニケーションは、文化的背景が異なる人々との対話を円滑に進めるうえで効果的だと感じています。

 一方で、日本語では相手の立場や感情を配慮し、暗に伝える表現が多用されるため、コミュニケーションがより繊細になります。これらは日本人同士ではスムーズに通じる反面、外国人との対話では齟齬が生じることも少なくありません。この違いを理解し、状況に応じて両言語の利点を使い分けることが、国際的なコミュニケーションを円滑にするために重要だと実感しています。

 異文化での生活経験と多様な言語やコミュニケーションスタイルに触れてきたことは、私にとって大きな財産であり、相手の言語や立場に関わらず、コミュニケーション能力に強い自信を持っていました。

 しかし、2010年から日本国内の大学で産学連携アドバイザーや客員研究員を務め、日本企業の経営者として活動するようになると、コミュニケーションに深刻な障害を感じるようになったのです。私は成人するまで日本で生活していたため、日本語や日本の文化に関しては一般的な外国人経営者よりも熟知していると自負しています。それにもかかわらず、日本の企業や日本人と円滑なコミュニケーションができないという事実は、日本が国際化できていない証拠であり、日本がビジネスを行ううえで困難な環境であることを示しているのです。

 世界銀行は2021年に『Doing Business』レポートを廃止しましたが、2020年の『Doing Business(ビジネスのしやすさランキング)』では、日本は29位でした。このランキングでは、法人設立の難易度、建設許可の取得、電力へのアクセス、資産登記、融資の獲得、投資家保護、納税、貿易取引、契約執行、破産処理などが考慮されています。しかし、先進国でありながら29位というのは、他の先進国と比較すると低い評価です。

 この低い順位は、日本のビジネス環境が複雑で、特に官僚的な手続きや規制がビジネスの進展を妨げていることを示唆しています。さらに、日本ではビジネスにおけるコミュニケーションが形式的で慎重なアプローチを重視するため、意思決定のプロセスが遅れやすく、外国企業や投資家とのコミュニケーションがスムーズに進まないことがあります。これにより、ビジネスを円滑に進めるために必要な対話や交渉において、他国と比べて障害が生じる可能性があります。

 また、日本語特有の曖昧な表現や間接的なコミュニケーションスタイルも、外国人とのビジネスにおける齟齬を引き起こす要因となることが多いです。これらの点を総合すると、ランキングの低さは、日本のビジネス環境における規制や手続きの複雑さだけでなく、国際的なビジネスコミュニケーションの難しさも一因であると考えられます。

ドラえもんに学ぶPREP入門

 このようにコミュニケーションが難しい日本では、円滑な対話を実現するためのヒントとして、葛西さんがnoteで解説している『日本のDX失敗の原因とその解決策』が参考になります。その解決策の一つが『ドラえもんに学ぶPREP』を活用したコミュニケーション能力の向上です。

 ドラえもんの世界では、私たちの日常で直面する問題とよく似た状況が頻繁に描かれていますが、彼の対応は常に論理的でわかりやすいものです。この『問題解決のアプローチ』は、ビジネスや日常のプレゼンテーションに役立つPREP法の優れた例です。

 ドラえもんの会話の流れも、このPREP法に沿っています。例えば、のび太がテストで0点を取ったとき、ドラえもんの対応をPREP法に当てはめると、以下のようになります。

Point(結論)
ドラえもん:『また0点を取っちゃったの? ちゃんと勉強しないと次も同じ結果になるよ。』

 最初に、のび太が0点を取った問題に対して結論を明確に伝えます。『勉強しないと結果は変わらない』というメッセージをシンプルに伝え、のび太に問題の重要性を認識させます。

Reason(理由)
ドラえもん:『だって、のび太くんはいつも漫画ばかり読んで勉強していないから、ちゃんと学習しないとテストでいい点を取れないんだよ。』

 なぜその結論に至ったのか、理由を説明します。ここでは『勉強していないから成績が悪い』という因果関係をわかりやすく示しています。しかも、自らが漫画のキャラクターでありながら漫画を否定することで、パラドックスを生じさせ、この説明に独特の訴求力を持たせています。

Example(具体例)
ドラえもん:『スネ夫やしずかちゃんは、毎日ちゃんと予習や復習をしているからいい点を取れているんだよ。だから、のび太くんも同じように勉強すれば、次は良い点を取れるはずだよ。』

 具体例を挙げて、スネ夫やしずかちゃんが成功している例を示し、のび太が同じように努力すれば成果が出ることを伝えます。具体例は、のび太にとってわかりやすい仲間の例で、彼に行動を促す効果があります。

Point(結論の再提示)
ドラえもん:『だから、今からしっかり勉強を始めよう! 次のテストでいい点を取れるように頑張ろう。』

 最後に、最初に示した結論を再度強調します。ここでは、勉強を始めることの重要性を再確認させ、行動につなげるよう促しています。

レジ袋有料化に対する反対意見をPREPで展開

 このフレームワークは、ビジネスだけでなく環境問題の議論にも応用できます。例えば、レジ袋有料化が効果的でないという主張を、PREP法に基づいて以下のように説明します。

Point(結論)
『レジ袋の有料化は、環境問題の根本的な解決にはほとんど効果がありません。』

 まず、結論としてレジ袋の有料化が大きな効果を持たないという主張を提示します。環境保護の観点からレジ袋有料化が導入されていますが、その効果が限定的であることを指摘します。

Reason(理由)
『なぜなら、レジ袋が全体のプラスチック廃棄物に占める割合は極めて小さく、他のプラスチック製品が依然として大量に使われているからです。』

 レジ袋の有料化が環境に与える影響が非常に限定的である理由を説明します。レジ袋だけに焦点を当てても、他の使い捨てプラスチック製品が多く存在しているため、プラスチックごみ削減にはあまり貢献しません。

Example(具体例)
『例えば、日本ではプラスチックごみに占めるレジ袋の割合はわずか1%程度です。さらに、レジ袋が減少しても、その代わりにゴミ袋として別のプラスチック製品を購入する人が多く、全体のプラスチック使用量はほとんど変わりません。』

 具体例として、日本におけるレジ袋の割合を挙げ、レジ袋を有料化しても他のプラスチック製品が依然として使用されている状況を示します。これにより、レジ袋有料化の効果が限定的であることを裏付けます。

Point(結論の再提示)
『したがって、レジ袋の有料化に注力するよりも、プラスチック全体の使用削減やリサイクル技術の向上、さらにはプラスチックに代わる素材の導入に注力すべきです。』

 最後に、最初に提示した結論を再度強調し、レジ袋だけでなく、より大きな問題に焦点を当てる必要があると提案します。

ドラえもんに学ぶビジネスでのPREP

 ドラえもんの論理的なアプローチは、ビジネスのプレゼンテーションや説得の場面で大いに役立ちます。PREP法を用いることで、相手に分かりやすく結論を提示し、その理由や具体例を論理的に説明することが可能です。

 小学生でも理解できるドラえもんの言葉を借りて『そりゃあ大変だ!』と危機感を共有しつつ、解決策をしっかりと示すことが成功へのカギです。こうしたシンプルで効果的なコミュニケーションの重要性を再確認したことが、私にとって日本での仕事における最大の気づきなのです。

武智倫太郎

#仕事での気づき #レジ袋 #プラスチック #環境問題 #小泉進次郎

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