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第2回 ゴッドファーザー(1972・米)
さて、ヤクザ映画がホモであることは前回散々説明しました。それなら海の向こうではどうか?マフィアはどうなのか?もちろんホモです。
マフィア映画は当らないというジンクスがハリウッドには長くありました。そのジンクスを打ち破ったのが今作です。フランシス・コッポラはこのヒットで今の地位を築いたのです。
見た事は無くても「愛のテーマ」は聞いたことがあるはずです。そういうメインテーマだけ知っている映画は世間に案外沢山あるものです。
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真面目に解説
こんなに違うヤクザとマフィア
マフィアは日本のヤクザと違って目立つのを嫌うと変態そのものの格好をしたマフィアが説く漫画がありますが、ヤクザとマフィアは結構違います。
そもそも、マフィアとはあくまでシチリア系の犯罪組織を指す言葉であって、ロシアンマフィアとかチャイニーズマフィアというのは造語であり、イタリア系でもシチリア系でなければギャングと呼ぶのが本当です。
第一にマフィアは血縁に拘ります。ボスの座は世襲であり、原則としてシチリア系しかファミリーに入れません。
一方日本のヤクザの多くは差別される出自の人であることが知られていますが、これは社会でそういう人たちを受け入れてくれるのはヤクザだけだったという悲しい背景があります。そして組長の息子が跡目を取るというのはむしろレアケースです。
一方、仕事内容はそんなに変わらないことが窺えます。賭博、売春、麻薬、恐喝、ショービジネス、いちいち各業界とズブズブであることや手口が事細かに描かれるのは、まさにマフィアが目立つのを嫌い、一部の裏切り者の証言でしか実態が知れないミステリアスな存在であることが関係しています。何しろ当局が顔さえ把握していない大物が居るくらいです。
マフィアの実態を余すことなく描いたこの映画が全米の人にいかほどの衝撃を与えたかは大ヒットしたことが証明しています。
あれ?デニーロは?
ゴッドファーザー=ロバート・デ・ニーロと連想する人が世間には多いでしょうが、実はデニーロは今作には出てきません。彼の出番はPart2、ヴィトーの若い頃がデニーロなのです。
コルレオーネファミリーのゴッドファーザー、ヴィトー・コルレオーネを演じるのはマーロン・ブランド。太っ腹で義理人情に富み、底知れぬ迫力を持つ完璧な大親分です。オスカーは当然でしょう。
映画はヴィトーの旧友である葬儀屋のボナセーラ(サルヴァトーレ・コルシット)が娘を強姦した下手人への報復を依頼するところから始まります。
ヴィトーは疎遠だったボナセーラが泣きついてきたことに嫌味を言いつつ、娘の結婚式の日には頼み事は断れないというシチリアの慣習に基づいて報復を指示します。
このシーンにマフィアの体現者たるヴィトーの本質が明らかになるのです。コッポラ一世一代のファインプレーだったというべきでしょう。
楽しいコルレオーネファミリー
ヴィトーは息子三人娘一人の子沢山で、末の娘のコニー(タリア・シャイア)とファミリーの一人であるカルロ(ジャンニ・ルッソ)の結婚式を盛大に執り行うところから映画が始まります。イタリア人、わけてもマフィアは家族を大切にするのです。
その延長線でしょうか、『ロッキー』のエイドリアン役で名高いシャイアは実はコッポラの妹であり、本作の音楽はニーノ・ロータですが、二人の父親のカーマインが『パートII』以降の音楽を担当し、コニーとカルロの息子のマイケル・フランシスは赤ちゃんのソフィア・コッポラが演じています。
これは何もコッポラの過剰な身贔屓とは言い切れず、イタリア系の監督は家族や友人を重用しがちです。イタリア系はアメリカでは立場が弱く、そうやって生き抜いてきたのも確かなのです。
マフィアは世襲なので、血気盛んな長男ソニー(ジェームズ・カーン)が後継者になるのが内定しており、ソニーもちょっとアホながらも男気を披露しつつ次のボスたろうと頑張るのです。
次男のフレド(ジョン・カザール)は欧米ではミームになるほどの一家の出がらしで、商売が上手い設定ですがどうしようもないヘタレです。
男兄弟で唯一オスカーにノミネートされなかったのもネタ感を際立てていますが、ある意味非常に美味しい役と言えます。そして、BL的にはもっと美味しいのですがこれは後です。
