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昭和の少女漫画風小説~Autumn poem~

プロローグ

注)オータムポエムは、野菜の名前です。



上記の梅熊大介さんの記事にて"オータムポエム"という野菜があることをはじめて知りましたが、「昭和の少女漫画のような名前」と表現された一文から、昭和の少女漫画好きの自分は妄想がめばえました。頭の中でキャラクターが生まれ、それを絵にしてみたら妄想の輪郭がはっきりと見えてきて、更に掘り下げてみるとひとつの物語っぽくなったので、もういっそ晒してみようかと思いました。梅熊さんには、ドングリとキノコのキャラクターたちに名前もつけて頂きまして、感謝です(^人^)
本当は、昭和の少女漫画風に、漫画で物語を作ってみたかったのです。が、漫画制作は大変な労力がかかります。特に自分は手が遅く、ひとつを進めるのが限界です。平日はほとんど進められてないし、週末も、なんやかんややってると進んでないし🐌………(これ以上書くと自己嫌悪に陥るから止めます。)


でもせっかく思い付いてしまったものを、何らかの形にしておきたい。ということで無謀にも、文章でやってみようと思いました。いえ、文章だって大変な労力が要るのですが、漫画制作ほどではないような気がして…ケータイを開ければ職場の休憩中でも、布団に入ってからでも、どこでも進められるし。あまり深く考えず、勢いに任せてやりました。漫画同様、文章も、好きでやってるだけですので読み難かったらゴメンナサイm(__)m
自分は昭和に少女漫画を読んでいた世代です。成長し(成長どころか、年々衰えを感じるようになり☠️)、とうの昔に小さな女の子ではなくなりました。ですが、たまに愛らしいものを見ると心の中では、眠っていた小さな女の子が起き出して「カワイイカワイイ!」と騒ぎたてます。今回の試みも、自分の中の小さな女の子に「作って!」と、急かされるような気持ちで作りました。(ちなみに、自分の心の中には小さな男の子も棲んでいますし、オジサンオバサンは勿論、ジイサンバアサンニイサンネエサン…色々棲んでいて、何かきっかけがあればその都度、誰かしら起き出して騒ぎます。)
長文ですので、途中休憩しやすいよう目次をつけて、ざっくりした下絵状態ですが挿し絵を挟みました。あなたの心の中に棲む、小さな女の子も、気に入ってくれれば良いのですが🎀






1.ふしぎな声が聞こえる


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『ウタ…』


誰?

『ウタ、こっちだよ』

あなたは誰?どうしてわたしを呼ぶの?


『ウタ、ぼくたちを見つけて…』


わたしを呼ぶ小さなかわいい声。この古本屋から聞こえてくる。


「…………しゃい…」

「キャ!」

詩(ウタ)が驚いてしまったのも仕方が無い。

鈴の音みたいな声に導かれて入った古本屋の店主の声は、地の底から響いてくるような低い声だったし、いらっしゃい、と言ったのだが、近くにいたウタにも聞き取れないほどボソボソとした喋り方だったからだ。

ウタは、てっきり、お金も持ってないのに、子供がお店に入ったことを注意されているのだと思い、

「ごめんなさいっ」

と言って外に出ようとした。


「本が見たいなら見ていけばいい。」

店主は、子供におびえられるのは慣れていたのだが、今度は、ウタにもはっきりと聞こえるように喋った。


「……はい。」

ウタは、今すぐ走って帰りたかったが、店主の言葉をはね除けて走って帰れるほど、勢いのある子供ではなかった。

(ちょっとだけ、ちょっと見たらすぐに帰ろう。)

店主は自分の手元の本をゆっくりめくった。1ページ前に戻っている。ウタが来たことで、さっきまで読んでいた内容が頭から抜け落ちてしまったのだろう。


『ウタ、こっち。』

やっぱり、声はこの古本屋の中から聞こえる。ウタは、店主の気が散らないように、なるべく静かに歩いた。

店内は、天井までそびえる本棚の群れに、ぎっちりと仕舞われている大量の本と、本棚に入りきらなくて床に積まれている本の山々と、何だか分からないけど気品のある古い物(きっと何年も使われていないだろう)で雑然としていた。

照明はついているのに、物が多くて薄暗い店内で唯一、暖かな陽の光が差し込む窓際の、花柄のソファーだけは居心地が良さそうだった。もしかしたら、お客さんがいないときは、店主があそこに座ってくつろいでいるのかもしれない、とウタは思った。

