【著作権】 5分でわかる! AI利用者が学ぶ著作権
はじめに
こんにちは、きまま / Easygoing です。
今日は生成AIを使う上で気を付けるべきポイント、著作権について考えます。
生成AIと著作権の概要については以前の記事でまとめました。
今回は、著作権について一番詳しい考え方を示している文化庁の指針を見ていきます。
文化庁の著作権の指針
現在、著作権について一番実践的な考え方を示しているのは次の指針です。
文化庁:AI と著作権に関する考え方について 令和6年3月15日
8月にこの指針に基づくセミナーが開催され、その動画が公開されています。
令和6年著作権セミナー「AIと著作権Ⅱ」 令和6年8月9日
今日は、この動画の内容を5分で読めるように要約してお伝えします。
個人の解釈もとに要約していますので、正確な情報はご自身で出典元を確認 して下さい。
著作権法の原則:著作権者の保護と公正な利用
まず、著作権法の目的は第1条で示されています。
著作権法は、著作権者の権利の保護を第一義に捉えられがちですが、同時に 著作物の公正な利用を促す 目的で定められています。
著作権と著作者人格権
著作者の権利には次の2つがあります。
著作権:著作物によって財産的利益を得る権利
著作権は、著作物を利用することで経済的利益を得る権利です。生成AIに関連する著作権の主な部分は次のとおりです。
複製権
公衆送信権(インターネット上での公開)
二次的著作物の創作権・利用権 など
著作者人格権:著作者の人格的権利
著作権法では、著作権とは別に著作者の人格を保護する著作者人格権が定められています。
著作権は契約によって他人に譲渡することができますが(例:作家が出版社に著作物の権利を譲渡する)、著作者人格権は著作権を譲渡した後も作者に残ります。
著作権法の例外規定
著作権は作者の没後70年間に渡って複製その他を禁止する非常に強い権利であり、著作物の 公平な利用を促すための例外を認める権利制限規定 が定められています。
私的使用のための複製(第30条第1項)
引用(第32条第1項)
享受目的ではない機械学習などでの利用(第30条第4項) など
生成AIに関連して重要なのは、特にこの 第30条第4項 です。
著作権法第30条第4項
内容を要約すると、このようになります。
著作物を楽しむことが目的でなければ、
著作権者の利益を不当に害さない限り、
情報解析や機械による処理のために使って良い
享受目的ってなに?
著作物に表現された思想や感情を自ら味わい、知的または精神的欲求を満たすことです。
つまり、本を読んだり映画を観たりして楽しむこと です。
著作権者の利益を不当に害する場合って?
著作権者の利益を不当に害する場合の例として、情報解析用のデータが有料で販売されている場合 が挙げられています。
この場合は、無断で著作物を学習で利用するのは著作権者の利益を害するので違法になります。
大量の情報による基本学習 → 享受目的ではないので違法ではない
生成AI の作成段階では、大量の学習データによるトレーニングを行います。
この場合の著作物の利用は享受目的ではないため、違法にはなりません。
類似物を複製するための追加学習 → 違法の可能性あり
生成AIでは、ファインチューニングという少量の学習データによる追加学習を行う場合があります。
画像生成AIでは、LoRAの作成などがこれに当たります。
これを 特定の作者の画風やキャラクターの類似物を生成する目的に行なった場合 は享受目的に当たる場合があります。
享受目的の境界はかなり難しく、今後の判例の積み重ねなどによって確立されていくと思います。
著作権侵害は「類似性」と「依拠性」の両方がある場合
著作権が問題になるのは、「類似性」と「依拠性」の両方がある場合です。
類似性:原作に似ている
依拠性:原作を知っている
生成AIでは、プロンプトに固有名を入れた場合 は依拠性ありと判断されます。
また、image to image で著作物を入力した場合 も同様です。
類似性と依拠性があり、これを 私的利用の範囲(第30条第1項)を超えてSNS などで公開した場合 は違法になります。
AI生成物による著作権侵害の責任
AI生成物による著作権侵害の責任は、原則として生成した人が負います。
著作権侵害罪は親告罪
著作権侵害が故意によって行われた場合は刑事罰の対象になります。
著作権侵害罪は原則として親告罪 で、権利者による告訴が必要です。
著作権侵害に対して民事で行うことができる対抗処置
著作権が侵害された場合、民事で以下のような対抗措置が可能です。
差止請求
不当利得返還請求
損害賠償請求
名誉回復等の措置の請求
AI生成物による著作権侵害の判断は、通常の著作権侵害の同様の基準 で行われます。
著作物をAIの学習に利用されたくない場合
著作物をAIの学習に利用されたくない場合は次の対応があります。
robot.txt でクローラーをブロックする
AIが利用する学習データを収集する際、クローラーという bot がインターネット上の情報を収集しています。
それに対して、webサイトの robot.txt を編集することで、クローラーの巡回を拒否することができます。
