アップルパイの香りを届けたい
アップルパイを製作する。
今日はこのためもあって、バイトを休んだ。シフトが決まっているわけではないので責めないでほしい。
久しぶりに台所に立つのでコンディションを整えてきたつもりだったが、パフスリーブを着たのをいささか後悔した。
ひとつめのリンゴは八等分にしてから剥いたのだが、三つ目に差し掛かる頃からそのあまりの面倒さにドン引きし、リビングでミヤネ屋を見ていた母に「これ剥かなくてもいいよね?どうせやわらかくなるし」と提案したところ、「いや、剥いて。」と有無を言う隙をもらえなかった。
私はミヤネ屋が嫌いだが、また少し嫌いになった。
それで、ふたつめは気分を変えて、病室で通常行われるとされている、くるくる剥き、入院剥き、お見舞い剥きをした。
というキャプションボードを従えて、考古博物館に並べられていそう。
実際、これくらい投げやりな命名が為されていることも多い。
こっちのアングルの方が出土品ぽいな。不格好で気に入っている。
ちなみに、入院剥きの方が早いし楽だったので、出土品になってもいい人や木彫りと間違えられてもいい人にはオススメ。
そんな感じで、鍋に投入。砂糖とレモン汁を入れて、水気がなくなるまで煮る。水気なんて最初からあんまり無いけど大丈夫かな…。
〜10分経過〜
うわっ。
なんかスゴイことになっとる。
いい匂いがしてきた。西の魔女もまだ死ねない。
つまみ食いをしたら、味の美味しさはさらなり、しなしななのにしゃきっと感もあるその食感に感動し、リンゴぉ…お前ってやつは……と涙ぐんだ。
さらに煮詰めて、最後にバターとシナモンを入れる。
…マジかい。そんな"仕上げ"が待っているとは、ゆめゆめ思わなかった。犯罪じゃん。絶対おいしいレボリューション。
いい香りがするものしか入れてない。どうせ法律違反なので、シナモンを多めに振った。
この家の住人は核家族のわりに人数がやたら多いので、パイ生地を頑張って伸ばす。この過程で、もともと生地に開けられていた穴が塞がったので、フォークを取り出そうとしたら
スライドテーブルに載せていたパイ生地がリンボーダンスしてしまい、ひとりで爆笑した。
これいけるんだ!パイ生地ならギリ通れるんだ!!わはははは!!!!
…はい。できました。
卵白と卵黄を分けるという作業、恥ずかしながら初めて行ったが、これ楽しいな。黄身がきゅるんっ!って目でこっちを見てくる。(自意識過剰)
焼いている間、ぼんやりパイシートの袋裏のレシピを読み返していたら、
「卵液をパイ生地の断面に塗ると膨らみにくくなるため、表面だけに塗るよう注意してください」
と小さな赤字で書かれていた。気づかんのよ。黒地に黄色とかにしてくれんと。誘目性向上委員会次期会長候補としては黙っていられない。誰?
おっ。
不安だったが、卵液断面問題は大丈夫っぽい。
〜30分経過〜
レシピに書いてある通り、途中で温度を下げたりして、「私はレシピのしもべ……」と呟いたりしながら、というのはまあ嘘なのだが、
完成!
最高!
天才!
このバターとリンゴの香り、届けたい……。
電波に嗅覚情報が乗る時代、待ってるし、空を自由に飛びたいし、寝転んでいい芝生公園は増えるべきだし、50兆円ほしい。