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簡単に小説を書けるようになる裏技-レイヤー構造を意識しよう-

初めまして、らりるらるららと申します。最近10万字を超える小説を書けるのは物書きの中でも一割程度だという話を耳にし、長編小説ばかり書いてきた自分にとっては衝撃的な話だったので、僭越ながら我流の物語の書き方を書き残しておこうと考えた所存です。

物語を書く前にまず最初に知っておかなければならないのは、世に蔓延る小説の書き方の大半は読むだけ無駄だということです。経験上ほとんど役に立ちませんでした。文章の書き方など基本は何となくわかった気になりますが、そこから自分の作品をどう書いていけばわからないんだよ!となりますよね。
恐らくそれは小説の完成形を見ていきなりそこを目指すからだと思います。例えば、プロが描いたイラストを初心者がトレースしようとしても上手くいかないのと同じです。何を組み合わせて出来ているかの構造を理解していないと模倣すらままなりません。
小説も同じです。作者はいきなり頭から書いていったのではありません。イラストがまずラフを描いてからペン入れをする様に、あらすじを書いて全体像が見えてから様々なものを足していきます。
とどのつまり、小説を簡単に書く裏技はあらすじの上にレイヤーを幾重にも重ねたものだと認識することです。そこでまず、小説の着想から完成までの一連の流れを紹介してから、レイヤーの構成を見える化していこうと思います。

では、実例を出しながら説明します。私の作品である【鉄腕娘々デンジャラミィ】の着想から完成までの話になりますが、10年以上書いて発見したノウハウが詰まっていますので、最後まで読んで頂けると幸いです。

物語を書くまず最初のステップは、小説を書こう!と思うところから始まりますが、そこからどう形にすればいいかわからない状態です。なので、日常生活の中に散らばるアイデアを頭の片隅に貯蓄していかなければなりません。そうやって貯めたアイデアがある日突然の閃きで一つに固まっていくものです。

私の場合、Twitterで見かけたackybright氏というアーティストの個展に足を運んだことが切っ掛けでした。氏は鉄腕娘のイラストに定評があり、個展で販売された原画(サムネイルの写真)を購入して満足していた時、ふと思ったのです。
「この女の子達はどうして鉄腕を付けているのだろう?その理由を考えたら鉄腕娘をメインにした話を作れるのでは?」
こうして、【鉄腕娘を主人公にした物語】というふわっとしたイメージが出来ました。

それから一週間ぐらい経った頃、『ずとまよ』のMVを製作したはなぶし氏が個展の告知を発表しました。それを見た時、氏の『ピギーワン』のネオンの街並みが鉄腕娘にピッタリだと思い、その二つを組み合わせて【鉄腕娘がネオン街で活躍する】お話にイメージが固まりました。

『パプリカ』の今 敏監督も良い作品を作るには共時性(因果関係のない2つの出来事が、偶然とは思えないかたちで同時に起きること)が欠かせないと言っているので、このタイミングで目の前に出てきたということは作品作りに役立てるべきだと思い迷わずに二つを合体させました。ここから共時性を意識して必要なものを吸収していきました。

さて、そこからお話にするにはコンセプトが必要になります。直前まで人間と宇宙人との殺し合いの作品を書いていたので、一度グロテスクなものから離れて息抜きしたかったので作風は【日常系ギャグ】に決定しました。
しかし、日常系って何書けばいいの?というのが正直なところだったので、起承転結をつけてストーリーのある短編にしようと決めました。

私の癖かも知れませんが、ストーリーを考える時はラスト(特にクライマックス)からイメージを膨らませて、そこに繋がるように中間、冒頭を作ります。
クライマックスのイメージが中々湧いてこない日々でしたが、たまたま見た『AKIRA』の「さんを付けろよでこ助野郎!」の有名なシーンから、【友達と対立して本音をぶつけ合う】のはどうか?とイメージを膨らませました。なので、【友達と二人で雑談する日常系】に喧嘩等をして対立する要素を付け加えなければなりません。

ですが、喧嘩をする理由を考えるにはまず主人公と友達のキャラクターのイメージが必要になります。この二人はこんな性格だから喧嘩になるんだよという説得力を生み出さなければなりません。その為にもまず二人のベースになるモデルを探しました。私がキャラクターを書くときは現実の人間や漫画のキャラクター等をベースにして、その上に自分なりの要素を付け足します。これはプロの漫画家さんもしているテクニックで、あのキャラならこう言う、こう動くといったイメージがパッと思い付いてしかもキャラがブレにくくなります。