著作物をID・パスワードが必要な領域にアップロードする
学習されたくないデータを、ID・パスワードなどによるログインが必要な領域にアップロードすることで、学習に使われることを防ぐことができます。
AI学習用データを有料で販売する
もし著作物の学習用データが有料で販売されている場合、無断で著作物を利用すると著作権の侵害になります。
上記の対応の いずれかではなく、組み合わせて行う ことが推奨されます。
以上が文化庁の資料のまとめになります。
個人的に調べたこと
ここから先は、文化庁の資料とは別に個人的に調べた補足的な事項を記載します。
robot.txt でブロックしても、実際はクローラーは巡回している
文化庁の指針では、著作物を機械学習で利用されたくない場合は Webサイトのrobot.txt を編集してクローラーの巡回をブロックすることが勧められています。
一方で、robot.txt の指定はあくまでサイト管理者の意思表示であり、法的な拘束力はありません。
Chat GPT、Claude、Perplexity などのAI検索エンジンは robot.txt でブロックされたサイトの要約も表示するため、robot.txt でブロックしても 実際には情報を収集するクローラーは巡回している と考えられてます。
インターネットに公開する以上、人間に表示して機械には表示しない区別は現実には難しい です。
しかし robot.txt での意思表示は文化庁が推奨する方法であり、後に著作権侵害を主張する場合は行っておくべきと考えられます。
AIはクローズになっていく
文化庁の指針では、著作権に関して紛争がある場合、AI事業者は当事者から要請があれば学習データを開示するのが望ましいとされています。
しかし、これは現実的ではありません。
米国の裁判で、AI事業者が 学習データを開示することは訴訟を受けるリスクになる ことが明らかになっています。
例:Stable Diffision と Midjourney の学習データベースの LAION-5B に自らの作品が含まれているとして、アーティストが提訴しているケース
最近になって公開されたAIの多くは、学習データが開示されていません。
今後 訴訟が行われるにつれて、AI技術はよりクローズになっていく と考えられます。
二次創作は本来は違法
著作権法では、原作者の許可なく行われる二次創作は違法とされています。
現実には多くの二次創作が行われていますが、これはいわば著作権者が黙認している状態です。
アーティストの中には生成AIに対して否定的な考えを持っている場合も多く、二次創作を行うときは原作者に敬意を表すと同時に、原作者が生成AIについてどのような考えを持っているか よく知ることが大切です。
原作者が生成AIに反対の立場である場合、二次創作の公開はやはり控えるべきだと思います。
ガイドラインで二次創作が許可されていても、著作権侵害を主張される場合がある
現在、著作権と生成AIについて注目されている事例があります。
具体的なリンクは貼りませんが、詳しく知りたい方は 著作権・Vtuber・クラウドファンディング などのキーワードでご自身で調べてみて下さい。
このケースでは、キャラクターの 公開元の会社から二次創作を認めるガイドライン が示されていますが、原作者は 著作権のうち複製権は原作者が持っている として二次創作を公開した相手と争うことを表明しています。
著作権が実際にどのような形で存在しているかは契約によりますし、場合によっては一部を買い戻したりすることも可能です。
ガイドライン自体には法的拘束力がない ため、たとえガイドラインで二次創作が許可されているとしても、よく調べることが大切です。
オンラインサービスは特に気をつける
今日の画像生成の主流はオンラインサービスですが、これを利用する場合は 画像を生成するのと同時に公開される ので注意が必要です。
多くの画像生成サービスでは、生成した画像をサービスの宣伝に使うこと、生成された画像でトラブルが発生しても事業者は関与しないことが規約で定められています。
画像生成には不適切な画像が生成されないようにフィルターがかけられていますが、実際は「ケチャップをかけられた人」や「赤いペンキを被った人」などの入力で流血を再現することができてしまいます。
X のAIアシスタントの Grok などではフィルターがかなり緩く、トランプ元大統領やミッキーマウスなどの画像が多く流れてきますが、これらは本来は違法 であることを認識しておくことが大切です。
画像を生成するときは、トラブルを防止するために プロンプトを保存しておく ことが勧められます。
まとめ
文化庁の指針を理解する
原作者の考えを尊重する
プロンプトは保存しておく
最後までお読みいただきありがとうございます!
参考書籍
先読み!画像生成AI インプレス 2023年3月
画像生成AIがよくわかる本 秀和システム 2023年5月
English Article
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