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街と店


建築の計画をしていると、公共の意味について考えることがよくあります。
公共空間として分かりやすいものとしては、公立の博物館、美術館、学校、病院、劇場、競技場 駅 等、公共施設と呼ばれる建物があります。
建物以外でも、公園、広場、街路、河川敷 等、一般的に公共空間と呼ばれている場所は多くあります。
公立ではなく、私立でも、病院や学校など、然るべき人が自由に平等に利用できるという点では公共空間といえる場所も多くあり、公共であるかないかは公立であるかどうかで分けられるものではありません。
例えば、私有地であっても、近隣に配慮をして、一部を開放し、公に開かれた広場や通路として誰もが使えるように計画する場合もあります。
建築家の槇文彦さんが、1960年代前半に最初の計画をしてから50年以上も関り続けている代官山のヒルサイドテラスは、居住空間だけではなく、誰でも利用できる通路や広場、ギャラリー等が計画に含まれていることで、代官山という魅力的な街が生まれるきっかけとなり、今でも街の方向性を示す指針のような存在となっています。

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同じく、代官山で人気の代官山T-SITE(設計はKlein Dytham architecture)も、この精神を受け継いで、既存の樹木を残し、大通りからセットバックするなどして広場のような場所を多く設定しており、それがこの場所の大きな魅力となっています。


ヒルサイドテラスや、代官山T-SITEのような大きな規模の施設でなければ、このような公共性をもった計画を実現できないのかというと、そんなことはありません。
私達は、規模の大小に関わらず、計画する場所の属性や歴史、そこに住む人、訪れる人に配慮をした計画をすることで、誰でも公共性の高い空間を実現できると思っています。

ちょうど1年前に、東京都文京区にパン屋さんをつくった時の話を例に、公共性との向き合い方について考えたことを書いてみようと思います。

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都内のベーカリー数店舗でパン職人としてのキャリアを積んだご主人と奥様が、自宅の1階のガレージを改装してはじめたとても小さなパン屋さんです。
所在地は、文京区の白山という場所で、裏手には江戸時代に薬草園や、赤ひげ先生で有名な小石川養生所があったことで知られている小石川植物園があり、正面には、春に桜の名所として沢山の人が訪れる播磨坂さくら並木や、秋に美しい紅葉を見せてくれる銀杏並木があり、都心でありながら四季折々の自然を楽しむことができます。


ロケーション資料

上の地図を見ていただくとわかりやすいのですが、お店のロケーションは、銀杏並木と、播磨坂さくら並木とがぶつかる植物園前という交差点の、ちょうど真ん中辺りの、とても視認性の高い位置にあります。


現地調査の時、お店が接している銀杏並木を歩いてみると、道沿いには植木鉢や花壇を置いている住宅やお店がありました。

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緑が多いこの地域の環境が、そこで生活をしている人達にとってただ享受されるだけの一方通行な関係ではなく、住む人達からも、自分達の敷地を使って、より緑を感じられる雰囲気をつくっていこうとしているように感じられました。

この、街と、そこに住む人との境界が曖昧になり、公共空間と私的空間が密接に交わっている関係を、お店のデザインとして表現できたらと考え、外部デザインにその要素を入れてみる事にしました。
もともと、お客さんからお店の前面に自転車置き場やベンチを置きたいという要望があったので、お店の入り口と、道との間のスペースは、小さな公園のような憩いのスペースにしようと考えていました。
そこへ、この、交差点の突き当たりという視認性の良さを生かして、奥にある小石川植物縁の存在を感じさせたり、その目印になるようなものが作れたら、このエリアのイメージをよりわかりやすく、よくする事ができるのではないかと思いました。
この考えはお客さんにも気に入ってもらうことができ、いくつかの案の中から、アーチをつくる案を採用する事になりました。
実際には通りから植物園は見えませんが、その入口のような緑のゲートをつくる事で、このエリアを象徴する銀杏並木、さくら並木、植物園が交差点で交差する景色をつくることができました。

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上の写真はオープン当初のものなので、アーチにあまり蔦が絡んでいませんでしたが、1年で蔦も大分育っており、春には黄色いモッコウバラの花が沢山咲いてとても綺麗でした。


厨房を抜けば5㎡に満たない小さなお店ですが、このエリアの特性を一つの交差点の中で、目に見える形で表現することができたのではないかと思っています。
パン屋さんのような、地域の人達の日常の一部となるようなお店は、もともと公共性が高い存在だと思いますが、だからこそ、周囲に広がる影響も大きいのではないかと思います。

特に、このお店のように視認性が高い場所にあるお店は、多くの人にとっての日常の景色となる可能性があると思うので、お店の敷地内だけではなく、街の一部をつくるという視点でも、そこにどのようなものがあったらいいのかを考える事が重要なのではないかと思います。

播磨坂下のパン屋さんBOUQUETINーブクタンー
コロナの影響で、現在は火曜日〜金曜日の10:00から15:00まで営業中です。


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