ムルキーヤ(中東のモロヘイヤスープ)の構造
新鮮なモロヘイヤが手に入った。なかなか手に入りづらいものなので、きちんと調べてモロヘイヤスープを作ってみることにした。
ムルキーヤとは
そもそもムルキーヤという名前自体なじみがない、というか私も調べていく中で知った。「モロヘイヤスープ」に名前があるのか?と思って調べるとムルキーヤという名前で呼ばれているらしい。ただ「ムルキーヤ」はそのまま「モロヘイヤ」の意味であるので、名前があってないようなものである。
余談だがモロヘイヤのつづりや呼び名は安定しておらず、英語表記だけでもMulukhiyah、Molokheyya、Molokhia、Mulukkhiyyah、Jute mallow、Jew’s mallowなどめちゃくちゃある。検索エンジンだとこのへんを加味して検索結果が出てくれるのだが文字だけで検索する際はややこしい。
なんとなくだがMolokhiaという綴りが個人的にはすっきりしていて好きなので以降これを中心に使うことにする。
エジプト式とレバノン式
レシピを調べていくとムルキーヤのレシピにもエジプト式とレバノン式の2つがあるらしいことがわかってきた。
著作権の関係で画像を直接載せられないのでリンクを貼ると、エジプト式(画像検索結果)では鮮やかな緑色のポタージュ、さながらインド料理屋で出てくるほうれん草カレー(サーグカレー)のような見た目になっており、レバノン式(画像検索結果)ではひじきというか茶葉というか、ペーストではなく炒め物に近い印象を受ける。
2つとも調べてもいいのだが、さすがに1回分のモロヘイヤで作れるのはどちらか1つだけなので今回はエジプト式に絞って紹介していくことにする。以下記載はすべてエジプト式をベースとしている。
料理の構成要素
スープの構成要素としては以下の3つのパートに分けられる。
・チキンスープ
・ドロドロ状態になったモロヘイヤ
・ガーリックオイル
そして、この構成要素それぞれをどこまでこだわるか、およびどういう順番で調理するか、によって様々なレシピのバリエーションがあるが、共通する構造としてはこのスープ・モロヘイヤ・オイルの3つである。
あとはトッピング的にお肉を加えることもあるが、これはおまけ要素としてとらえた方が解釈が簡単ではないかと思う。
料理の手順
おおまかに分けて2通りのやり方がある。日本語で載っているレシピはほとんど前者のやり方が多いように思う。
理解さえしてしまえばシンプルな手順なのだが、それぞれイメージがつきにくいかもしれないので具体的な動画も載せる。
<1つの鍋で調理するパターン>
1.ガーリックオイルを作る
2.オイルが入っているところに別で作ったチキンスープを投入する
(または、一緒にチキンを炒めてそのままそこでチキンスープを作る)
3.チキンスープが煮立ったらモロヘイヤを入れて煮込む
<オイルを別で作るパターン>
1.チキンスープを作る
2.チキンスープにモロヘイヤを入れて煮込む
3.ガーリックオイルを作る
4.チキンスープ&モロヘイヤにガーリックオイルをかける
5.(おまけ工程)モロヘイヤスープの一部をフライパンに入れてガーリックオイルを絡めた上で鍋に戻す 下記動画 1:30~
では、大まかな手順がわかったところでそれぞれのパートをどう作っていくかに入っていこう。
チキンスープ
チキンスープに関してはこだわりがかなり分かれるところである。
究極的には鶏がらスープの素を入れるだけでもいいし、最大限こだわると下記レシピのようにもなる。
こちらのレシピではもういろんな野菜やスパイスを入れるわ丸鶏も入れるわでえらいことになっている。正直ここまで手をかけるならもはやそのスープ単体で飲んだほうがいいのではないかとすら思う。