ヴィトーの太っ腹ぶりを象徴するのが養子にして顧問弁護士のトム(ロバート・デュヴァル)の存在です。
シチリア系どころかイタリア系でさえなく、トムがファミリーに居ることを良く思わない勢力もありますが、ヴィトーはトムに実子同様の愛情を注ぎ、外野が何を言おうとファミリーの一員として重用します。
ゴッドファーザー過剰
そして主役が三男のマイケル(アル・パチーノ)です。ダートマス大卒で海兵隊の英雄というオーバースペック野郎で、ヴィトーは一番彼を誇りとしつつもカタギにしておこうと計らいますが、マフィア映画なので当然抗争が起こり、結局マイケルがゴッドファーザーになってしまいます。
マイケルはモテモテで、大学で知り合った彼女のケイ(ダイアン・キートン)を妻に迎えますが、抗争に巻き込まれてヴィトーの親友のリオネーレ(コラード・ガイパ)シチリアに落ち延びれば現地の娘のアポロニア(シモネッタ・ステファネッリ)とデキてしまいます。ただ、モテる代わりに女運は悪いのがシリーズを通じての笑いどころかもしれません。
最初はカタギエリートのマイケルがマフィアになれるか半信半疑だった周囲も、マイケルが抗争で修羅場をくぐるにつれて認めてくれるようになり、最後はヴィトーより数段ヤバいタイプのゴッドファーザーになっていきます。その過程を楽しむのがこのシリーズと言ってもいいでしょう。
血は繋がっていなくても
さて、マフィアは血縁にこだわるといっても彼らは信心深く、愛人はOKでも離婚はNGという倫理観に生きているので、完全な家族経営のマフィアというのはありません。当然シチリア系ではあっても血縁はない幹部が居て、手下が居ます。
ヴィトーの両腕というべき存在が『パートI I 』でいちゃいちゃしていたクレメンザ(リチャード・S・カステラーノ)とテシオ(エイブ・ヴィゴダ)のコンビで、むしろBL的観点から言えば時系列順に観るべきかもしれません。
本作の華である暗殺に大活躍する手下達も印象的で、特に元警官のチッチ(ジョー・スピネル)は特筆すべき男です。
というのも、スピネルは後に『ロッキー』に出演し、フィラデルフィアのマフィアとしてコニーの亭主たるロッキーを物心両面で支援するのです。こういうクロスオーバーも映画の楽しみ方の一つです。
断れない頼み方
これはこの映画を象徴する映画史に残る名セリフの一つです。
ヴィトーはショービジネスの世界に深く食い込んでいて、フォンテーン(アル・マルティーノ)という明らかにフランク・シナトラがモデルの歌手の面倒を見ています。
フォンテーンは落ち目の上に新人女優に手を付けて窮地に追い込まれており、一発逆転の為に映画の役が欲しいとヴィトーに泣き付きます。
映画のプロデューサーの元へトムが差し向けられて穏便に交渉しますが、プロデューサーは頼みを拒絶し、ベッドに愛馬の首を放り込まれて結局要求を飲む羽目になります。
これはトムが明らかにシチリア系ではない事を利用しているわけで、馬の首という絵面以上にヴィトーの恐ろしさが強調されるシーンです。
他にもマイケルが待ち合わせに伝説のボクサーのジャック・デンプシーのレストランを利用するのも見逃せない点です。
ボクシングと裏社会の繋がりは日本に限った話ではないのです。男山根なんて目じゃありません。若き日のヴィトーが主演の『レイジング・ブル』でもその辺はがっつり描かれています。
コッポラ大暴れ
とにかく人に死に方が印象的な映画です。フランシス・コッポラの手腕が如何なく発揮されています。いちいち格好良く印象的に殺された彼らが後世の作品に与えた影響は計り知れません。
そして当時は評論家筋には受けても客が入らないと嫌われていたコッポラは、今作のヒットを機にイキり始め、馬鹿みたいに金と手間をかけて映画を撮る、決して関わり合いになりたくないタイプの巨匠へと変身するのです。
BL的に解説
マーロン・ブランドはガチ
作品と人格を分けるべきという人がいます。しかし、BLとは毛ほどのホモ要素を無限に膨らませるものだと私は思っています。なれば作品と人格を分けるのは損です。
というわけで、ヴィトーを演じるマーロン・ブランドは本当に男もイケる口だったことを見逃すわけにはいきません。
この人は女好きでも有名でしたが、ジェームス・ディーンだの、ポール・ニューマンだの、ビッグネーム目白押しの男性遍歴を晩年に告白しています。
バイのサル・ミネオは「男は皆ニューマン程度にバイ」と言っていましたが、この分だと50年代のハリウッドの相姦もとい相関図は大変な事になりそうです。可能性は無限大です。