(あのおじいさん、お世辞にも片付けが上手だとは言えないな。わたしのお母さんだったら、こんな部屋見たら、片付けなさい!って怒ってるよ。)と、何故かウタのお母さんに叱られて小さくなっている店主を想像して、おかしくてフフッと笑ってしまった。

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2.オータムポエム


ウタの笑い声は、レジ前の椅子に座って黙々と読書を続ける店主の所までは届いていないようだった。

(よかった。一人で笑ってるのが聞こえてしまったら、ヘンな子だと思われるもの。)

ホッとしたウタの目に、一冊の本が飛び込んできた。

ぎっちり本が詰め込まれた本棚の中でも、まるでその本は、誰にも見て欲しくないみたいに、奥へ奥へと押し込まれている。

背表紙には何も文字が無い。

何の本だろう?

ウタは、本を傷つけないよう苦労しながら引き抜いて手に取ってみると、色あせて、所々に染みがある。表紙には、手書きの外国の文字が書いてある。

Autumn poem

ウタにはまだ読めなかった。

(外国の文字って何だかおとなっぽくて、すてき。これが読めたらいいのになぁ。)

まじまじ眺めていると、すぐ側で、鈴の音のような声が聞こえた。

『オータムポエム、って読むんだよ。』

さっきの声だ!

わたしを呼んだ声、この本から聞こえてくる!


『ウタ、開いてみて。ぼくたちを見つけて。』


ウタは、震える手でページを開いた。

中もやっぱり手書きの文字、でも日本語。これだったらわたしでも読める。

ページのすみっこには、挿し絵があった。

怒っているような尖った大人の文字と、子供が描いたようなやわらかい線のドングリとキノコのキャラクターの挿し絵。

絵は、別の人が描いたのかな?


『ウタ!はじめまして!』

声と共に、挿し絵が空中に飛び出てきた!


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「えぇ~っ!?」



3.おじいさん


「何だ?」

ウタの声に驚いた店主が、かけ寄ってきた。

「あ、あの…この子たちって…」

ウタは恐る恐る、彼らのことを店主に聞いてみた。

「その本、どこから出してきた?」

店主の声はさっきよりいっそう低く響いた。店主は、飛び出してきた挿し絵のキャラクターたちなんて、目に入っていないようだった。それどころか、ウタの顔すら見ていない。ウタの手にしている本、【オータムポエム】ただ一点を見つめていた。

「あっ…これ…。あの…今日はお金を持ってないのでお返ししますっ!」

本を元あった場所に戻そうとすると、彼らがウタの腕にしがみつきながら悲しそうな顔をした。

『え~っ!ウタ、会ったばっかりなのに、まだ離れたくないよ~』

「(わたしも、あなたたちのこと知りたいけど、でも…)」


「気に入ったなら、やる。」

店主はぶっきらぼうにそう言った。

「おかね…」

「それは売り物でも何でもない。持って帰れ。要らんのなら、燃やすつもりだ。」

店主は、ウタの言葉を待たず吐き捨てるようにそう言うと、レジ前の椅子に戻っていった。


『燃やされちゃう!ウタ、連れて帰ってぇぇ!』

挿し絵のキャラクターたちが、燃やされてしまうのはあんまり気の毒だったので、ウタは思いきってこう言った。

「あの、持って帰ります!」



4.ビブとリオ


「本当に貰ってきちゃった…。おじいさん、なんだか怒ってたみたい。」

ウタの自室、勉強机の上には、古ぼけた本【オータムポエム】が置いてある。

『いいんだって。オジイサンは、ウタに持って帰れって言ったし、怒ってるみたいなのはいつものことだよ。』

ウタの見慣れた勉強机の上に、見慣れないものたち。本に描かれていたはずのドングリとキノコのキャラクターは、よくよく観察してみると、色えんぴつで描かれているようだった。二人?いるのだか、お喋りしているのは、コロコロ転がり回るドングリだけで、キノコの声はまだ聞いたことがない。キノコのキャラクターは、お上品なすまし顔で、ファッションモデルのように背筋をピンと伸ばして本の上に立っている。