私はVtuberの切り抜き動画を見るのが趣味なのですが、たまたま見た宝鐘マリンさんと天音かなたさんの『おすそわけるメイドインワリオ』のコラボ配信で罵り合うのを見て、この距離感だ!と思い、主人公二人のモデルに決めました。
そこからはひたすら切り抜き動画を見続け、プロレスの時にガチ喧嘩にならない様にどこをイジってどこをイジらないか、二人でいる時の空気とかひたすら自分の中にインプットしていきました。

こうして鉄腕娘という大まかなビジュアルと中身が出来て日常系ギャグ作品にジャンルも決まりました。このまま喧嘩する理由を考えたいところですが、それには二人を取り巻く環境を考える必要があります。こういう世界だからこういった軋轢があって二人は対立しました、という説得力が無いとクライマックスが意味不明になってしまいます。

なので、世界観を考えていきます。これに関しては前からイメージしていた【ロボット文明が発展して人間が飼育されているディストピア】をそのまま使うことにしました。端的に言えば『マトリックス』みたいなものです。最終的には人間が反乱を起こしてロボットと戦争になるといったイメージでしたが、物語の起承転結を作るのに丁度良いなと思いました。

ここまでくるといよいよクライマックスの喧嘩をどう作っていくかですが、それは鉄腕娘は何故鉄腕なのか?という小説を書くきっかけになった疑問そのものが使えるのではないかと考えました。
鉄腕を付けているのは、勿論暴力で誰かを押さえ付ける為になるでしょう。それは誰か?人間しかいません。鉄腕娘の鉄腕は当然ロボット側の技術でしょうし、全身を機械化しないのは反乱を恐れているからではないか? 
つまり、ロボット>鉄腕娘>人間というヒエラルキーの社会です。
ここで、主人公の友人が実は人間だったならどうかと思い付きました。対立する理由がかなり自然なものになりますし、主人公と対比関係にして面白味も増します。
こうして出来た初期案の簡単なあらすじですが、
【ロボットが人間を支配するディストピアで、人間を管理する鉄腕娘の主人公は友人と楽しく暮らしていたが、ロボットと人間の戦争が起こり友人は人間側について主人公と対立する。実は友人は鉄腕娘になりすました人間だったことがわかり、二人は衝突する。和解した二人はロボット社会との関わりを捨てて旅に出る】
といったものでした。一応バッドエンドも考えましたが、楽しい作品にしたいという思いが強かったので二人で自由になるハッピーエンドにしました。

あらすじが出来たのでここからはひたすら肉付けです。基本に忠実に起承転結を考えるとスマートな展開になります。現状は


転【ロボットと人間の戦争が始まる】
結【友人と喧嘩からの和解】
しか決まっていませんので、起を考えなければいけません。読み切りの短編を想定していたので、結の喧嘩に繋がるキッカケをいきなりやろうと思いました。なので、
起【居候の友人と喧嘩。友人は家出する】
承【孤独の中で友人の大切さを痛感】
転【ロボットと人間の戦争が始まる】
結【友人と喧嘩からの和解】
ぐらいのざっくりした感じに纏めました。

ここからは細かい部分の設定と伏線&回収を意識して肉付けしていきます。
まず最初に名前や様々なものの名称を決めます。そうすることで頭の中で考える時のストレスが減ります。物語の中心になる鉄腕娘ですが、そのまま使えば面白くないので独自の呼び方を考えます。『ピギーワン』のイメージを崩したくないので台湾風な呼び方を意識して、娘を娘々に変えるだけに留めました。鉄腕娘々、中々良いと思いました。問題は読み方です。結果的に鉄腕娘々(あいあんにゃんにゃん)になりましたが、英語を囓っている人なら違和感があるかと思います。鉄腕ならアイアンアームだろうと。はい。私のミスです。ネーミングの際に間違えて鉄腕はアイアンだったかなと思ってそのまま呼び続けた結果、逆にしっくりきて後から変えたくなくなったからゴリ押ししています。語感も良かったので。