そしてマフィアの習慣として、作中でいちいち男同士でハグやキスが安売りされるのがホモ臭さを助長します。そう考えるとブランドの役得としか思えません。
ヴィトー×ボナセーラ
本筋に戻りましょう。いきなりボナセーラの娘の敵討ちの依頼からこの映画は始まるわけです。ボナセーラはヴィトーとは娘の名付け親になってもらうほどの旧知の仲ですが、疎遠になっていました。
しかし、疎遠だった癖にと散々恨み言を言いながら金より改めて友達として頼めと言われ、手の甲にキスをして忠誠を誓って改めて頼むとあっさりヴィトーは頼みを引き受けます。
つまり、少なくともヴィトーにとってはボナセーラは大切な友であったということです。学園ものBLにありがちな、不良が幼馴染の優等生を一方的に大事に思っているとかの構図と大して変わりません。古典的なシチュエーションでも地位のあるおっさん同士でやられると破壊力が増します。
そしてボナセーラに貸しを作ったヴィトーは、穴だらけになったソニーの遺体の修復をボナセーラに頼みます。ボナセーラという人間と修復の腕を高く信頼している証拠です。ボナセーラも意気に感じて一世一代の仕事をしたことでしょう。これぞ男と男の友情です。実は私の考える今作のベストカップルであります。
ヴィトー×トム
ヴィトーはトムを実子達と平等に育て、トムは腕利きの弁護士としてファミリーの屋台骨を支えています。
シチリア系でないトムの抜擢は内外から嫌な顔をされますが、それでもヴィトーはトムを外しません。有能で大事な息子です。
トムもヴィトーに恩を返そうと必死に頑張ります。二人の間に親子以上の特別な関係が芽生えていたとしても何ら驚くことはありません。養子とはそういうものです。
ソニー×トム
そしてトムが何故ファミリーに迎えられたかが大事です。ジェームズ・カーン演じるソニーが孤児のトムをどこからか連れてきたのです。そして兄弟になった二人の仲の尊さときたらありません。
トムは次期ボスであるソニーを立てる一方、ソニーは切れ者のトムの助言を重視しています。意見を巡ってやり合える程度に二人は平等です。
そして抗争の方針を巡って衝突し、ソニーは思わず「相談役がシチリア人なら」と口走ってしまいますが、不味い事を言ったとすぐ気付き、「本気じゃないんだ」と謝って必死に取り繕おうとします。
トムはカメラに背を向けているので顔は確認できませんが、さぞ悲しい表情をしているはずです。言うことは一つ、お前ら絶対デキてるだろ。
マイケルハーレム
皆マイケル好きすぎです。私がレビューに際して観たNetflix版ではCV森川智之ですから、二回も結婚しているのにホモジゴロぶりが強調されます。
そして、アル・パチーノにニューヨークとくれば伝説のハードゲイ映画『クルージング』を外すことができません。ただ、悲しいから彼はゲイには人気がありません。
ヴィトーは明らかにマイケルを一番可愛がってますし、兄達も暗殺の申し出にぎょっとしつつもその度胸を高く買い、特にソニーは最初は馬鹿にしていたくせに一番湿っぽいムードで送り出します。
最後は裏切り者として殺されるカルロも自分を取り立ててくれた恩義を持っています。
子分たちもマイケルがマフィアの世界に入ってくるのがなんだかんだ嬉しそうです。特にクレメンザは大人数の料理の作り方や暗殺の具体的手法など、マフィアの心得を説く様が見るからにウキウキしています。戦国時代の武将は小姓が一人前の武士になった時、ああいう顔をしたのではないかと思います。
フレドはホモ
一番地味でヘタレなフレドですが、彼は原作の小説の続編でホモに目覚めたことが明記されています。
そして原作ではホテル経営が意外に上手なことが描かれています。実際ホテルマンにはゲイが多いそうです。彼についてはこのくらいです。
お勧めの映画
独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介し
『アンタッチャブル』(1987 米)(★★★★★)(マフィア映画の入門編に)
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(1984 米)(★★★★★)(マフィア映画の脱初心者に)
『ロッキー』(1976 米)(★★★)(ファミリー御出演)
『レイジング・ブル』(1980 米)(★★)(ヴィトー御出演)
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