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退職を伝えた日。
「…退職させていただきたいと思っています」
…とうとう言ってしまった。この日までの時間がどれだけ長かったのだろうか。昨年末に決意してからずいぶん時間が掛かってしまったのは、いろいろな準備が必要だったからである。
きっと転職だったら、すでに経験済みだし先にタイミングも決まってしまうから入社日の逆算で手筈を整えていけば良いだけ。
でも今回はそうじゃない。明確に次の職が決まっているわけでもないので、ある意味いつ辞めても良い状態なのだ。ましてお金の面で考えれば退職は遅ければ遅いほどありがたい。
でも、ここで止まると振り出しに戻ってしまう気がする。
だから、ここからは前に進むことに決めた。決して「人生リセットボタン」を押そうとしているわけではなくて「スラスター噴射」をするのである。
人工衛星は打ち上げられた最初の軌道から、スラスター噴射をして、より好ましい軌道に移っていく。だから僕も今ぐるぐると回り続けている轍からちょっとばかり外れて新しい軌道を探索したくなっただけ。
でも、ちょっと怖い。
だって、僕の古びた計算機で軌道計算を間違えたら宇宙の彼方に飛んでいってしまいそうだから。
「そうか、退職ね…。えっ、退職って言ったの?」
「はい、退職です」
何気ない会話から切り出したせいもあって、上司はそのまま聞き流しそうになっていたが、急にまん丸い目をして切り返してきた。決して100%の全力で止めようとはしていなかったが、「一緒に考えよう」と返されると自分も言葉に詰まってしまい感傷的な雰囲気に…
なんとなく退職代行が必要とされる理由が良くわかる気がする。
これだけ良くしてもらっている会社や上司に自ら別れを告げるのは辛すぎる。たぶん関係性が良くても悪くても人それぞれの物語を作っていかなければならないので「退職を伝えた日」は人生にとって重要な日。
だから、退職の時の気持ちこそしっかりと伝えた方が良いと思う。お互いが気づかなかった発見があってはじめて分かり合えるような気持ちにもなれる。
そして、何より自分の選択に前向きになれる。
でも、一つだけ言えることは「立つ鳥跡を濁さず」という言葉は人生の糧として痛いほど学んでしまった。
今日も最後まで読んでくださってありがとうございました。