舞台「てれびのおばけ」の感想
カワラダが最期にしてしまった、面白くない選択。
運良く本多劇場の千秋楽チケットを、当日券で手に入れることができた。ちけっとぴあで落選していたので、30分並んだだけで入れて拍子抜けした。下北沢が近所だとこういういいことがある。
人生で舞台を見たことがほとんど無かったので、どきどきしながら待った。藤井風の曲がずっと流れていて、曲名を思い出しながら舞台セットを眺めていた。
あらすじをまとめるのが下手なので、印象に残ったシーンをいくつか書いておく。
若くて自分の才能を信じていた女の子が、芸能界で周りとの実力差を見せつけられ、自暴自棄になっていた。そこに発破をかけられて頑張っていこう、まだ間に合う、未来にむかって進もう、とした矢先に事故ですべての道筋が絶たれてしまう。彼女の絶望感や、どこに向かって進めばいいのか、全部わからなくなった末の「笑えよ!!」という絶叫。舞台が揺れたように感じた。
「死んでくんねえかなぁ~~~!」ラストシーンでは謝っていたけど、このときは本心がそのまま出た言葉だったんだろうな。悪意と恨みの塊だった。それをカワラダが正面から受け取ってしまったのかと思うと、自殺した理由もわかる。
テレビ局は過労死ということにしていたが、実は自殺したんだと打ち明けるシーン。毎日生きるために、○か×の選択をしていたことに気がついてしまった、そしてその日は×を選択しただけだ、ということを、淡々と明るく説明する。すごく後悔しているとか、死ぬしかなかった、みたいな切実な感情がなく、それがむしろ痛々しすぎて刺さる。ここで藤井風の『死ぬのがいいわ』オルゴールver.がBGMになってて、涙でマスクと顔がぐちょぐちょだった。
×を選択するしかなかった、だからしょうがないことだったんだ、と受け止めているカワラダに、でもそれは一番面白くない選択だ、面白いことを一番に考えてきたのに、最後の最後に面白くないことをしてしまった。と言える人がいて本当に良かったと思う。
最後まで全部面白かったし、全員の生命力を感じた。
面白いことをするために、自分や家族をないがしろにして寝ずに企画を考えたり、視聴率をとるために、覚悟を決めて自分の倫理観のブレーキを無視したり、自分と家族が批判にさらされていても、心のどこかでエンターテイメントとして見てしまったり…
世の中にテレビ以外のメディアがあふれていても、てれびのおばけになって、自分が面白いと信じているものに、食らいついている人たちのお話だった。
全体的にはなんやかんやあったけど全員ハッピー、みたいな話ではとうていなかったけど、観終わったあとはすごい清涼感のある舞台だった。
舞台、好きになりました。