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エネルギー輸入封鎖がもたらす日本の脆弱性とその対策
皆さんは義務教育で現代史を学んだことがありますか? そもそも、どこからが近代史で、どこからが現代史なのか、その定義を教わったことはありますか?
【現代(げんだい)】
① 現在の時代。今の世。当世。
② 歴史上の時代区分の一。ふつう、日本史では第二次大戦後の時代、世界史では第一次大戦後の時代をさす。
歴史の授業は、年齢や学校によって、学んだ内容は大きく異なる可能性があります。ですので、私が学んだ内容と皆さんが学んだ内容も異なっているかも知れません。今回は小中学校の歴史の授業で学んだかも知れない内容について、私が学んだことを説明します。
算数や理科のように、誰がやっても同じ答えになる科目とは異なり、歴史の認識は人それぞれです。百人いれば百通りの見方があるかも知れません。そのため、私は歴史の授業が嫌いでした。さらに、私の担当教師は日教組の強い影響を受けたバリバリの左翼だったので、皆さんが学んだものとは異なる歴史を教わっていた可能性があります。もし間違った認識があれば、教えていただけるとありがたいです。
なぜ日本は太平洋戦争をはじめたのか?
私はテレビを持っていないため、日本のテレビでどのような歴史が報道されているのかは知りませんが、YouTubeでNHKの『新・ドキュメント太平洋戦争』のような番組を見ると、日本があたかも被害国であるかのように描かれている印象を受けます。一方で、私がアメリカで観ていたThe History Channelでは、日本が加害国として描かれています。さらに、中国の歴史番組を観ても、日本は加害国として扱われています。
私の認識では、戦前の日本は東南アジアから資源を購入していた時期もありましたが、最終的には植民地化や占領を通じて資源を強制的に獲得する方向に進んでいきました。
1.戦前の東南アジアとの貿易関係
日本は東南アジアの資源に強く依存しており、1930年代にはオランダ領東インド(現在のインドネシア)などから石油、ゴム、錫、その他の重要資源を輸入していました。当初、日本はこれらの資源を正当な貿易を通じて入手しており、特にオランダやイギリスの植民地からの輸入が重要な供給源でした。
2.経済制裁と資源危機
しかし、1930年代後半から1940年代初頭にかけて、日本の軍事的拡張が進むにつれて、欧米諸国は日本に対する経済制裁を強化しました。特に1941年には、アメリカ、オランダ、イギリスが日本への石油禁輸措置を取ることで、日本は深刻な資源不足に直面しました。これにより、日本は自国の力で資源を確保しなければならないと考えるようになりました。
この時期、海軍内部では戦争に慎重な声もありました。例えば、山本五十六などの海軍高官は、アメリカとの戦争が長期化すれば勝ち目がないと警告していましたが、陸軍の強硬派の影響力が強まりました。特に陸軍大臣の東條英機が総理大臣に就任したことで、戦争への機運がさらに高まりました。国内では、軍事指導者が政府のトップに立ったことで、戦争が避けられないとの認識が広まっていきました。
一方、日本の歴史番組では、この後に続く『東南アジアの占領と資源の強奪』についての説明が十分でないと感じることがあります。
3.東南アジアの占領と資源の強奪
資源不足を背景に、日本は東南アジアへの軍事進攻を開始し、占領地から資源を強制的に獲得しました。1941年12月に真珠湾攻撃を行い、太平洋戦争を開始した後、日本は迅速にフィリピン、マレー半島、オランダ領東インド、ビルマなどの東南アジア地域を占領しました。
これらの地域は、石油、ゴム、錫、鉄鉱石などの豊富な資源を持っていたため、日本はこれらを『資源供給地』として利用しました。例えば、インドネシアからは石油を、マレー半島からはゴムを大量に調達しました。この過程で、日本は現地のインフラや生産設備を掌握し、現地住民を強制労働に従事させることもありました。この占領政策は、事実上、資源の強奪に近いものでした。
4.現地住民への影響
日本の占領下では、多くの東南アジア諸国で現地住民に対する強制労働や過酷な徴用が行われました。また、日本軍による経済支配により現地経済は深刻な打撃を受け、住民の生活は困窮し、飢餓や疾病が蔓延しました。日本は『大東亜共栄圏』という名目でアジアの自立と共栄を掲げていましたが、実際には資源の確保と軍事的利益を優先した占領政策が行われていました。
このように、日本は天然資源の乏しい国であり、その資源を確保するために東南アジア諸国を武力で占領しました。そして、これらの資源は、戦争を遂行しアメリカに対抗するために必要不可欠なものでした。この視点から見ると、欧米諸国が日本に対して石油禁輸措置を取ったのは、当然の措置と言えるでしょう。
第二次世界大戦前の石油禁輸の歴史
