自傷行為と新宿の和田アキ子
本日はお休みをいただいております。といいますのも、昨晩、過去に関係のあった女性のTwitterアカウント、それも広くオープンになっているアカウントとは違う裏アカウント、いわゆるサブアカウントというものを発見してしまいましてね。裏アカウントなんて作るくらいですから、さぞ満たされない生活を送っているのだろうと思いまして、少し覗いてみたんです。よせばいいのにね。
見ると、日常生活の愚痴や体調がすぐれない時のようなものばかりが投稿されておりました。少しひどい別れ方をしたものの、三年目の浮気は許されませんが、そういうわけでもないので両手をついて謝ったら許してやろうかな、なんつって余裕をかましておりました。
それで暫く軒並みしょっぱい投稿を過去にさかのぼって眺めていたのですが、話は過去に関係のあった男性の話があるのを認めました。そうか、おれと別れたあともしょっぱい恋愛をしてきたんだな、と思って読んでみますと、どうもおれについて言及しているようなのです。
6月生まれにはロクな男がいないとか、時間にルーズだったとか、もっとひどいのもあったんですが、具体化しますとおれのまずい部分が見え隠れしてしまいますので割愛しますが、どれも身に覚えのあるトピックス。昨今芸能人に対する誹謗中傷が深刻な社会問題になっておりますが、市井の人である自分がソーシャル・ネットワーク上でクソミソに言われているのを目の当たりにしてしまいますと、心中穏やかではいられません。いちどたばこを吸って落ち着こうとします。片手にはスマートフォンを握っておりまして、彼女の投稿を引き続き見ることができます。
マジにやめておけばいいのに、傷つくとは分かっていてもつい見てしまう。まさに自傷行為です。
画面には「そういえばあいつが吸ってた煙草なんだっけ、臭すぎて街で吸ってる人とすれ違うと一発で分かる」というような主旨の書き込みが。クラクラするのはヤニのせいではありません。くっせえたばこを吸う手が止まり、寝込んでしまってからその先の記憶はありません。気が付くと朝になっていて、「本日はお休みをいただきます」とSlackし、果たして図らずもお休みを獲得してしまった格好です。
このまま部屋にいると辛気臭い気持ちのあまり心にカビが生えてきそうなので、台風が近づいているというのに街へ繰り出します。クサクサした気持ちではお散歩も楽しくありません。一旦、食事でも摂ろうと思ってほうぼうのテイで定食屋さんに駆け込みます。お肉炒め定食を頼んだのですが、よく考えたらこのお店はかつて彼女と訪れた場所。これはいけません。この街には彼女との思い出が溢れております。お肉炒め定食をかきこみ、逃げるように店をあとにします。外の雨は暫時止んでおります。もうだめだ。新宿とかに行くしかない。このやるせないモヤモヤとした気持ちは人ごみでしか解消できません。急いで電車に乗り、新宿へと向かいました。
新宿の街は台風が近づいているせいか、送り盆の時分でも人がまばらでした。人ごみの中にいれば多少は気がまぎれるかと思いましたが、そうはいきません。お洋服屋さんなど見て回りますが、どうも晴れ晴れとしない気分です。
それで、外に出てしばらく降ったりやんだりの天気の中歩いていたのですが、だんだんお腹が痛くなってきました。冷房のある室内と蒸し暑い外の気温差でやられたのでしょう。泣き面に蜂です。おれが一体何をしたというんだよ。
我慢して歩いていると痛みはどんどんと増していきます。気持ち的にはもうおうちに帰ってネットフリックスとか観ようと思っていたのですがどうも家にたどり着くまで耐えられない気配。一旦、駅前のパチンコ屋さんでトイレを借りることにしました。
新宿のパチンコ屋さんというのは、お客さんとは別におれのようにトイレだけ借りに来る輩がいるのでしょう。2Fとか3Fとか、少し頑張らないとたどり着けない場所にあるんです。お腹が痛いのをおして青ざめた顔でエスカレーターを昇ります。
ようやくトイレ・・・と思ったところ、お手洗いの周りに人だかりができています。並び?まさかの並びですか?と思い列に加わろうとすると、金髪の姉ちゃんがおれを制します。
「ちょっと、今はお手洗いはちょっとお控えいただけますか」
なんの権利があってこの姉ちゃんはおれを制するのでしょう。ただ、おれはこのお店にお金を落としていません。強気に出られず青ざめた顔で立ちすくんでおりますと、女子トイレから少し大柄な女性が出てきました。見ると、和田アキ子です。このお店で撮影でもあるのでしょう。綺麗な衣装に身を包み、青ざめた顔のおれに一瞥をくれますと意気揚々とパチンコ台へと向かっていきました。
それで人だかりがサーッと彼女に巻かれて消えたもので、無事トイレ・タイムとしゃれこむことができたのですが、最早腹痛などどうでもよいです。和田アキ子!?和田アキ子いた?今???と心の中がざわつきます。和田アキ子が手の届く距離にいた?なんで?和田アキ子?は…?ぐるぐると回っているのはお腹だけではありません。
こうなると、興味関心はもっぱら和田アキ子に移ります。せめて何の台を打っているのか確認をしないことにはうかうか帰ることもできません。少しましになったお腹を抱えながら和田アキ子の後を追います。見ると、海物語を打ってはしゃいでいました。そこに特に驚きはありませんが、台風の日に海物語を打つなよ。気が付くと、腹痛や昔の恋人の罵詈雑言どころではなくなっていました。図らずも和田アキ子に救われた格好になります。マジサンキューな。色々あるけど、世の中を騒がせているけど、今週末だけはアッコにおまかせ見るよ。そんな感じです。