「ところであなたたちは…どうして動き回ったり、お喋りできるの?どうしてわたしを呼んだの?」

『ふしぎなことを聞くね。ウタはなんで動き回ったり、お喋りできるんだよ?』

「えぇ…?なんでって言われても…」

『ホラ、困るでしょ?そんな質問されても。』

そう言うと、ドングリはそれまでとは逆回転でコロコロ転がった。

「わたしの名前を知っていたのはどうして?」

『知っていたから知っているんだよ。ウタは質問ばっかり。そう言うウタだって、ぼくたちの名前を知っているんだよ。』

「えっ?知らないよ。」

『そんなことないよ。当ててみてよ。』

「えぇっと…、ん~と…、ビブとリオ!」

ウタはドングリをビブ、キノコをリオ、と指した。


『当たり~っ!』

「うそだぁ!今、わたしがつけた名前だよ?」

『ふふっ。ぼくがビブで、こっちがリオ。』

「もーっ!ホントはなんていう…」


「ウタ?誰と話してるの?誰か遊びに来てるの?」

ドアの向こうから母親の声が聞こえた。



5.お母さん


「ウタ、その本…」

部屋に入って来た母親は、そう言うなり、【オータムポエム】を見つめている。ウタの顔も、ウタの勉強机にいるビブとリオのことも見ていなかった。古本屋の店主と同じだった。

(お母さんも、ビブとリオが見えてないみたい。)


「あのね…この本は、古本屋さんで貰ったんだよ。お店のおじいさんが、売り物じゃないから持って帰っていいって言ったの…。」

ウタは、お店の物、他人の物を勝手に持って帰ってきたのではないことを、母親に伝えようと必死だった。

「会ったの?」

母親は、ウタが想像していたのとは違う質問をしてきた。


「会ったって…。お店の、おじいさんのこと?」

ウタの母親は、今までウタが見たことも無い、近寄りがたい表情をしている。ウタを叱るときの顔とも違う、ウタの知らない母親の顔。


「ウタが生まれたことも知らせてないのに…。」


知らない顔の母親から、ポツリと言葉がこぼれ落ちた。

「おじいさんは、お母さんの知ってる人なの?」


その直後にウタの目を見た母親は、ウタのよく知ってる"お母さん"に戻っていたが、「ん~…まぁ、色々あるのよ…。」とか何とか、ボソボソと言っただけで、ウタの聞いたことに答えてはくれなかった。


6.小さなおともだち


母親は夕御飯のときも、いつも通りの"お母さん"だった。お母さんは、お父さんに今日あった出来事をペラペラとお喋りしている。お父さんは大体、「うんうん」とか「そう」とか言うだけ。

お母さんの今日の出来事の中には、古本屋のおじいさんのことも、ウタが貰った本【オータムポエム】のことも出てこなかった。

いつもと違うのは、ウタの心の中。本のこともおじいさんのことも、もう口に出してはいけないような気がするだけで、それはウタの心のすみっこで、暗いもやのようになって居座っていた。

「どうかしたのか?ウタ。」

お母さんの話を聞きながら、ウタの顔を見ていたお父さんが話しかけてきた。

「別に…なんでもないよ。」



両親におやすみなさいを言ってから眠る前、布団に入り【オータムポエム】に向かって、

「ビブ…、リオ…。」

彼らの名前を小さく呼び、本を開いた。


『ハイハイ、いますよ。』

ビブが、ウタの左手のあたりから、ひょっこり顔を出した。

「リオは?」

『そっちにいるよ。』

ビブの指差す方、ウタの頭のもっと向こうを見たが、ウタの部屋はもう照明をおとされている。

「暗くて見えない。」

『リオー、ウタが暗くてこわいって言ってるよー。』

「こわいなんて言ってないよ!」

ウタが、適当なことを言うビブを(しかし図星だったため、余計に腹立たしかった)怒ってやろうと頭の中で言葉を選んでいるうちに、ビブの指差した方向で、きみどり色の光がほんのりとキノコの形に灯った。

