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【出版予定】シンギュラリティ詐欺:孫正義のAI投資の実態
ソフトバンクが開発した人型ロボット『Pepper』は、感情認識機能を備えると宣伝されましたが、商業的な成功には至りませんでした。このロボットは、孫正義のAIビジョンを象徴する存在ともいえるでしょう。ソフトバンクグループ(SBG)の代表取締役会長兼社長である孫正義は、近年、人工知能(AI)への強い楽観論と巨額投資で注目を集めてきました。しかし、そのビジョンは現実味を欠き、大言壮語とも取れる発言が目立ちます。
たとえば、2025年1月、孫正義は米OpenAIやOracleと共同で米国に新会社『スターゲート計画』を設立し、今後4年間で最大78兆円(5000億ドル)規模のAIインフラ投資を行うと発表しました。この金額は国家規模の事業に匹敵しますが、その実現可能性については、私を筆頭に多くの専門家が疑問を呈しています。
これはトランプ大統領も同席し『史上最大のAIプロジェクト』と喧伝されたものですが、その資金規模は現実離れしています。78兆円というのは日本の国家予算に匹敵する巨費であり、ソフトバンク単独で調達・投資できる額ではありません。このような非現実的な資金計画は市場に一時的な期待感を与えるものの、実現性が乏しく投資家の疑念を招きました。
孫正義の発言の過激さも指摘せざるを得ません。彼はこれまで何度も繰り返し『AIによる技術的特異点(シンギュラリティ)が目前だ』と語り、『30年以内にAIが人類の知能を超える』『1つのチップが人間のIQの100倍以上、IQ1万に達する超知性が誕生する』と公言してきました。
孫正義は『AIは全知全能の神である』とまで明言しています。しかし、ここまでくると、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教といった一神教の教義を否定しているとも解釈されます。そのような思想を持つ人物が、イスラム教の聖地メッカを擁するサウジアラビアの皇族から資金調達を行うことは、矛盾していると言えるでしょう。
ماسايوشي سون قال: "الذكاء الاصطناعي هو إله كلي القدرة". وهذا ينكر عقيدة التوحيد في الإسلام، مما يجعل استثمار محمد بن سلمان في مشروع الذكاء الاصطناعي الخاص بماسايوشي سون يتعارض مع الشريعة الإسلامية.
これらの荒唐無稽で詐欺的な話は、孫正義の問題発言の極一部に過ぎませんが、他にも孫正義の予測や比喩には科学的根拠の欠如が散見されます。例えば『AIが人類の叡智の1万倍に達する』という主張について、情報工学者でAI倫理が専門の私は、『叡智は定量化できない概念であり、1万倍という数字には全く根拠がない。こんな曖昧な条件で資金集めをするのは投資詐欺のレベルだ』と痛烈に批判しています。
孫正義はまた『脳のニューロンは300億個だが2018年にトランジスタ数が追い越し、30年後にはさらに100万倍になる』と述べましたが、これも事実誤認と誇張だらけです。人間の脳には約860億個のニューロンがあり、ムーアの法則も半導体の物理的限界に直面しています。
ニューロンとトランジスタを単純比較する誤りや、エネルギー消費など物理的制約を無視した楽観は、孫正義の描く未来像の信憑性を大きく損なっています。要するに彼の『AI万能』アピールは技術的裏付けに欠け、科学というよりは宗教的熱狂に近いのです。
孫正義はさらに、AIによって『不老不死の実現』や『全ての病気の克服』すら可能になると仄めかしています。しかし、こうした主張に具体的根拠は示されていません。シンギュラリティ論者の中には『2045年に人類はテクノロジーで不老不死を達成できる』と予言する者もいますが、それはあくまで一部未来学者の空想です。
