『ウェブ漫画アプリの単行本宣伝回を落語風にやってみる』／掌編小説

こりゃあ読んでおいたほうがいいよ。一生に一度くらいはよお。おめえの教養にもならあ。9月13日発売だよ。ちょいとこっちあがって見とくんな。
ほら、これだこれだ。やってくれやってくれ。
ええ？なんだって？なにいってんだいやっこさん、
いやいや、あたしは本てえのはいけねえ。どうもここんとこが痛くなんのさ。このちっちぇ字を追ってるとねえ。目えもしょぼしょぼしてくるしさあ。むいてねえんだよあたしには。テレビでぎゃあぎゃあ騒いでいるのを馬鹿みてえにぼおっと口あいてよだれ垂らしてみてるようなのがあたしには合ってんのさ。
おいおい、ひでえ言いようだ。テレビマンににらまれたらえれえこったぞ。やあテレビに嫌われちゃっちゃあどうしようもねえ。このえー、漫画だってうまくすりゃ、あーアニメ化ってなことになるかもしれねえんだからなあ？ええ？そうだろう？テレビ様様Web3様、ついでにえー、あのなんだ、メタバース様ってなこった。こうして拝んでおきゃあよ四方八方うまくいくって、そういうこった。それから本てえたってよこりゃあ、えー漫画っていうんだよ。文字だけじゃねえ。ちょちょっときれいな絵が入ってんの。すごい絵だよ？まああのちょいと見とくれよ。なあ見とくれ見とくれ。こっちあがって見てくりゃ分かるからさ。それだっつったってやっこさん、
いやだよあたしはそんなしみったれた漫画なんか。やだってんだよ。そんなねえ、無理じいするもんじゃないよ。あたしゃ漫画てえもんを見ると冷や汗出てくんだ。そんな手で持ったらお前さん、大事な漫画もふやけちまうよ。見てくんなこのとおり。ああ震えが出てきた。
なんてえいうもんだから、ひでえことを言うもんだ、しみったれたことなんかあるもんか。こちとら朝からてめえ早起きして、あすこのショッピングモールまでひとっ走り、鶴屋の番頭と最後の一冊を取り合いへし合い殴り合いして何とか買ってきたってえ新品でえ。ってなこって、
またこれがやっこさん頑なに嫌がるんだよ。いやだめなんだ、だめなんだ。もうほら震えが出てきたぞ。ってなこって、
そおかい、そおかい。ええ？よまれねえってんじゃあしようがねえか。
おれはいってやったんだがね。こりゃあ希代の傑作だって。ぜひともよんでおくんな。きっと後悔はさせねえからよって。ええ？
あとんなってあんときよんどきゃよかったなつって後悔しようったってもう遅いよ。おりゃあ明日にゃ熊さんとこ持ってって貸してやることになってんだから。なんつったってお前はそんなにいやがんのかねえ？おれには理解できねえなあ。ええ？なんだって？漫画がこわい？こわいこわい？こわいから１０冊くれ？てめえで読む用と保存用と布教用？なにいってやがんでい。冗談じゃあねえや。