「わぁっ、リオなの?リオって光るんだね!」

ウタは、それまで考えていたビブへの怒りの言葉もすっかり忘れて、リオを見つめた。しばらく見つめてから、こう言った。

「この本って、やっぱり持ってきちゃいけなかったのかな…。本棚の奥の方に置いてあったし、お店のおじいさんも、お母さんも、この本見てから、なんだか…。」

『ウタは読んでどう思った?』

ビブが聞いてきた。

「読んだけど、難しい字があって、全部は読めてない。…よく分からないの。」

『リオ、読んであげなよ。』

ビブが、リオの方へコロンコロンと転がっていった。

「えっ?リオは読めるの?読んでくれるの?」

リオは、光を灯したままうなずいた。光は、呼吸をするように弱くなったり、強くなったりを繰り返している。まるでホタルみたいだとウタは思った。

「リオはきれいだね。ねぇ、あなたたちは、ずっとこのままわたしの側にいてくれるの?」

ビブがにっこりと笑ってから、リオが言葉を発した。

『私たちはいつもウタの側にいるから。』

そう言うと、リオは【オータムポエム】を読み聞かせてくれた。

はじめて聞いたリオの声は、どこかで聞いたことがあるような、安心する声だった。どこだったかな?いつも聞いていたような気がするんだけどな。

リオのほのかな光と、やわらかい声に包まれて、ウタはいつの間にか眠ってしまった。



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7.本のひみつ

【オータムポエム】を抱えて、こっそりおじいさんの所へ話を聞きに行こうとしていたウタに、目ざとく母親が声をかけた。

「あの古本屋に行くんでしょう?」

どうして分かったのか、ウタには分からなかったが、こんなふうにいつも母親にはウタのやることが何でも分かっているようだった。

「…いけないの?」


「一人じゃ、ダメ。お母さんも一緒に行く。…本を貰ったお礼もしないといけないし…」

ウタはひとまずホッとしたが、古本屋のおじいさんに会って、何を言うんだろう?と不安でもあった。



「お久しぶりです。」

おじいさんに会うなり、お母さんはそう言ってあいさつをした。

(やっぱり知ってる人なんだ。)

おじいさんは、また地の底から響くような声で何か言った。


ウタは、【オータムポエム】を抱える手に力が入った。今、ビブとリオがいてくれたら心強いのに。いや、多分、本の中で聞いているはずだから…。


「この子は、私の子。ウタっていうの。漢字で"詩"って書いて、ウタ。」

お母さんがそう言いながら、空中に指で"詩"と書いた。

「ウタに本をくださって、有難うございます。」


「詩、ウタか。」

おじいさんは十数年前、自分の娘と一緒に、あいさつにやって来た文学青年のことを思い出していた。

頼りなさげな、しかし繊細で誠実そうだった青年の顔は、今、目の前で、自分が書いた本を大事そうに抱える小さな女の子の顔と重なった。

「ウタは、父親似だな。野山をかけずり回って、本なんか見向きもしなかったお前とは、全然似ていない。」

おじいさんにそう言われて、お母さんがいたずらっぽくニヒヒと笑った。そんな母親も、今まで見たことが無かったが、ウタの心を嬉しくさせる表情だった。


「悪かったな…今まで。…あの時は、結婚を、認めてやれなくて………」

おじいさんは、まだ何か言いたげでゴニョゴニョしていたが、

「ねぇ、お父さん。今度、みんな一緒にウチでご飯食べよう!」

お母さんが元気良く、さえぎった。



古本屋にもまたいつでも遊びに来ていいと、おじいさんと母親に言われ、安心したウタは、自室で【オータムポエム】を開いた。ビブとリオにも教えてあげようと思ったのだ。あのおじいさんは、わたしのおじいちゃんだったんだよ、と。


「ビブ、リオ。」

ひょっこり顔を出した彼らは、今にも消えそうに薄かった。

「二人とも、どうしたの?」


『あぁ、時間切れかな。』

ビブが、にべも無くそう言った。

「時間切れって?消えちゃうの?なんで?ずっと側にいてくれるって言ったよね?ビブはまた、適当なことを言ってからかってるんだよね?」

『ウタ。…ぼくたちは…』

「イヤだよ!」

ウタは、真面目な顔をしたビブに最後まで何か言わせると消えてしまうのだろうと思ったので、言わせないようにしようと泣きじゃくった。


『ウタ。』

リオが、やわらかい声でウタを呼んだ。この声も聞こえなくなってしまうのかと思うと悲しかった。

『そんな顔しないで。こんなふうに動く姿が見えなくなっても、声が聞こえなくなっても、わたしたちはこの本の中に、ずっとウタの側にいるから…。』

そう言って、にっこり笑った彼らは挿し絵に戻ってしまった。

ウタは涙が止まらなくなった。

赤ちゃんみたいに大声で泣いた。




「ウタ、ウタ。」

リオの声だ。

涙でよく見えなかったが、リオの声がする。帰って来てくれたんだ。

「ウタったら、なに泣いてるの?」

涙を拭ってくれたのは、お母さんだった。


そっか。リオの声、どこかで聞いたことがあったのは、お母さんの声と同じだったんだ。


「側にいるから。そんな顔しないで。」



「うん。」

ウタは、挿し絵のビブとリオを、指でそっと撫でた。



-おしまい-




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