【最終回】ワンフォーオール・オールフォーワン
この話の続きです。
2024年4月5日金曜日
マダム
「桜の木は、毎年花が咲いては散る。
その繰り返し。
木は、自然の力(太陽や雨)だけで生きることができる。
樹齢1000年以上の木も日本には複数存在する。
大木の近くにいると安らぎを感じるわ」
さくら
「木に触れているとネガティブな感情が消えるような気がします」
マダム
「人は、桜の花のように散る(死ぬ)けれど、桜の木(幹)は、ずっと生き続ける。
身体は消えるけれど、魂は永遠に生き続ける」
さくら
「人は誰もが死を迎えるけれど、それは逃れられない運命ですね」
マダム
「桜の木は、特定の時期(3月下旬~4月上旬)だけしか花が咲かない。
しかし、この世界の生命の木は、80億種類以上の花がそれぞれのタイミングで咲くの」
さくら
「みんな同じ一つの木で、みんな違う花だったのですね」
マダム
「私たちは世界に一つだけの花であるのと同時に、幹でつながっている一つの木なのよ」
さくら
「One for all, All for one.
(すべては一つ、一部分はすべて)」
マダム
「だから、どんな人も欠かすことのできない必要な人なの。
この世界に価値のない人間なんて、一人もいないわ」
さくら
「私の周りにいる人達全員が、大切な家族のように思えてきました」
マダム
「さくらちゃん、その感覚を忘れないでね」
さくらは、そのイメージを膨らませていった。
すると、心の奥から、声が聞こえてきた。
「マダムのように美味しいケーキが作れるようになりたい」
待ち望んでいた魂の声が、さくらの内側から語りかけてきた。
さくら
「私、パティシエを目指します」
マダム
「さくらちゃんのやりたい仕事が明確になったわね。
これで私の役目は終わりね」
さくら
「マダムのおかげで、私の魂が目を醒ましました。
これからはマダムに教わったことを大切にして、実践していきます。
本当にありがとうございました」
マダム
「何年後か分からないけれど、人生には辛い時期が訪れることがあるの。
その時は、2024年の桜が開花した一週間を思い出してね」
さくら
「私にとって、一生忘れたくない一週間になりました」
マダム
「さくらちゃん、今まで黙っていたけれど、私の正体を告白するわ。
実は私、桜の精霊なの」
さくら
「えー! 人間じゃないって、ことですか?」
マダム
「過去世ではさくらちゃんと同じく人間だったけれど。
今は桜の開花する時期だけ、この世界に現れることを許されている存在なの」
さくら
「だから、恋愛経験も豊富だったのですね。
あっ、そう言えば、マダムには今年社会人になられたお嬢さんがいましたよね?」
マダム
「それは、さくらちゃんの先輩に当たる人で、何年も家族愛のような関係を築いてきた人よ」
さくら
「血がつながっていなくても、母と娘の関係って、素敵ですね!」
マダム
「さくらちゃんが忘れていなければ、来年この場所に来れば、私と会えるのよ」
さくら
「マダムとはもう一生会えないと思っていたので、来年の桜の開花が楽しみになりました」
マダム
「だから、さよならは言わないわ。
これだけは覚えておいて。
『24時間どんな時もあなたを愛しているわ』」
そう言って、マダムは消えた。
頭がぼんやりしてきて、さくらはソファーで眠ってしまった。
目を覚ますと、さくらがいる場所は洋館ではなかった。
公園内に建物はなかった。
目の前には、樹齢3000年の桜吹雪がひらひらと舞い落ちてきた。
さくらは桜の木を抱きしめながら、
「マダム、私も愛しています。ありがとうございます」
と感謝の言葉を返した。
終わり