日本は、第二次世界大戦前に石油禁輸という形でエネルギー輸入が封鎖された経験を持っています。この禁輸措置は、日本の戦略に大きな影響を与え、最終的に太平洋戦争への突入を促す一因となりました。現代の日本人が考慮すべきことは、『アメリカが石油を禁輸したから日本が戦争を始めたのか、それとも日本が戦争を開始しそうだったためにアメリカが石油を禁輸したのか』という点です。
これは、現在のSDGsにおける文脈でも同様に考えることができます。たとえば、今日の国際的な圧力が日本に対して石炭使用をやめるよう求めている状況は、かつての石油禁輸と類似した構図を持っていると言えるか知れません。。
1.石油禁輸(第二次世界大戦前)
1930年代後半、日本は中国に対する侵略を続け、日中戦争を行っていました。この戦争に対して、アメリカをはじめとする西側諸国は日本に対して反感を強めていきました。当時の日本は、国内に石油資源がほとんどなかったため、主にアメリカや現在のインドネシアになっている当時のオランダ領東インドから石油を輸入していました。
石油禁輸の開始
1941年7月、日本が現在のベトナムなどになっている仏領インドシナに進出したことを受け、アメリカ、イギリス、オランダなどが日本に対する経済制裁を強化しました。特にアメリカは、日本に対する石油輸出を停止し、これは事実上の石油禁輸でした。この禁輸により、日本は戦争遂行に必要な石油の供給が途絶える危機に直面しました。
石油禁輸が引き起こした影響
石油禁輸は日本の戦争計画に深刻な影響を与えました。日本政府と軍部は、このままでは石油不足によって戦争を続けることができなくなると考え、石油資源を確保するための方策を模索しました。この結果、日本は石油資源を豊富に持つ現在のインドネシアを占領する計画を立てます。しかし、そのためには、アメリカ太平洋艦隊が駐留するハワイの真珠湾を攻撃し、アメリカの軍事力を一時的に無力化する必要がありました。
太平洋戦争の開戦
こうして1941年12月7日(現地時間)、日本は真珠湾攻撃を実施し、太平洋戦争が開戦しました。日本はその後、東南アジアに進出し、石油を含む資源を確保しようとしましたが、最終的にはアメリカとの戦争が長期化し、敗北へとつながりました。
2.戦後のエネルギー輸入封鎖のリスク
戦後の日本は、エネルギーの大部分を輸入に依存する形で経済を発展させてきました。1970年代のオイルショックは、その脆弱性を再認識させる出来事でした。
オイルショック
1973年、第一次オイルショックが発生しました。これは、アラブ諸国が中東戦争(第四次中東戦争)を契機に、石油の輸出を制限し、価格を大幅に引き上げたことにより、世界的なエネルギー危機を引き起こしたものです。日本はその当時、エネルギーのほとんどを中東から輸入していたため、石油価格の急騰や供給不安に直面しました。
このオイルショックは、日本経済に大きな打撃を与え、エネルギー政策の見直しや省エネルギー技術の開発、原子力や再生可能エネルギーなどの代替エネルギーの導入が加速するきっかけとなりました。
このように日本は過去にエネルギー輸入が封鎖されることで大きな影響を受けたことがあります。特に第二次世界大戦前の石油禁輸は、日本の戦争計画や太平洋戦争の引き金となりました。また、戦後もオイルショックの経験から、エネルギー輸入への依存リスクを低減するための政策が進められてきました。しかし、現代でも依然としてエネルギーの大部分を輸入に頼っているため、同様のリスクは残っています。
日本のエネルギー備蓄量
日本は非常にエネルギー輸入に依存している国で、特に石油、天然ガス、石炭の輸入に大きく依存しています。このため、エネルギー備蓄は国家安全保障の観点から非常に重要です。2024年時点での主要エネルギーの備蓄状況は以下の通りです。
但し、以下の日数はすべて現状と同じペースで消費した場合の日数なので、石炭が輸入できなくなったエネルギーを、天然ガスや、石油などで補うと、この備蓄日数は一気に短くなることを多くの人が理解していませんので、その点に着目して以下の日数が如何にギリギリの量しか備蓄できていないか理解してください。
石油備蓄:日本には国家備蓄と民間備蓄があり、合計で約200日分の備蓄があると言われています。これは石油が輸入できなくなった場合に、約6ヶ月間国内での石油供給を維持できる量です。内訳は、国家備蓄が約90日分、民間備蓄が110日分です。
LNG(液化天然ガス)備蓄:LNGは、発電や産業用途で重要ですが、石油ほどの長期備蓄は難しいとされています。一般的には2~3週間程度の備蓄があり、これは石油に比べると非常に短期間です。
石炭備蓄:石炭は比較的安定した供給が行われており、備蓄量も少なく、約1ヶ月分の在庫が確保されています。
原子力燃料備蓄:原子力発電に必要なウラン燃料は、輸入先の多様化やリサイクル技術の進展により、数年分の燃料が確保されていると考えられます。ただし、この『数年分』というのは、現在稼働している少数の原子力発電所を基にした推定です。石炭、ガス、石油などの発電で不足した電力を補うために、再稼働が検討されているすべての原発を稼働させた場合でも、日本全体の必要電力のごく一部しか賄えません。