チキンスープの作り方自体はこだわりだすとそれはそれでまた相当難題になるのでいったん触れないことにしよう。しいていうと、鶏がらスープだとどうしても中華っぽくなってしまうのでは?と思われるので、チキンブイヨンまたはコンソメスープを入れることで解決したい。
微こだわりするとすれば、あとでモロヘイヤスープにトッピングするために鶏むね肉をゆでておき、そのゆで汁にブイヨンやコンソメを溶かすことでよりチキン感を強調したスープになるのではないか、と考えている。
なお、エジプトではこの部分にうさぎ肉を使ったスープなどが使われることもあるという。
モロヘイヤ
モロヘイヤに関しては、茎から葉っぱ部分だけをちぎって、あとはとにかく刻むのみ!生のモロヘイヤでも刻んでいるうちに粘り気が出てきて最終的にジェノベーゼペーストのような状態になる。
なお、生のモロヘイヤから葉っぱ部分だけをちぎるとだいたい半分ぐらいの重さになる。海外のレシピでは冷凍モロヘイヤをベースに作られているものも多く、そのレシピを参考に生のモロヘイヤを使う場合は分量調整が必要。
レシピによってはミキサーを使用しているものもあるが、丁寧に刻んだほうが美味しいと言われている。また、海外だと刻んでブロック状に冷凍したモロヘイヤが売られており、それをそのままスープにも入れてもよい。楽。
ガーリックオイル
ガーリックオイルに関してはかなりニンニクをきかせており、2人前でにんにく3つは使うがもっと多くてもいいという。オイル部分はオリーブオイルでもよいのだが、バターやギー(インドのバター)を使うとより濃厚に仕上がる。
実際にはここにコリアンダーパウダーも入るため、オイルまたはバター類を熱し、にんにくとコリアンダーを加えて香りを立たせるという形になる。
結論としてのレシピ
ムルキーヤはシンプルな構成ながらどこにこだわりを置くかでバリエーションが多い料理になっているので、いろいろ調べていくと袋小路に迷い込む。
なのでまとめた結果としてこの2つがレシピとしてはありえるんじゃないか?というものを書いてみた。
<共通の準備工程>
1.モロヘイヤはペースト状になるまで細かく刻む
2.にんにくもみじん切りにしておく
3.お肉はやや大きめの一口大ぐらいに切る
<シンプルバージョン>
材料の比率
オリーブオイル 大さじ1
にんにく 1~2かけ
鶏肉(むねまたはもも) 50~100g
モロヘイヤ 100~200g(1束~2束)
水 400ml
コンソメキューブ だいたい1つ(お使いの商品の表示に合わせて、水の分量にそって変える)
※なぜこんなに幅があるかというと、どのぐらいドロドロしたスープにしたいかによって自由に変えてよいため
塩 最後の味調整
手順
1.オリーブオイルを鍋に入れにんにくを炒める
2.にんにくの香りが立ち、少し色が付いてきたら鶏肉を投入して炒める
3.鶏肉に色がついてきたら水とコンソメを入れてチキンスープにする
4.チキンスープが沸いたらモロヘイヤを投入する
5.モロヘイヤを5分ほど煮込んで、おおむねスープと一体化したなと思ったら完成。このときに、グツグツと煮込まないこと。あくまで弱火。
6.味見してピンと来なければ塩で調整するとよい
<ややこだわりバージョン>
材料の比率
(ガーリックオイル用)
バター 10~20g
にんにく 2~3かけ
コリアンダーパウダー 小さじ1~3
(チキンスープ用)
オリーブオイル 大さじ1
にんにく 1かけ
コリアンダーパウダー 大さじ1
鶏肉(むねまたはもも) 100~200g
※お好みで骨つきのもの、例えば手羽先などを加えても
水 600ml
ブイヨンまたはコンソメキューブ 2つ ※お使いの商品による
(モロヘイヤ)
モロヘイヤ 100~200g
手順
1.オリーブオイルを鍋に入れにんにくを炒める
2.にんにくの香りが立ったら鶏肉&コリアンダーパウダーを入れて炒める
