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辻仁成⑤(番外編)~複数回の奇跡

 ECHOES LIVE RUSTから4年が経とうとしていた。
 LOST CHILDは大学生となり、それなりな日々を過ごしていた。
 そんなある日、FMラジオ番組の公開収録に、アルバム『第三反抗期』のプロモーションで辻仁成が来るとの知らせを聞く。そりゃ見に行くよね、と約4年ぶりの仁成に会えることを一日千秋の思いで待ちわびていた。

出演前に店頭で配られていたレコード店作成のチラシ

 そして迎えた当日。大学の授業を終え、収録現場となるレコード店の公開スタジオの前に着く。見に来た観客は20人程度。まあ平日の夕方だし、そんなに人は来ないかと周りを見ながら思った。
 そして本番。公開の軽快なトークが20分ほど続き、ゲストコーナーへ。その前のCM中に、見ている我らの裏に従業員入口があり、そこからフラッと仁成が出てきた。
 うわっ!と驚く自分の横を笑顔で通っていく仁成。その距離1mもない。呆然としながら公開スタジオに入ってく仁成を眺める。

 ゲストコーナーで話した内容は、『第三反抗期』の内容や、クランクアップして間もない初監督作品の『天使のわけまえ』の撮影秘話などが中心だったと思う。憧れたロッカーが至近距離中の至近距離を通っていって、目の前にいるのだもの、話はあまり頭に入っていなかったのが正直なところだった。
 そして最後に『天使のわけまえ』(だったと思う)を流し、ゲストコーナー終了。また従業員入口に入っていくため、仁成が至近距離にやってきた。声を振り絞り、「仁成!」と声をかけて右手を差し出した。そうしたら仁成は笑顔で自分の目をしっかり見つめながら握手をしてくれた。そして再び従業員入口に消えていった。
 あ、これ、もう死んでも文句ないわ・・・ そんな感じで呆然としながら余韻を嚙み締め、立ち尽くしたのだった。


 さらに月日は流れ、2017年のこと。
 仁成が一人ツアーで我が街にやってくることを知る。
 今まで何度もツアーは来てたのだが、仕事やらどうしても外せない用事などが見事に重なり、一度もソロのライブに行けなかった。
 しかし今回は仕事も用事も無く、ECHOES LIVE RUSTから実に26年ぶりに仁成の歌が聴けることになった。四半世紀以上過ぎていたのだなあ(遠い目)。
 
 これまた一日千秋の思いで待ち焦がれた2017年7月9日当日。会場は街中心部から少し外れたとこにあるライブバーだった。そして今回は全席自由とのこと。
 会場の中に入ると、椅子の数は50~60程度。良い席あるかなと見てみたら、なんと、最前列の真ん中から少し右寄りの位置に一席だけ空席があった。なにこの奇跡。
 嘘だろと思いつつ、空席であることを隣の方に確認して着席。
 ステージは段差など無く、フラットで観客席と同じ高さ。そして近い。最前列の自分の位置からはおよそ3mくらいの距離しかない。最後列でも10mも離れていないだろう。なんだよこの近さ。

 そして定刻になり、スタッフ入口から仁成登場。
 軽く挨拶代わりにMCをしてからギター一本で歌い始める。
 ライブはソロ曲はもちろん、アルバム『命の詩』Ver.のSomeone Like Youや、客席からリクエストを募りGENTLE LANDを即興で歌ったり、ECHOES時代の曲もけっこうな数やってくれた。
 26年前に見たクセ毛に黒のヘアバンドをしてた革ジャン姿のロッカーではなく、泥臭いどストレートな歌い方もしていない。2017年現在のビジュアル、歌い方の仁成がそこにいた。しかし歌に対して取り組む根っこの部分は何も変わってない。目の前の仁成を見聴きしながら、そんなことを思っていた。
 
 アンコールも含め2時間以上のライブは幕を閉じた。
 余韻を噛み締めながら外に出ると、20人くらいが店の前で仁成の出待ちをしていた。面白いのが、店や通行の邪魔にならないよう固まりにならず、皆きちんと周囲に空白を作っていた。
 仁成に渡そうと持って来たものがあるので、自分も出待ちの中の一人として周囲に溶け込んでいた。
 
 30分以上は待っただろうか、ギターケースを抱えた仁成が出てきた。すぐさまファンに取り囲まれ、差し出されたCDや色紙にサインを走らせ即席サイン会が開催された。
 タイミングを見計らって俺も図々しく、アルバム『君から遠く離れて』のジャケットと、今は亡き下村誠氏の著作『Tug Of Street』の表紙にサインを書いてもらった。サインを見ると、ライブだからJINSEI TSUJIと書いてあるのが改めて嬉しい。

家宝ですよ家宝
HitonariでなくJinseiなのが嬉しい

 そして、「仁成、これ後で読んでください!」と一冊のノートを差し出した。「ん?」と仁成は言いながらノートを開いた。それは前回少し書いた、ECHOES時代の記事を集めたスクラップ帳だった。仁成が開いたノートの一部を一緒に見た周りのファンの方々から「お~!」「すごい!」と言っていただき、当の仁成は
 「これは重いなあ(←たぶん気持ちがという意味かと自分は思ってる)」と笑いながら目を通し、ありがとう、と言いながら手に持ってタクシーに乗り込んで行った。
 
 そして翌日、仁成のツイートを見て目を丸くした。
 なんと昨日渡したスクラップのことを画像付きでツイートしてくれたのだ。
 また呆然としたわけで、はい。もうファン冥利に尽きるわこれ・・・と。

このツイート見た時の衝撃たるや
よく見ると、切り抜いた雑誌の名前が書いてます
すばる文学賞受賞直後の週刊プレイボーイのインタビュー記事
看板、仁成がチョイスしたんだろうなあ
ラジオパラダイスの仁成ANN最終回レポ記事

 それから7年が過ぎた今年、2024年。
 公的な人前でのライブは最後と宣言し、ラストツアーが行われる。
 ECHOESの最後も見届けたのだから、ミュージシャン辻仁成の最後も見届けねばという勝手な責任感の元、千秋楽となる大阪へ91年と同じく飛行機に乗って北海道から参加する。
 2024年、これ着て参加するのは自分ぐらいだろうと確信してる。

けっこう勇気いるよな・・・

 


 

 

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