さらに、燃料のリサイクルについては、日本はフランスやイギリスといった複数の国に依存していますが、国際情勢の変化や技術的な問題によってリサイクルが中止されるリスクがあります。また、ウラン燃料の輸送は海上輸送が主であり、燃料輸送船が制裁や紛争などの理由で停止された場合、燃料の輸入ができなくなる可能性も否定できません。このようなリスクを考慮すると、現在備蓄されている数年分の燃料が急速に消耗する危険性があります。
例えば、発電所の稼働が倍増すれば、2年分の燃料は1年分に、稼働数が4倍に増加すれば、その燃料は半年分にまで短縮されます。こうした状況では、原子力発電だけで日本のエネルギー需要を安定的に支えることは難しいのです。
1.エネルギー輸入封鎖が起こる場合の影響
もし日本がすべてのエネルギー輸入を封鎖された場合、以下のような深刻な事態が想定されます。
a. 短期的影響(数週間~数ヶ月)
経済的混乱:エネルギー価格の急騰や供給不足が即座に発生し、企業の生産活動が停止し、交通機関や物流が機能不全に陥る可能性があります。特に自動車や航空業界への影響は甚大です。
電力不足:特にLNGの備蓄が限られているため、発電所が停止し、電力供給に大きな問題が生じる可能性があります。これにより、計画停電や大規模な停電が発生することが考えられます。
水道水の停止:多くの人が見落としがちですが、水道水は電気ポンプによって圧送されており、大量の電力を使って家庭やビルに供給されています。特に高層住宅が多い都市部では、水道の停止が致命的な影響を及ぼします。災害を経験した方はご存じかもしれませんが、ライフラインが止まって最も深刻な影響を与えるのは、実は電気や電話ではなく、自宅の水の供給が止まることです。例えば、トイレが数回分の排泄物で使用できなくなると、その不便さは甚大です。
食糧供給への影響:エネルギー輸入封鎖は物流の混乱を引き起こし、食料の輸送や生産にも深刻な悪影響を与えます。特に輸入に依存する食料品の供給が滞ることで、食料品の価格が急騰する可能性があります。
b. 中期的影響(数ヶ月~1年)
工場や企業の閉鎖:エネルギー不足が長期化すれば、多くの製造業や重工業が操業を停止せざるを得なくなります。また、エネルギーが不可欠なIT業界なども大きな影響を受け、社会全体の機能が麻痺する可能性があります。
社会不安の増大:生活インフラの崩壊や物資不足によって社会不安が高まり、暴動やパニック買いなどの社会的混乱が広がる危険があります。
c. 長期的影響(1年以上)
持続可能なエネルギーシステムへの転換:長期的には、エネルギー輸入に依存しない国内資源や再生可能エネルギーへの転換が急務となります。しかし、日本国内での化石燃料資源は限られているため、風力、太陽光、水力、地熱などの再生可能エネルギーの大規模な導入が必要です。ただし、これには莫大な時間とコストが掛かります。
エネルギー自給率の向上:輸入封鎖が続くと、国産エネルギー源の開発が急速に進むかも知れませんが、日本の資源量では限界があります。エネルギー消費の削減と新技術の導入が進む一方で、生活水準の低下や産業の縮小が避けられない状況になるかもしれません。
1.エネルギー封鎖対策の可能性
エネルギー輸入封鎖に対する日本の対策として、以下のような取り組みが必要です。
備蓄の増強:特にLNGや石炭の備蓄を強化し、輸入封鎖に備えることが重要です。しかし、実際のところ、日本では総合商社が脱炭素政策の一環として石炭権益を売却する動きが進んでおり、石炭の権益を確保することが難しくなってきています。また、LNGは2〜3週間しか備蓄できません。これはLNGタンクの不足によるものではなく、液化されたLNGが長期間保存できない技術的な理由によるもので、備蓄量の増加には限界があります。
再生可能エネルギーの加速:日本国内で再生可能エネルギーの普及をさらに促進し、輸入依存を減らす政策が必要です。日本は地理的条件や土地の制約から、再生可能エネルギーの導入余地が限られています。国内だけでは限界があるため、オーストラリアのような海外の大陸に再生可能エネルギー生産設備を設置することが検討されています。
シンガポールのように地理的に近い国々は、オーストラリアから電力を海底ケーブルで送ることが可能ですが、日本との距離では技術的・経済的に大きな課題があります。そのため、オーストラリアなどで発電した再生可能エネルギーを利用して電気分解によって生成された水素やアンモニアをエネルギーキャリアとして輸入する計画がありますが、私はこれらの計画を全面的に否定しています。
エネルギー効率化:省エネ技術の導入を促進し、エネルギー消費量を削減することが長期的な課題となります。
以上のように、日本はエネルギー備蓄をある程度確保しているものの、輸入依存度が非常に高いため、輸入が完全に封鎖されると社会的・経済的に壊滅的な影響を受ける可能性が極めて高いです。
つまり、日本は産業構造を根本的に変えない限り、エネルギー封鎖に対する実効的な対策を講じるのは難しいのが現実です。
武智倫太郎