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政治不信と年金・医療崩壊が日本にアナーキズム的コミューンをもたらすのか?

 今回は、シャシャ・虹さんから『資源枯渇性と資源分配問題から考えるSDGs』のコメント欄を記事にしてみてはどうかというアドバイスをいただきました。そのため、以下のリンクのコメント欄に書かれている内容を理解するための基礎知識を、この記事にまとめました。

 ところで、皆さまは『コミューン』という概念をご存じでしょうか。この単語は『コミュニティー』と同じく、『共通の、共有された』を意味するラテン語の『commūnis』が語源です。『コミュニティー』は、より広い意味で使われ、特定の地域、趣味、目標、価値観を共有する人々の集まりを指します。一方、『コミューン』はより狭義で、共同生活や資源の共有を重視した小規模な共同体を指し、政治的・社会的な自治や協力の要素が強調されています。

国際的な『コミューン』の意味

 国際的に『コミューン』とは、共通の価値観や目標を共有する人々が集まり、共同生活を営む『コミュニティ』を指します。多くの場合、次の特徴が含まれます。

共同所有と資源の共有:コミューンのメンバーは、土地や建物、資源を共同所有し、個人の私有財産を最小限にします。

自給自足:食料やエネルギーを自ら生産し、できる限り外部の経済に依存せずに生活します。

集団的意思決定:コミューンでは、民主的または合意形成による意思決定が行われ、権威や階層を最小限に抑えます。

平等主義:経済的・社会的な平等を重視し、個人の役割や責任をなるべく均等に分担します。

エコロジーやサステイナビリティ:環境意識の高いライフスタイルを志向し、持続可能な生活を目指すことが多いです。

アナーキズム的な傾向:一部のコミューンは、国家や政府からの独立や不干渉を望む思想を持ち、アナーキズムや社会的実験の場として機能しています。

日本の共同体としての『コミューン』の特徴

 日本の『共同体(コミューン)』は、上記の国際的な定義に部分的に似た要素を持っていますが、文化的・社会的な背景から異なる点も存在します。

類似点

相互扶助の精神:日本でも伝統的に村落社会や地域コミュニティでは、互いに助け合う『相互扶助』の文化が強く、国際的なコミューンの平等主義や共同生活の要素と共通しています。

自給自足の志向:日本のエコビレッジや地方移住の取り組みでは、持続可能な生活や自給自足を目指す動きが見られます。これも国際的なコミューンのエコロジー志向と似ています。

共有経済:日本でも、地域の農地や資源を共同で管理し、シェアリング経済的な要素が見られることがあります。

相違点

法と制度への依存:日本のコミューンや共同体は、基本的に法や制度に依存しており、完全なアナーキズム的な独立を志向するケースは少ないです。土地や住宅に関する厳しい規制や税制が存在し、政府や自治体との関係が必要不可欠です。

文化的な調和志向:日本の共同体では、個人主義よりも集団の調和を重視する文化が強いため、国際的なコミューンのように個人の自由を追求するというよりは、集団内での平和的共存が重視されます。極端な平等主義や権力分散ではなく、適度な秩序と調和を求める傾向があります。

都市と地方のギャップ:日本では都市部と地方部でコミューンに対する関心やアプローチが大きく異なります。地方では伝統的な共同体が存在する一方、都市部では共同体意識が薄れつつあります。国際的なコミューンでは、都市部でも集団で生活する形態があり、都市・地方の違いがさほど強調されません。

集団決定の傾向:日本のコミューンや共同体は、多くの場合リーダーシップや長老制、地域の決まり事に依存することが多く、国際的なコミューンで見られるような完全な合意形成や水平的な意思決定が難しい場合があります。上下関係や年功序列が文化的に強く残っています。

規模の違い:国際的なコミューンは、小規模な数十人から数百人規模で運営されることが一般的です。これらのコミューンは、主に共通の理念や価値観を共有するメンバーが自発的に集まり、共同生活や資源の分配、民主的な意思決定を行う形式が特徴です。特にエコビレッジやアナーキズム的な共同体が典型的です。

 これに対して、日本の共同体は、地域住民全体で数百人から数千人に及ぶ場合があり、伝統的には地縁に基づく共同体が形成されることが多いです。例えば、村落共同体や町内会、自治会などがその例であり、農作業の協力、地域の祭り、防災活動などを通じて住民同士の結びつきが強化されます。日本では、個人単位の意識よりも地域単位での集団意識が強く、協調や互助が重要視される傾向があります。このため、災害時には消防団や自主防災組織などが活躍し、地域全体が一丸となって支え合う文化が根付いています。

 さらに、現代では伝統的な共同体だけでなく、過疎化や地域活性化を目的としたNPOや地域振興活動も地域社会を支える新しい形の共同体として機能しています。これらの活動も、住民間の協力を基盤にして地域のつながりを維持・強化しています。

 つまり、日本の共同体としての『コミューン』は、国際的な定義といくつかの類似点を持ちながらも、法制度や文化的背景から異なる要素も強く存在します。国際的なコミューンは自由や平等、アナーキズムに重点を置く一方、日本の共同体は調和、秩序、法制度との関係がより強調される傾向があります。日本でコミューンが大規模に流行するためには、これらの文化的・法的要素をどう調整するかが課題となるでしょう。

アナーキズムとは何か?