続いて、キャラクターの名前決めです。
名は体をあらわすと言うように、キャラクターの生き様や役割がそのまま名前になっていたり、名前に意味を込めた作品は沢山あります。しかし、同時に作中での役割にキャラクターの名前が縛られてしまうという側面があります。今回のお話は自由を手にするお話なので、名前は何にも縛られずに自由に付けることにしました。
主人公は雪花ラミィさんから名前を取ってきてあだ名をラミィ、本名を楽阿弥(らあみ)にしました。鉄腕娘々は少人数なので姓は必要ありません。
友人はモデルにした天音かなたさんが天使なので真逆の存在がいいなと思い邪神をイメージ、そこから邪を取って「じゃ○○」とひたすら適当にひらがなを入れた中でしっくりきた邪布(じゃふ)にしました。
家出パートもあり、二人だけでは話が動かないので楽阿弥の後輩を出すことにしました。『ピギーワン』の名前募集に自分ならこういう名前にするという候補を数十考えた中で、遮音(しゃおん)がしっくりきたのでこれにしました。
楽阿弥と邪布が喧嘩した後に二人を繋げるキャラが必要ですが、遮音ではイメージに合いませんでした。【二人の関係を熟知している歳上のおじさんかおばさん】がお節介をしてくれるのが良いのと、食事シーンを入れたかったので【ラーメン屋の主人】にしました。こいつは邪布が人間であることを知っているがチクらない理由が要るので、ロボットの階級を貴族と労働者に分けました。これにより、労働階級にいるラーメン屋の主人からすれば、お高くとまった貴族よりも自分の店に通ってくれる訳ありの小娘の方が大切な存在になる道理です。また、鉄腕娘々より位が上のロボットなのに、名前が変でイジられるのがやりたかったのでち○ちんにしようか迷いましたが、少しマイルドにして凸珍(とっちん)にしました。

ここから伏線を考えていきます。
先程起承転結のところで触れましたが、邪布は楽阿弥の家の居候にしました。何故なら、人間が鉄腕娘々の社会で肩を並べて働いて金を稼ぐのは厳しいからです。主人公が養っている居候ならお金の問題は解決します。また、人間のスパイなので楽阿弥から得た情報を流したりも出来てかなり都合が良い立場になります。

この立場を利用した伏線を冒頭から仕込んでいます。
まず、冒頭はラミィが脱走した人間の捕獲に駆り出されるシーンですが、邪布にも給料が出るようにと邪布に協力を依頼しますが、仕事中だからと断られます。後に邪布は働いたことが無いと明言されますので、じゃあこの時の仕事とは何か?となります。これは続編で楽阿弥から人間を逃がす為に手助けしていたことが明かされます。

また、ラーメン屋では楽阿弥が鉄腕で箸を持っているのに邪布は素手で持っていますし、鉄腕娘々は運動量に比例して食事量も多いのですが、邪布は少食です。

起のメインとなる家出の原因となる猫を殺めたシーンでも、鉄腕娘々は感情が乏しいから命を奪っても何も感じない楽阿弥と、命を大切にしているから激怒する邪布という精神面での二人の違いも出しています。

また、邪布は人間のドラマを観ていて、楽阿弥は人間のドラマなんか複雑でよくわからないと言ったり、人間じゃないと説明がつかないシーンがいくつもあります。

これらの鉄腕娘々と人間との違いが転で邪布が人間でしたとなった時に「あー!」となる様に工夫しました。

他にも伏線は多々あり、シリーズを越えて回収されるものがあります。おばあさんの存在や、楽阿弥と人間との間にある協定などです。裏設定があるんだな、そういう世界観なんだなと伏線回収を楽しみにしてシリーズを読み進めて頂けると幸いです。

承に関しては物語の蛇足に過ぎません。なので割りと好きにしました。後輩の遮音の家にお邪魔すると自分と同じ姿をしたセクサロイドを発見するギャグシーンを挟みつつ、世界観を描写していきました。

結では最初からやりたかった、二人が向かい合って本心をぶつけ合うシーンを書いてから、綺麗な終わりになる様にいくつかパターンを考えました。邪布を一旦外に出してから楽阿弥は戦場に向かうべきだと思いましたし、盗んだバイクで二人だけで新天地を目指してもいいなと思いました。しかし、遮音は楽阿弥を愛してる厄介オタクですから、黙って見過ごすとは思えませんでした。楽阿弥のセクサロイドを家に置いてるぐらいですし。なので、愛する嫁の為に仲間を捨てて新天地を目指す二人を追いかけてくる賑やかな締め括りになりました。

