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グローバル市場で戦うために:日本企業が政府依存から脱却すべき理由(2)

 本日は記事を書くのが面倒なので、上の記事のコメント欄をコピーするという手法を使います。しかも今回は、記事のヘッダーのカバーイラストも使いまわしです。

 前回の記事では、ジャストシステムの経営ミスや、日本の官公庁との取引が日本企業の衰退を招く理由について述べました。一方、コメント欄ではATOKの技術解説を行いました。私は、根拠のない『日本企業が世界で頑張れ』的な精神論ではなく、日本企業の優位性や、実現可能な経済発展に向けた具体的な対策について述べています。

TAKAさんのコメント
一太郎はもはや死語となり、ワードに名義が完全に変わり、政府の補助金目当ての事業者が、福祉事業者から、エネルギー関連会社まで、多岐にわたり、目的が、事業より、「補助金」になりつつあります。ここが、30年の衰退ポイントでしょうか?

その通りだと思います。

〆野 友介さんのコメント
当時、一太郎以外の日本語入力ソフトは誤変換が多く、特に古典作品のテキスト入力においては、一太郎以外では誤変換だらけで全く使い物になりませんでした。

 日本のAIに対する理解が不足している大学教授や政治家、あるいは特定の利益を目的とする政商の影響で、ATOKは過小評価されており、ATOK自身もそれほど強く主張していませんでした。

 しかし、OpenAIがGPT-4ベースのChatGPTを2023年初旬にリリースし、爆発的なダウンロード数で話題になった同時期の2023年2月にATOKハイパーハイブリッドエンジンがリリースされたのは、両者が自然言語処理(NLP)やディープラーニングといった共通の技術要素を使用しているためです。

 ただし、GPTは汎用的な言語モデルであり、多言語に対応し、さまざまな自然言語タスクに対応することを目指しているのに対し、ATOKは日本語の予測変換や文法修正に特化した日本語IMEです。技術的に共通する要素がある一方で、目的や応用分野が異なります。

 共通点は以下のようなものですが、ChatGPTは多言語対応で、英語だけでなく日本語でも直接的に文章を生成できます。一方、ATOKは日本語の確率モデルに基づいて予測変換を行うため、日本語の入力補助として自然で正確な変換を提供します。

ATOKとGPTの技術共通点

1.自然言語処理(NLP: Natural Language Processing)
2.ディープラーニング
3.コンテキスト理解
4.予測変換
5.学習データ(特に日本語に関してはATOKが優れたデータを蓄積)
6.ユーザー適応型学習
7.多様な出力対応

 2023年2月にリリースされた『ATOKハイパーハイブリッドエンジン』には、ディープラーニング技術を活用した変換エンジン『ATOKディープコアエンジン』や、入力ミスを補正する『ATOKディープコレクト』が搭載されており、入力効率が飛躍的に向上しました。

葛西さんのコメント
今時、世界に展開するつもりなら、最初から世界の市場を見て、日本はローカルな一つの市場くらいに考えるのがちょうどよいかもしれません。一太郎も、日本語周りは1つのローカル市場向けの機能と定義していたら、また異なった展開になったかもしれませんね。

1990年代のATOKが持っていた高度なNLP技術

 1990年代のATOKが持っていた優れたNLP(自然言語処理)技術を考えると、葛西さんのコメントの意図がより明確になります。ATOKは日本語入力システムとして特化しているように思われがちですが、日本語の特徴を考慮すると、ATOKが国際的な競争力を持っていたことがわかります。

 1990年代のATOKは、日本語特有の複雑な文法や表記を正確に処理する技術を備えており、他言語のIME(入力メソッドエディタ)と比較しても非常に先進的でした。以下では、日本語、中国語、英語の三つの言語を比較し、ATOKの言語処理技術がいかに優れているかについて説明します。また、ATOKは古典の日本語にも対応していたことは、〆野 友介さんが指摘されています。

1.日本語の複雑さとATOKの高度な処理能力
 
日本語は漢字、ひらがな、カタカナ、さらにローマ字を用いる多層的な文字体系を持っています。この文字体系の多様性により、入力システムには高度な文字変換技術が求められます。

文脈に依存した漢字変換:日本語では同じ発音でも異なる漢字が使われる単語が多く、文脈に基づいて正確な漢字を選ぶ必要があります。ATOKはこの文脈依存の漢字変換に優れており、ユーザーが入力した内容から適切な単語やフレーズを推測し、正確な変換を行いました。