孫正義もそれに近い夢物語を語るものの、医学・生物学の現実を踏まえた説明は皆無です。AIが創薬や医療診断を高度化する期待はあっても、人類の寿命を無限に延ばすなどという話は現時点では根拠がなく、投資家に誤解を与える危険な誇大広告と言えるでしょう。
こうした孫正義の過剰なAI礼賛は、SBGの株価や企業価値にも影響を与えてきました。一時的なセンセーショナルな発言で市場が沸き、関連銘柄が物色されることもあります。しかし、実績が伴わなければ失望売りを招きます。実際、SBGは2021年3月期に過去最高益を計上した後、投資先の失敗が響いて3期連続の最終赤字に陥りました。
看板を掲げたAI企業群も期待倒れが多く、冒頭で述べた感情認識ロボットの『Pepper』は、話題先行で商用展開は失速しました。孫正義率いる1000億ドル規模のビジョン・ファンドも、ウィーカンパニー(WeWork)の破綻寸前の失敗を筆頭に、滴滴出行やOYOといった投資で巨額損失を出しています。最近では、ソフトバンクが出資した米スタートアップがユーザー数を偽装する詐欺を働いていたことが発覚し、孫正義自ら提訴に踏み切る醜態もありました。
このように、現実の成果が伴わない投資や虚偽まがいの案件が続けば、投資家の信頼は低下し、同社の企業価値は大きく揺らぎます。以上のような孫正義の姿勢は、アメリカや他国で起きた詐欺的投資事件とも比較せざるを得ません。典型例が2001年のエンロン事件と2022年のFTX破綻事件です。どちらも当初は革新的企業として脚光を浴びながら、その裏で欺瞞的な実態が隠されていました。
エンロンはエネルギー取引で急成長しましたが、その成功は粉飾決算という虚構の上に築かれていました。共通点としてまず挙げられるのは、いずれの事件も経営者が巧みなストーリーで投資家を引き寄せたことです。エンロンは『新しいビジネスモデルで莫大な利益を上げている』と市場に信じ込ませ、株価を釣り上げました。
FTXの創業者サム・バンクマン=フリードも『暗号資産業界を変革する天才』ともてはやされ、著名人を巻き込みながら巨額の資金を集めました。しかし両社とも、その実態は真っ赤な嘘でした。エンロンは不良資産や損失を隠すため、複雑な目的会社を使って粉飾決算を繰り返し、最終的に株主は740億ドルもの損失を被りました。
FTXも顧客資金を流用し、多額の穴埋めが発覚して倒産、約112億ドル(1.6兆円)もの負債を抱えて破綻する有様でした。どちらのケースでも、投資家・顧客は経営陣の甘言を信じた結果、甚大な損害を被ったのです。一方で相違点も明確です。エンロンやFTXは経営陣が意図的に財務情報を偽装し、違法行為を行った明白な詐欺事件でした。
これに対し、孫正義の場合、語っているのは未来の予測やビジョンであり、現時点で法に抵触する虚偽陳述と断定することはできません。言わば『合法的なホラ話』の域に留まっているとも言えるでしょう。しかし、だからといってその責任が軽いわけではありません。誇大広告や楽観的すぎる見通しによって投資家を誤誘導すれば、結果的には詐欺に近い被害を生み出す点で本質的な害悪は共通しています。
また、エンロンやFTXが崩壊した際には、それぞれ市場全体に衝撃波が走り、関連業界の信用収縮を招きました。SBGは倒産こそしていないものの、ビジョン・ファンドを通じてテクノロジー業界にばら撒かれたマネーが引き揚げられるとき、スタートアップ投資市場に冷水を浴びせ『AIバブル崩壊』を誘発するリスクがあります。
実際、孫正義の過剰なまでのAI期待が剥落した場合、関連銘柄の暴落やスタートアップの連鎖倒産といった市場全体への波及効果も懸念されます。各国の規制当局の対応にも違いが見られます。
