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バブルはどこへ溶けた?

 昔々、バブルの国に住む投資家たちは、毎日のように豊かさを追い求めていました。彼らは、いくつかの光り輝く宝物を手に入れたくて、バブルという名の不思議な液体を使い始めたのです。このバブルは、いろいろな色や形を持つ美しい宝物を生み出すと言われていました。しかし、このバブルには不思議な力があり、その力に触れたものは、必ずその正体を見失ってしまうのでした。

 時は流れ、ある日、国中の投資家たちは新しい宝物『ESGバブル』の噂を耳にしました。このESGバブルは、環境を守り、社会に良いことをし、公正な経営を行う企業だけが手に入れられるとされ、全員が夢中になりました。みんなは、この新しいバブルこそが未来の豊かさを保証してくれるものだと信じ、ESGバブルを集めることに躍起になりました。

 ところが、次第に奇妙なことが起こり始めました。ESGバブルの中には、本当の価値を持たないものが混ざり始めたのです。バブルの国の投資家たちは、その輝きに目を奪われ、実際には中身が空っぽのバブルを次々と集めてしまいました。やがて、彼らは『このバブルは本当に価値があるのだろうか?』と疑問に思い始めました。

 その頃、遠くから新しい噂が聞こえてきました。それは、AIという名の魔法の力を持つ宝物のことでした。このAIは、ESGバブルの本当の価値を見抜き、より確実に宝物を見つけ出すことができると言われていたのです。投資家たちは、AIに魅了され、ESGバブルからAIバブルへと目を向け始めました。彼らは、新しい未来を築くために、AIの力を借りようとしたのです。

 しかし、ここでも注意が必要でした。AIバブルもまた、見かけだけではその本当の価値を見極めるのが難しいものでした。AIの力を正しく使いこなせる投資家たちは、新たな豊かさを手に入れることができましたが、そうでない者たちは、再び無価値なバブルを集めてしまう危険があったのです。

 バブルの国の住民たちは、自分たちが求めていた豊かさは、ESGバブルやAIバブルの中にだけあるわけではないことに気づきました。本当の宝物は、自分たちの目で確かめ、慎重に選び抜くことでしか見つけることができないのです。

武智倫太郎

【自己解説】
 機関投資家の大半は、株式、債券、不動産、オルタナティブ投資、外貨(FX)、デリバティブ、インフラストラクチャー投資などを、それぞれ専門分野ごとに分けて運用しています。こうした分野ごとのチーム分けにより、それぞれの分野に特化した高度な専門知識とスキルを活かし、リスクを分散させるとともに、投資全体のパフォーマンスの最適化を目指しています。

 一方で、2000年代初頭からESG投資という新しい概念が普及し始めました。ESG投資とは、環境(Environmental)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の要素を考慮に入れた投資戦略であり、これらの要素を投資対象の選定やリスク評価に広く適用するものです。

 しかし、ESGバブルという現象も見られるようになりました。これは、ESGというラベルが付けられた投資対象の選定に問題が生じるケースが多いことを指します。ESGファンドの中には、環境負荷の高い化石燃料事業や、持続可能性に疑問のある銘柄が含まれている場合もあります。このように、ESGの名を借りて、実際の投資内容が不透明なまま投資家に提供されるという問題が生じており、2008年のリーマンショック時に見られたシンセティックCDOに類似した手口と言えます。

 リーマンショックの際には格付け機関も問題となりましたが、当時の格付けと現在のESG投資格付けには以下のような類似点があります。

評価基準と透明性の問題:リーマンショックの際、格付け機関がどのような基準で格付けを行っていたのか、その透明性が問題となりました。ESG投資格付けにおいても、評価基準の一貫性や透明性が課題として挙げられています。異なる格付け機関が同じ企業に異なる評価を付けることがあり、投資家に混乱を招くことがあります。

利益相反の可能性:リーマンショック時、格付け機関は自らの利益を優先し、顧客(投資銀行)の意向に沿った高い格付けを与えることで利益相反が生じました。ESG投資格付けにおいても、格付けを行う機関が企業との間で利益相反の関係に陥る可能性があるという懸念があります。例えば、企業が格付け機関に報酬を支払ってESG評価を受ける場合、客観的な評価が難しくなるリスクがあります。

過度な信頼:リーマンショック時、多くの投資家が格付け機関の評価を過度に信頼し、リスクを軽視していました。同様に、ESG投資格付けにおいても、投資家が格付けの評価を鵜呑みにし、深く検証しないまま投資判断を行うリスクが存在します。

ESGバブルが発生した背景

投資家の関心の高まり
 ESGは、企業の持続可能性や社会的責任を評価する基準です。従来の財務指標に加えて、企業の環境保護活動、社会的責任の履行、透明で公正な経営体制などを重視する投資手法として急速に注目されるようになりました。持続可能な投資が未来のリターンを保証すると考えられ、特に長期投資を志向する機関投資家や年金基金がESG投資を重視しました。この結果、ESG関連の企業やファンドへの資金流入が急増しました。

政策の後押し
 多くの国がESG関連の規制や推奨を導入し、企業に対してESGに関する開示を求める動きが進みました。欧州連合(EU)は、サステナブル・ファイナンス開示規則(SFDR)などを導入し、ESG投資の標準化を図りました。これにより、企業や投資家がESGを無視できない状況が生まれ、ESG関連の資産価格が急騰しました。

消費者および社会の意識の変化
 環境問題や社会的責任に対する消費者の意識が高まり、企業はESG要素を無視することがブランド価値の低下につながると認識しました。そのため、多くの企業がESG戦略を強化し、これが投資家の注目を集める一因となりました。

