近未来麻雀小説(7)ハコ割れの金さん
これまでのあらすじ
新華強北町奉行と裁判長を兼務する主人格と、打ちの金さんの第一交代人格を持つ解離性同一症の遠山金太郎は『お白州麻将勝負』で、新華強北町を財政破綻さてしまい、その苦悩から第二交代人格の萬田金次郎を出現させた。萬田金次郎は高利貸しの才能を生かして、代打ちの金さんが闇麻将で荒稼ぎした100万PayPayポイントを、トイチの金利で新華強北町に貸し付け、第三セクター方式で新中華麻将テーマパークを建設して財政再建を目指すことになった。
新中華麻将テーマパーク
新華強北町普請奉行(土木)と、作事奉行(建築)から随契で合計40万PayPayポイントを受注した萬田建設は、年貢回避地として有名だった香港南町の免税特区にSPC(特定目的会社)の萬田地所を設立し、新華強北町の荒廃地の地上げを開始した。
地上げとはいっても実際に必要な面積は、コンテナサーバー1個分で十分だったので、地上げに必要な費用は、メタバース(仮想空間)用メインフレーム代金を入れても1万PayPayポイントも必要なかった。
メタバースなので建設はDALLE3に『新中華都市の巨大で豪華な五重塔のカジノ雀荘』と入力するだけで、ほんの数秒で新中華麻将テーマパークが完成した。
遠山金太郎の第二交代人格の萬田金次郎は、あっという間にメタバースの新中華麻将テーマパークを完成させると、『見てみい。トイチの金利なんぞ、なんちゅうことあらへん。勘定奉行はん。テーマパークができたら次にせなあかんことは何やねん?』
『何と申されましても、拙者は勘定以外には何もしたことがない故、分かりかねまする。ここは、麻将が専門の麻将奉行殿の管轄ではござらぬか?』
『それもせやな。麻将奉行はん。で、次は何やねん?』
『雀士の面子が揃わぬと試合になりませぬが、そのメタバースとやらでは、CPU対局ができるので、CPU同士で対局させて、某が審判をするということでござるか?』
『どあほが! そないなことしたかて、電気代とおのれの給金が出ていくだけで、どっから銭(ゼニ)が入ってくるんや? 奉行所に出勤しただけで給金もらえると思うとる、おのれのような銭くい虫の公務員ばかりやから、新華強北町の財政が破綻してしまうんやで』と、主人格の遠山金太郎が『お白州麻将勝負』で裁判長のハコを飛ばしたことなど、まるで他人事のように、他の奉行たちを罵ったが、萬田金次郎にとっては、遠山金太郎は別人格だったので、金次郎的には他人事であった。
『えぇか、お前らよう勉強せいよ。テーマパークができても鴨がおらんかったら、商売あがったりや。せやから、次にやらなあかんことは、客寄せに決まっとるやろうが!』
全ての奉行の財政を握っていて奉行人事に詳しかった勘定奉行は、『萬田金次郎殿。拙者に妙案がござる。人集めには寄場奉行にやらせてみては如何か? 寄場奉行の仕事は人足寄場の管理故、その日暮らしの雀士を集めてくるのには、うってつけでござる』
『まぁ人足は、大した銭は持っとらんが、博打好きは多いさかい、アバターでタキシードでも着せて打たせ取ったら、それなりに客寄せにはなるわな。鴨るんやったら、銭のない奴からちゅうのが、マクドやケンチキの基本や。せやけど、ホンマに上客集めるんやったら、何やこう、マチルダみたいな花形雀士が必要やから、これからえぇ雀士も集めなあかんな。あと、おのれら麻雀の必勝法は何や分かっとるんか?』
ここは流石に麻将奉行が説明せざるを得なかったので、『まず、基本は振り込まぬことではござらぬか? あと、効率的な手作り、局面の読み、点数管理、局面を読み切った柔軟な打ち方や、運の読みや、心理戦も…』と、まるで教科書通りの説明を始めたので、金次郎はキレてしまい、『そないなチンケな打ち方しよるから、遠山金太郎は負けよったんやないんかい⁉ えぇか、麻雀の必勝法ゆうたら二つだけや! 一番大事なんは、自分よりも弱いか、運が落ち目で鴨れる奴から鴨れるだけ鴨るこっちゃ。せやから、鴨がようさんおる雀荘には、雀クマがゴロゴロおるやろう? いま、新華強北町で一番、鴨いうたら誰や?』と言い終えると、萬田金次郎は『グうぉお~』っと呻き声とともに頭を抱え、悶え苦しみだした。
これは脳埋込チップのE-MASK-Pentiumの内部で何かが弾ける前兆だと思いながら萬田金次郎の気が遠くなり始めると、彼の顔は見るからにツキに見放された落ちぶれた町奉行のような人相に急変して、『こ、このハコ割れの金さんなら、もう一生勝てる気がせぬで御座る』と、見るからに落ちぶれた貧相な最弱雀士のような人相になっていた。
第三交代人格の『ハコ割れの金さん』が出現したことは、他の奉行にも一目瞭然だったが、その眼の底にはギラリと、第四交代人格の『桜乃金一』が潜んでいたことには、誰も気付いていなかった。
桜乃金一は裏プロ生活で一世紀無敗の『将鬼』と恐れられていた積み込みの名人で、100万PayPay単位の新中華麻将で、リベンジマッチを望む敵が新中華帝国全土にいる有名な伝説の最強雀士だ。
つづく…
武智倫太郎
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