3.表面にあらかた焼き色がついたら水とコンソメキューブを入れて10分ほど煮る
4.別の鍋を用意しそちらにまずドロドロのモロヘイヤを入れる
5.前述の工程でできたチキンスープを適量入れる(適量というのはどのぐらいドロドロしたスープにしたいかによる)
6.チキンスープ&モロヘイヤ(以下モロヘイヤスープ)を温める
7.弱火で10分ほど温める、グツグツさせない
8.その間に別のフライパンでバターを溶かす
9.溶かしたバターににんにくおよびコリアンダーを入れる
10.にんにく等の香りが立ち、かつ前述のとおりモロヘイヤスープを10分温めたらそのオイルをチキンスープ&モロヘイヤに入れる
11.オイルの入っていたフライパンにモロヘイヤスープを一部戻してオイルを馴染ませてから再度戻す、という作業を3回ぐらい行う
12.完成。好みに応じて塩で味調整してもよい
実際には微こだわりバージョンに準じて作ってみた。ガーリックオイルを別鍋で作ってみるとわかるのだが、バターとにんにく・コリアンダーパウダーを加えると割と固体に近くなり、単にこそげて入れるだけではせっかくのオイルを全部移せないのでモロヘイヤを入れる→戻すという工程は必要だなという気がした。もしくは、ガーリックオイルに直接チキンスープを投入するのも一理ある。
完成したものを食べるとモロヘイヤの独特な香りとにんにくの香り、そしてねばねば感が合わさってなんとも食べたことのないスープになった。食感はとろろに近いがとろろをスープの量で食べないので非常に斬新。
面白い味なので好き嫌いは分かれるかなと思う。
そもそも正解はどこで食えるのか
モロヘイヤスープはうまいらしい、ということで作ろうと思い立ったがよく考えるとそもそも正解のモロヘイヤスープを食べたことがないのである。
というわけで順番が前後してしまうが東京中心部である程度正当そうなモロヘイヤスープが食べれるお店をいくつか記載しておく。なお、いずれもエジプト式のモロヘイヤスープのようである。
エジプトの国民食「コシャリ」の専門店。日替わりでスープを出していて、モロヘイヤスープが出ることもあるらしい。というかそもそもコシャリも食べてみたいね。
エジプト料理専門店。名前は聞いたことがあるのだが未だに行っていない。
広尾のアラブ圏料理屋。こちらは行ったことがありランチがかなり美味しかった。ただモロヘイヤスープはランチでは無かったような気もする。日替わりスープがあるようなので、そこで運が良いと出るかもしれない。
2020年7月にオープンした比較的新しいお店。最近料理長が変わって2021年6月にリニューアルオープンした。モロヘイヤスープの他にもレンズ豆のスープやアラブ圏のパスタ入りのトマトスープなどがある。
参考文献・サイト
https://homeisakitchen.com/2013/04/25/molokhia-soup-recipe/
シンプルムルキーヤレシピ(英語)。いろいろ試してみたが逆に余計なことをしないほうが美味しくできた、と著者の体験談。まずはあれこれスパイスを入れるより、シンプルににんにくのみでやってみた方がよさそう。
https://recipe.tirakita.com/recipe/957/
エスニック雑貨でおなじみTIRAKITAのレシピ。モロヘイヤを1回ゆでるプロセスが入っており、モロヘイヤ独特のえぐみ(シュウ酸)を取るためにはそれもありかとは思う。現地系は生で使うレシピしかなさそうだ。
https://cookpad.com/recipe/1927615
チキンストックの作り方も含めかなり詳しく書いてあるクックパッドのレシピ。エジプトで習ったとのこと。
https://rimulab.com/molokheiya/
エジプト料理についてかなりいろいろ書かれているエジプト在住の方のブログ。この他にも興味深いレシピが多数。