パフォーマンスの過剰評価
 一部の投資家は、ESGに関連する投資が経済的なリターンを大幅に向上させると過信しました。この過信が、実際の企業パフォーマンスを過大評価させ、ESG関連資産のバブル形成を加速させました。

ESGバブルの現状

バブルの崩壊
 ESGバブルは、2022年頃からその限界が露呈し始めました。主な要因として、ESG投資の実際のリターンが期待ほど高くなかったことや、ESG評価の一貫性や透明性の欠如が挙げられます。これにより、ESG関連資産の価格が低迷し始め、一部の投資家はESG投資のリスクに気づき始めました。

規制の強化と調整
 ESGに対する規制が厳格化され、投資家や企業に対する透明性の要求が高まりました。この結果、ESGバブルが膨らんだ原因の一つである過剰な期待や投資過熱が沈静化しつつあります。

投資家の再評価
 現在、多くの投資家はESG投資を再評価しています。特に、短期的なリターンを重視する投資家は、ESGへの期待を調整し、バランスの取れた投資ポートフォリオを求める傾向にあります。

持続可能な成長へのシフト
 ESGバブルが一部で崩壊したとしても、持続可能な投資の理念自体は引き続き重要視されています。現在、投資家はESG要素をより慎重に評価し、長期的な視点でのリターンを求める傾向が強まっています。

ESG投資からAI関連投資へのシフト

 ESGバブルは、投資家の過剰な期待と社会的な圧力によって発生しましたが、現在ではその一部が調整されています。しかし、ESGそのものが無視されるわけではなく、より持続可能な成長が模索されている段階にあります。

 生成AIブームが顕著になった2023年以降、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資家がAI関連銘柄にシフトする動きが見られます。これには、AI技術の進展とその応用が、ESG投資の分析やデータ処理において重要な役割を果たしていることが背景にあります。

 多くの投資家や資産運用会社が、ESG投資のデータ収集と報告を効率化し、より正確な投資判断を下すためにAIを活用し始めています。AIは大量のデータを処理し、ESGリスクの分析や投資先の選定において重要な役割を果たしています。これにより、AI関連銘柄がESG投資の一部として注目され、投資家がAI技術を持つ企業に資金を移動させる動きが強まっています。

 例えば、2024年には、ESG投資とAI技術の融合が進み、AIを活用した持続可能な投資の実現が期待されています。また、企業がAIを活用してサステナビリティデータの分析を強化することで、ESG投資の透明性が向上し、投資家の関心をさらに引きつけています。

 但し、このシフトには慎重な評価が必要で、AIの活用が適切に行われない場合、投資リスクが増大する可能性もあります。そのため、ESG投資家は引き続きAI技術の進展を注視しながら、適切な投資判断を行うことが求められます。

 このように、ESG投資家の間でAI関連銘柄へのシフトが進んでいることは、持続可能な投資戦略の進化を示す一例です。

ESGバブルの影響と展望

 ESGバブルが崩壊しても、全世界の運用金額の三分の一がESG銘柄やファンドに投資されている現状は、必ずしもその投資対象の株価が過剰に高騰していることを意味するわけではありません。実際には、これは特定の企業をESG銘柄に分類するかどうかの問題であり、ESGバブルが弾けたとしても、実質経済に深刻な影響を与える可能性は低いです。

 但し、ESG銘柄から除外されることで、そのプレミアム価格が若干下がる可能性はあります。また、無駄なESG投資を避けることで一部の企業は業績を向上させ、その結果として株価や企業価値が上昇することも考えられます。

 しかし、『無駄なESG投資』という概念は一部の企業に当てはまるものであり、すべての企業に適用できるわけではありません。ESG投資は、長期的な競争力を高めるための有効な手段であるケースも多く見受けられます。

 一方で、AIバブルはこれまでに存在しなかったAIベンチャー企業の無秩序な上場や、AIのハードウェアおよびソフトウェア関連企業への過剰投資に伴う、実態のない価値に対する過剰な期待に基づいています。

 これは、不動産バブルやドットコムバブルと類似しており、存在しない価値に高値がつけられている状況です。そのため、市場が冷静さを取り戻すと、深刻な経済的調整が必要となり、経済破綻を引き起こすリスクがあります。但し、すべてのAI関連投資が危険なわけではなく、実際に新たな価値を創出するケースもあるため、リスク評価が重要です。

 また、最近の動向として、ESG投資家がAI関連銘柄にシフトしていることが挙げられます。これは、AI技術がESG投資の分析やデータ処理において重要な役割を果たし、投資判断の精度を向上させるためです。AIの進展に伴い、AI関連銘柄がESG投資の一部として注目されるようになり、投資家が資金をAI技術を持つ企業に移動させる動きが加速しています。これにより、ESG投資とAI技術の融合が進み、AIを活用した持続可能な投資が期待されています。

 このように、ESG投資家の間でAI関連銘柄へのシフトが進んでいることは、持続可能な投資戦略の進化を示す一例です。但し、このシフトには慎重な評価が必要で、AIの活用が適切に行われない場合、投資リスクが増大する可能性があります。

 例えば、GAFAMは生成AIの急激な活用に伴い、パリ協定目標の達成を断念せざるを得ない状況に陥っています。

 そのため、AI関連企業の多くが、大規模生成AIの消費電力問題から目をそらすために、核融合発電とセットでの持続可能な発展を目指そうとしています。しかし、2050年までに核融合発電が情報通信産業の消費電力を賄うレベルで普及する可能性は、ほぼゼロです。これは、大規模生成AIの普及が環境負荷を過度に高め、持続可能性を担保することが極めて難しいことを意味しています。

 したがって、ESG投資家はAI技術の進展を注視しつつ、適切な投資判断を行うことが求められます。

武智倫太郎

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