敬語処理:日本語には尊敬語や謙譲語などの敬語があり、状況に応じて使い分ける必要があります。ATOKはこの敬語処理にも対応しており、ユーザーの意図に応じた適切な言葉遣いをサポートする機能が古くからありました。

2.中国語との比較:文字体系と文脈処理
 中国語も漢字を使用する言語ですが、日本語とは異なり、ひらがなやカタカナのような補助的な文字は存在しません。すべて漢字で表現されます。また、中国語の文法は比較的単純で、動詞の活用や助詞の使用もほとんどありません。そのため、漢字の変換は文脈に依存する部分が少なく、日本語ほど複雑ではありません。

単純な音節からの変換:中国語では1つの音節に対して対応する漢字が限られているため、漢字変換は比較的単純です。しかし、同じ発音に複数の漢字が対応する場合があり、その選択には文脈が必要です。ATOKは、日本語の文脈依存の漢字変換において中国語システムよりも高度な処理を行うことができました。

多層的な文法処理:中国語には、日本語のような複雑な敬語や動詞の活用がないため、文法処理において日本語ほどの高度な技術は必要とされません。この点でも、ATOKの処理能力が際立っていました。

3.英語との比較:構造の単純さとATOKの文脈理解
 英語はアルファベットを使用し、日本語や中国語に比べて文字体系が非常に単純です。そのため、文字変換や文脈依存の処理の複雑さは、はるかに低くなります。

表記体系の単純さ:英語はアルファベットで全ての単語が表現されるため、文字変換の必要がありません。入力システムはスペルチェックや文法チェックに焦点を当てていますが、漢字変換や文脈依存の処理を必要としないため、日本語入力システムに比べて技術的な難易度は低いです。

文脈依存の少なさ:英語は文脈に依存した文字変換がほとんど必要ないため、ATOKが日本語で実現していたような高度な文脈処理技術は求められません。英語の入力システムは主にスペルミスの修正や予測変換に焦点を当てており、文脈に基づく高度な処理技術が求められることはほとんどありません。

4.1990年代のATOKの技術的優位性
 1990年代のATOKは、単なる文字入力システムではなく、文脈に基づく高度な自然言語処理を備えたシステムとして進化していました。特に複数の文字体系を扱い、適切な文脈に基づいて単語を選び出す技術は、他の言語の入力システムには見られない高度なものでした。

学習機能:ATOKはユーザーの入力パターンを学習し、次回以降の変換精度を向上させる機能を備えていました。これは、ユーザーが頻繁に使用する単語やフレーズを記憶し、より適切な変換を提案するための技術です。

予測変換の先進性:ATOKは1990年代の時点で既にユーザーの入力内容を予測し、候補を提示する機能を持っていました。これにより、入力スピードが向上し、作業効率が大幅に改善されました。

結論

 ATOKは、1990年代において日本語特有の複雑な文法や表記を高度に処理できるNLP技術を備えており、当時の日本語入力システムとして非常に優れていました。文脈理解や敬語処理、予測変換などの高度な機能は、世界市場でも競争力を持つ可能性を秘めていました。

 しかし、ATOKはその優れた技術にもかかわらず、十分に評価されることなく、日本政府やAI関係者によってその蓄積されたノウハウが有効活用されていないのは大きな問題です。

 特に、NLPのブラックボックス問題に対して、ATOKが長年培ってきた文脈理解や学習機能のノウハウは、部分的な解決策を提供する可能性があります。ATOKはルールベースの文脈処理を採用しており、予測変換がどのように行われたかの透明性を提供することで、現在のディープラーニングモデルに見られるブラックボックス問題を緩和できる可能性があります。

 ただし、ATOKは従来、ディープラーニングを基盤としたシステムではなかったため、ブラックボックス問題を完全に解決できるわけではありません。

 しかし、2023年にリリースされたATOKハイパーハイブリッドエンジンでは、ディープラーニング技術も導入されており、従来のルールベースアプローチと最新のAI技術を組み合わせることで、説明可能性を持つシステムとして進化しています。このように、ジャストシステムは過去の企業ではなく、現代のAI技術にも対応した高いポテンシャルを持つ企業であることが明らかです。

 日本企業が世界市場で競争力を発揮するためには、ATOKのような技術を過小評価せず、十分に活用していくことが重要です。政府や業界関係者が、こうした技術的資産を効果的に活用できていない現状を見直し、日本独自の技術をグローバルに展開するための戦略を再考することが必要です。ATOKが持つ文脈理解や学習機能は、AIのブラックボックス問題の部分的解決策となり得る技術であり、ジャストシステムは今後もその技術資産を活かし続けるべきです。

武智倫太郎

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