 アナーキズム(Anarchism)とは、国家や政府などの権力機関を不要または有害とみなし、個人の自由や自治を重視する思想や運動を指します。アナーキズムは、社会秩序を権威や強制によってではなく、個人や集団が自発的に協力し合う形で形成すべきであるという考え方に基づいています。

アナーキズムの主要な概念

無政府状態(Anarchy):アナーキズムの根幹には『無政府』という考えがあり、これは『無秩序』という意味ではなく、中央集権的な国家権力や支配構造の不在を意味します。アナーキズムでは、秩序は政府や法律ではなく、自律的で自発的な協力によって生まれると考えます。

権威の否定:アナーキズムは、あらゆる形の権威(政府、警察、軍隊、資本主義の所有者など)に反対します。権威や支配があると、それが個人の自由を奪い、支配する側と支配される側の不平等を生むという考えです。

個人の自由:アナーキズムは、個人の自由を最大限に尊重し、個人が他者からの強制なしに自分の意思で行動できる社会を目指します。そのため、国家や権力を排除して自由な社会を構築することを理想としています。

自主自治:アナーキズム社会では、個人や小さな集団が自主的に自治することが推奨されます。集団が合意に基づいて意思決定を行い、権威による強制なしに協力することが理想とされています。

相互扶助:アナーキズムの支持者は、人々が自発的に協力し、互いに助け合う『相互扶助』の精神を大切にします。これは競争ではなく協力を基盤とした社会モデルです。著名なアナーキストであるピョートル・クロポトキンは、この相互扶助が進化の重要な要素であると説いています。

平等主義:アナーキズムは、経済的・社会的平等を追求し、すべての人々が同じ権利と機会を持つことを目指します。階級や特権を否定し、資源や富の公平な分配を提唱します。

アナーキズムの種類

 アナーキズムは一枚岩ではなく、いくつかの異なる分派があります。これらは基本的な原則を共有しつつも、社会の運営方法や経済の構造に対する考え方で異なります。

アナルコ・サンディカリズム:労働組合を通じて社会を管理し、労働者が直接民主的に社会を運営することを目指す運動です。資本主義に反対し、労働者階級が社会の中核になることを目指します。

アナルコ・コミュニズム:国家や私有財産を廃止し、すべての資源や財産を共同で所有する社会を目指します。富や資源が平等に分配され、個人が必要なものを自由に利用できることを理想とします。

アナルコ・キャピタリズム:国家による介入を排除し、自由市場に基づく経済システムを支持する一派です。政府の規制を廃止し、個人や企業が自由に取引を行うことで社会が自律的に運営されることを目指します。

緑のアナーキズム:環境問題に焦点を当て、自然との共生を重視するアナーキズムの一派です。工業社会や都市生活を批判し、持続可能な生活を推奨します。

アナーキズムの実践例

 歴史的にいくつかの地域でアナーキズムの実験が行われてきましたが、持続的に成功した例は限られています。

 つまり、アナーキズムとは、国家や権力を排除し、個人や集団が自発的に協力し合う社会を目指す思想です。強制的な権威や支配構造を否定し、自由と平等を重視することが特徴です。日本でアナーキズム的なコミューンが広がる可能性は現時点では限定的ですが、特定の不信感や社会情勢が高まれば、一部の層で関心が強まる可能性はあります。

現在の日本におけるコミューンへの関心

 現在の日本では、共同体(コミューン)のような生活スタイルが一定の興味を集めていますが、全体的な流行とまでは至っていません。しかし、以下のような要因がコミューン的なライフスタイルに関心を寄せる人々を増やしています。

過疎化と地方移住:都市部の過密状態や生活コストの高さから、地方移住への関心が高まっています。地方の活性化や自然との共存を目指すプロジェクトの一環で、共同体的な生活を志向する動きが見られます。

コロナ禍の影響:新型コロナウイルスの影響でリモートワークが広がり、働き方や生活スタイルが柔軟になったため、都市に固執する必要がなくなり、自然豊かな場所での共同生活に魅力を感じる人が増えています。

