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音楽史年表記事編42.モーツァルト擁護派と冷遇派

 ミラノ公フェルディナンドはモーツァルトの婚礼祝典オペラ「アルバのアスカーニョ」上演後、モーツァルトを宮廷楽長として雇い入れることを女帝マリア・テレジアに申し入れますが、女帝はモーツァルト父子を侮辱する手紙をフェルディナンド公に送り、ミラノ公の提案を反故にしました。女帝マリア・テレジアはモーツァルト父子が西方大旅行で敵対するプロイセンの同盟国であるイギリスを訪問したことを許すことができなかったからと考えられます。一方の啓蒙主義者のヨーゼフ2世は、モーツァルトが啓蒙主義発祥の地であるイギリスを訪問することについては全く問題はないと考えたと見られます。そして、マリア・テレジアはフェルディナンド公に手紙を送ったことで、モーツァルトを冷遇する敵対派となりました。こうして、ウィーンの宮廷は、モーツァルトを作曲家としてその技量を認める擁護派と、モーツァルトに敵対する冷遇派に分かれることになります。
 女帝マリア・テレジアと若き皇帝ヨーゼフ2世はプロイセンのフリードリヒ2世をめぐり確執がありましたが、マリア・テレジアがポーランドのシレジアの領有をめぐり徹底してフリードリヒ2世に敵対したのに対し、ヨーゼフ2世はフリードリヒ2世を啓蒙君主として敬愛していました。
 モーツァルト擁護派の皇帝ヨーゼフ2世、フェルディナンド大公、マクシミリアン大公はいずれも、1768年にウィーンの孤児院の献堂式で行われた孤児院ミサ曲ハ短調K.139の初演を聴き、12歳のモーツァルトの音楽に感動し、モーツァルトを作曲家として敬愛していました。一方のモーツァルト冷遇派の女帝マリア・テレジア、当時トスカーナ大公のレオポルト公はモーツァルトの作品を一度も聴いたことはなく、マリア・テレジアのプロイセンへの敵対心から生じたモーツァルト父子への不快感から権威主義に背くものと考えたようです。

 1771年モーツァルトはミラノでフェルディナンド公の婚礼祝典オペラ「アルバのアスカーニョ」を成功させ、ザルツブルクに帰りますが、その翌日にザルツブルクのシュラッテンバッハ大司教が亡くなります。翌年、新しい大司教としてコロレドが赴任しますが、おそらくコロレド大司教は女帝マリア・テレジアからモーツァルト父子を冷遇するように言い含められていたものと思われます。こうして、モーツァルトは不遇なザルツブルク時代を送ることになりますが、モーツァルト擁護派の皇帝ヨーゼフ2世はモーツァルトに救いの手を差しのべたのでしょう。1774年にバイエルン宮廷のマクシミリアン3世選帝侯からオペラ「偽りの女庭師」K.196の委嘱が届きますが、これは恐らくヨーゼフ2世の後妻マリア・ヨゼファーの兄であるマクシミリアン3世選帝侯への皇帝ヨーゼフ2世の働きかけによったものと見られます。

【音楽史年表より】
1771年12/15、モーツァルト(15)
モーツァルト父子、第2回イタリア旅行を終え、ザルツブルクに帰郷する。(1)
12/16、モーツァルト(15)
ザルツブルク大司教シュラッテンバッハが74歳で死去する。(1)
12/31作曲、ミヒャエル・ハイドン(34)、独唱4部、混声合唱、管弦楽、通奏低音のための「死者のためのミサ曲」ハ短調
ザルツブルク大司教ジキスムント・シュラッテンバッハの死に際してわずか2週間という期間で作曲される。ミヒャエル・ハイドンの傑作のひとつに数えられ、合唱声部の書法は完成された見事さをたたえており、モーツァルトのレクイエム作曲にも、多大な印象を与えたとされる。(2)
1772年1/2~1/4、モーツァルト(15)
故シュラッテンバッハ追悼のミサが執り行われ、急遽作曲されたミヒャエル・ハイドンの「レクイエム」ハ短調が演奏される。この曲はモーツァルトが20年後に遺作として作曲する「レクイエム」ニ短調K.626に大きな影響を与える。(3)
10/24、モーツァルト(16)
モーツァルト父子は第1回イタリア旅行中に依頼されたミラノの謝肉祭オペラ作曲の約束を果たすためイタリアへ向けて旅立つ(第3回イタリア旅行、約4ヶ月半)。今回の謝肉祭オペラの題名は「ルーチョ・シッラ」、台本はミラノの若い劇場付詩人ジョバンニ・デ・ガメッラによるものであった。(1)
12/26初演、モーツァルト(16)、歌劇「ルーチョ・シッラ」K.135
ミラノの宮廷劇場(レージョ・ドゥカーレ・テアトロ)で初演される。この日はフェルディナンド大公の都合で開演が大幅に遅れ、バレエを含む6時間余りの上演が終わったのは夜中の2時であったという。「ルーチョ・シッラ」はこの後、初演を含めた上演回数が26回に達し、その影響で謝肉祭のメインのオペラであるパイジェッロの作品の初日が1週間延期された。モーツァルトはこの作品以降、二度とミラノからの作品依頼を受けることはなかった。(4)。
【参考文献】
1.モーツァルト事典(東京書籍)
2.新名曲解説全集(音楽之友社)
3.西川尚生著・作曲家・人と作品 モーツァルト(音楽之友社)
4.作曲家別名曲解説ライブラリー・モーツァルト(音楽之友社)

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