『シール1枚日記』/掌編小説
姪っ子がシールにはまっている。
小学三年生の元気な女の子だ。
姉の住む家と私と両親のいる実家は近く、姉は姪っ子を連れてしょっちゅう家にやってきていた。私も仕事が休みの日には姪っ子と一緒にゲームをやったり、絵本を読んだり、楽しく過ごしている。
そんな姪っ子の今のブームが、かわいいキャラクターのシールを集めること。姉に文房具屋さんや大きな本屋さんで買ってもらったシールを大事にシール手帳へ貼って、いつも眺めていた。一緒に出掛けたときには私も何枚か買ってプレゼントしている。
「これはうさみちゃんで、これはにんじん、これはお星さま!
これはねこぴーがすきなイチゴのケーキ。こっちはヒナの。」
一生懸命、シールの説明をしてくれる。
そんな姪っ子を見ているうちに懐かしくなって、私も昔シールを集めていたころを思い出す。小学生くらいの子がみな通る道なのかもしれない。
あの頃私もお母さんにたくさん買ってもらったけれど、どこへやったんだろう。二十年ぶりにシール集め、再開しようかな。
子供におもちゃを買っているうちに、自分の方がはまってしまうお父さんもこんな気持ちなのかもしれない。小学校の休み時間に友達とシール交換をした記憶も蘇ってきて楽しくなってきた。
とはいえ、いざ買うとなると、流行りのアニメやエンタメに疎い私はこれといって欲しいものがなかった。仕事用の手帳にちょこっと貼る落ち着いたデザインのシールがいいかな。昨日から頭の中でぐるぐると考えていたら、スーパーで買い物中に山積みされたバナナを見てふとひらめいた。
文房具屋さんやおもちゃ屋さんでかわいいシールを買うのではなく、スーパーで買ったバナナや、ドラックストアで買った化粧品についてるシール、お菓子屋さんの紙袋についているシールなど、それを毎日ひとつずつあつめて手帳に貼るのだ。
その日一日の出来事を表すシール。
日記をつけたいと長年思いながら、なかなか始めることができない私には、すごくいいアイデアのように思えた。
ルールは、毎日スケジュール手帳のその日の欄にシールを一つ貼る、それだけ。シールの種類は何でもいい。なんならお弁当の割引シールでも。
それから、めんどうな文章は書かない。貼っていいのはシール一枚だけ。
ずぼらな大人のための『シール1枚日記』。
数年後に見直したとき、なんだかわからないシールも多いだろうけど、きっとこれを見て思い出すこともたくさんあるはずだ。
気の早い私はそのときのことを考えて、もうワクワクしていた。
今日は記念すべき、最初のシールの日。
他に何もなかったので、さっきスーパーで買ったバナナにくっついているまるい緑のシールをそっと、大切にはがした。
明日もバナナのシールかもしれないけれど、それはそれで。
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