環境意識とサステイナビリティ:環境問題への意識が高まる中で、持続可能な生活を追求する人々が増加しています。エコビレッジやパーマカルチャーといった概念に基づいた共同体の実践は、サステイナブルな生活を志向する人々にとって魅力的です。

社会的孤立への対抗:高齢化社会が進む中で、孤独感を減らすための共同生活やコミュニティ意識が強調されています。共同体での生活は孤立感を緩和し、相互扶助的な暮らしを提供する手段としても注目されています。

コミューンが広まる可能性と課題

 一方で、現実的には以下の課題も存在します。

文化的背景:日本社会は伝統的に個人主義よりも集団主義が強い面があるものの、プライバシーや自立が尊重される傾向も強く、共同体的な生活に抵抗を感じる人も多いです。

法的・経済的制約:共同体での生活を支える法制度や経済的なモデルが整っていないため、大規模な普及には制度的な支援が必要です。

労働文化との相性:働き方改革が進む中でも、長時間労働や企業文化の影響で、コミューン生活が実現可能な柔軟なライフスタイルと完全に一致するかは疑問が残ります。

 今後、地方の過疎化対策やサステイナブルな社会の構築が進めば、コミューン的な生活様式が一定の支持を得る可能性はありますが、大規模な『流行』となるかは今後の動向次第と言えるでしょう。

年金破綻や医療制度崩壊により、政府に頼らないアナーキズム的なコミューンが日本で流行る可能性はあるか?

 日本において、年金制度の破綻や医療制度の崩壊への不安をきっかけに、政府に頼らないアナーキズム的なコミューンが流行する可能性は、現時点では限定的と言えます。しかし、特定の状況や条件が揃えば、こうしたライフスタイルに対する関心が一定の層で高まることは考えられます。

アナーキズム的コミューンが流行する要因

 年金・医療制度への不信感:年金制度の将来性や、少子高齢化による医療制度への負担増が懸念されています。政府に依存せず自給自足や地域の互助で生活を成り立たせるコミューンは、一部の人々にとって魅力的な代替策となる可能性があります。

政治不信の拡大:政府や既存の制度に対する不信感が広がると、既存の枠組みを離れた生活を選ぶ人々が増えるかもしれません。特に、政治家や官僚に対する不満が高まれば、自己管理や相互扶助を基盤としたアナーキズム的なコミューンが注目されるでしょう。

アナーキズム思想の拡がり:社会的な動きとして、アナーキズム的な思想は少数ながら根強い支持者がいます。インターネットを通じて、こうした思想が広がる可能性があり、コミューンの成立に寄与することも考えられます。

社会システムの脆弱性露呈:災害やパンデミックの影響で、社会のインフラや制度が一時的に崩壊した場合、自給自足型のコミューンが一時的にでも注目を集める可能性があります。こうした経験を経て、恒久的なコミューン生活を志向する人が増えることも考えられます。

アナーキズム的コミューンが広がることの課題

 一方で、アナーキズム的なコミューンが日本で広く流行するには、以下のような課題もあります。

文化的な抵抗感:日本社会は、他者との協調や集団主義を重視する反面、制度や秩序を大切にする文化が根強いです。そのため、アナーキズム的な思想や政府に依存しない生活スタイルには抵抗感が強い傾向があります。

土地や資源の問題:自給自足型のコミューンを維持するためには、十分な土地や資源が必要です。日本は国土が限られており、都市部では特に土地の確保が難しいため、地方でのコミューン形成が現実的ですが、地方の過疎化や経済活動の限界が課題です。

経済的な持続可能性:アナーキズム的なコミューンが経済的に自立し、長期間存続できるかは不透明です。多くの人々は依然として市場経済や資本主義の中で生計を立てているため、完全に独立した経済圏を維持することは難しいでしょう。

法的規制:日本では、土地利用や自治に関する法規制が厳しく、完全なアナーキズム的コミューンを合法的に運営することが困難です。自治体や国との法的な関係をどうするかが大きな課題となります。

結論

 年金制度の破綻や医療制度の崩壊をきっかけに、アナーキズム的なコミューンが日本で一部の層において広まる可能性はありますが、大規模な流行となる兆しは限定的です。制度への不安が深刻化し、既存の社会システムに対する不信感が大きくなれば、一部の人々がアナーキズム的なコミューンを選ぶというシナリオは考えられます。しかし、日本社会の文化的背景や法的・経済的な制約を考慮すると、それが主流になるには多くのハードルが存在します。

 それにもかかわらず、政治不信と年金・医療制度の崩壊などが明らかになるにつれ、日本国民が一気にアナーキズム的な発想に流される可能性は否定できません。ジャスミン革命で、SNSを通じて国中の世論が一気に変わったのと同じ現象が、日本でも生じる可能性はあるのです。

武智林太郎


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