エンロン事件後、米国ではただちに証券取引委員会(SEC)や司法当局が動き、関与者を起訴・有罪判決に持ち込みました。さらに2002年には米議会がサーベンス=オクスリー法を制定し、企業の財務報告の厳格化や経営者の責任を大幅に強化しました。この法整備により、以後アメリカ企業のガバナンスは改善に向かったと評価されています。
一方、FTXのケースでは新興の暗号資産分野で規制が追いつかず、事後対応としてようやく米国当局が詐欺容疑で創業者を起訴した状況です。つまり、いずれも事件後に当局が本格介入し、被害拡大を食い止める動きが見られました。
では日本の当局はどうでしょうか。孫正義の派手な発言や資金集めに対し、現状では直接的な規制介入は見られません。金融商品取引法など既存の法制度では、明白な虚偽の開示や粉飾がなければ処罰は困難です。孫正義の語る『未来予測』や『ビジョン』は主観的なものであり、法的には前向きな経営者の見解表明と受け取られかねないからです。
実際、同法には風説の流布や偽計による相場操縦の禁止規定がありますが、孫正義の発言をそれに問うのはハードルが高いのが実情です。このように金融商品取引法には限界があるため、日本の規制当局は現段階で静観しているようにも見えます。しかし、だからといって放任で良いわけではありません。投資家保護の観点から、過度に誇大な勧誘や広告に対する何らかの歯止め策が必要です。
規制強化と投資家の自己防衛
以上を踏まえ、今後求められるのは政府・規制当局によるルール整備の強化と、投資家自身のリテラシー向上です。
まず規制面では、巨大ファンドによる資金調達時の情報開示を厳格化し、実現不可能な目標を喧伝する行為へのチェックを検討すべきです。たとえば78兆円計画のように突飛な数字を掲げる場合、資金の出どころや使途について、詳細な説明責任を負わせるルールが考えられます。
また、経営者による将来予測の発信にも一定のガイドラインを設け、投資家がそれを鵜呑みにしないよう注意喚起する仕組みも必要でしょう。
米国でエンロン事件後に法改正が行われたように、日本でも事前予防的なルール作りを進めることで、第二のエンロンやFTXを未然に防ぐ努力が求められます。
もっとも、法規制には限界があるため、最終的には『投資は自己責任』の原則を各投資家が再認識するしかありません。私たち一人一人が詐欺的投資から身を守るには、以下のような具体策が有効です。
過剰なうまい話を疑う:『AIで不老不死』『◯年で資産10倍』など極端な主張には必ず裏付けを求め、証拠がなければ距離を置くこと。
分散投資とリスク管理:特定のカリスマ経営者や流行分野に資金を集中させず、複数の資産に分散してリスクを低減する。仮に一部が詐欺や失敗でも致命傷を避けられます。
情報源の精査:公式発表やメディア報道だけでなく、第三者の分析や有価証券報告書など一次情報に当たる習慣を持つこと。
孫正義の発言についても以下のような批判的な論考を参考にするなど、多面的に検証しましょう。
規制当局や専門家への相談:怪しい投資話に直面したら金融庁や証券取引等監視委員会の窓口に問い合わせたり、専門家の意見を仰ぐことも有効です。公的機関から注意喚起が出ていないか確認するのも一手です。
こうした対策を講じ、自衛意識を高めることが投資家の防具となります。同時に、政府・業界ぐるみで投資詐欺や過剰なハイプを抑制する環境作りを進めるべきです。AI革命への期待が高まるのは当然ですが、だからこそ冷静さを失わず、事実に基づいて判断する姿勢が求められます。
孫正義の大言壮語に振り回されることなく、私たちは現実的な目線でAIと向き合う必要があるでしょう。無責任な夢物語がはびこる市場を放置すれば、結局泣きを見るのは一般の投資家であり、市場全体の健全性も損なわれます。夢と欺瞞は紙一重です。
テクノロジーの未来に希望を持つこと自体は素晴らしいですが、誇大広告や詐欺的行為には厳しい目を向け、健全なイノベーションと投資環境を守っていかなければなりません。これは孫正義への批判に留まらず、資本市場の信頼を維持するための課題でもあるのです。
武智倫太郎