さて、物語の頭から尻まで書けた訳ですが、これで終わりではありません。ここから更にキャラクターの演技を足していきます。最初から読み直して会話シーンでそれぞれのキャラクターが何を考えているかを伝わる様に、目や口の動き、手や足の動きで感情を表現していきます。

また、作品を通して伝えたいテーマを設定します。生まれてからずっと所属したコミュニティーを捨てて愛する相手を選ぶ訳ですから、【愛】をメインテーマにしました。
テーマを決めることで作中で何を見せるべきか、が明確になるので有った方が良いかと思います。

いよいよここでレイヤー構造の解説です。
あらすじの後にした工程をレイヤー表記してみましょう。

【あらすじ】
ーーーーー(起承転結レイヤー)
ーーーーー(名称レイヤー)
ーーーーー(伏線レイヤー)
ーーーーー(感情レイヤー)
ーーーーー(テーマレイヤー)
ーーーーー(後から思い付いた設定レイヤー)

綺麗にまとめるとこんな感じです。こうして全体像が見えると、小説を書くにはどうしたらいいかがわかりやすいですね。
伏線や設定は書いてる途中でどんどんアイデアが湧いてきますが、それは後付けで全然構いません。レイヤーはいくつ足しても問題ありませんので。

添削の際にはレイヤー構築を意識して、起承転結レイヤーは出来ているか?キャラクターの演技レイヤーに穴は無いか?と何か一つに注目して手直ししていきます。そうすると不思議と直す部分が見えてきます。

さて、本文はこれで完成です。最後にタイトルを考えますが、これはパッと【デンジャラスラミィ】が思い付いたのでラを重ねて【鉄腕娘々デンジャラミィ】にしました。安直ですがわかりやすいかなと。
四つの話から構成されますが、サブタイトルは【0812】【0813】【0814】【0815】としました。これは日付を意味しています。日本人ならピンとくるかと思いますが、8月15日は終戦記念日です。つまり、人間とロボットが戦争を始めますが、一日で終わることを暗示しています。

一番最後に、完成した作品の何がどう面白いかをもう一度確認します。
【鉄腕娘々デンジャラミィ】の面白さとしては、
・キャラクターの濃さ
・日常のギャグシーン
・伏線の数々
・言動の全てに理由がある
・演技からわかるキャラクターの心中
・ハッピーエンドである
が挙げられます。
何故面白さを再確認するかと言うと、著名な作家さんの連載作品でさえ読むのが辛くなる様な矛盾や、キャラが意外な行動をしたと思わせたいが故に登場人物が馬鹿になって「え〜!?」と叫んでいるのに、読者は「そりゃそうやろ」と白けていたり、編集は何故こんな簡単なことを指摘して直させないのだろう?と思う作品は世に沢山あります。
当たり前ですが作者と読者では面白さのズレがあります。ならば読者が面白いと思うものを書きたいと思いますよね?ですがそれは難しいです。何故なら万人に刺さるものは無いからです。
大ヒットした『ONE PIECE』も好き嫌いが分かれますし。
なので、これがこうだから面白い!と言語化する必要があります。作者でさえ何が面白いかわからない作品は読者も同じです。ターゲットとなる層を明確にして、より刺さる様に改善します。
近年では読者がわかりやすい様にキャラクターの演技を台詞にしていますが、私は非常につまらないと思っています。
例えば、『SPY×FAMILY』は心を読めるアーニャを通じて周りの人間の考えが筒抜けになって読者は非常にわかりやすいですよね。しかし、悪者が現れても心の声を描写せず、アーニャがあたふたして何とかして父に伝えようと無言で動いていても、アーニャの慌てっぷりや悪者の人相を見て読者はやりたいことがわかる筈です。言葉ではなく演技で伝える方が絶対に面白いと思います。
なので【鉄腕娘々デンジャラミィ】は大衆受けを諦め、ターゲット層を多少演技のわかる人間に絞り、台詞の含みを厚くすることと可能な限り台詞ではなく体の動きだけで表現することを追求しました。勿論、『ONE PIECE』の様に演技や伏線がわからない小学生でも面白いと思えるものを目指しましたが。

長くなりましたが、以上で小説の書き方の説明を終わります。最後に今回例として出した【鉄腕娘々デンジャラミィ】のリンクを貼ってお別れとさせて頂きます。また次回お会いしましょう。
https://ncode.syosetu.com/n1187hv/

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